ディフェンダー
本の世界は素晴らしいと俺は思う。
それまで知らなかった未知の世界へと連れて行ってくれる。
新たな世界を知る事が出来る。
幼い頃から絵本や小説が好きだった。
高校生になってもそれは変わっていない。
委員会も迷う事なく、図書委員を選んだ。
ただ、俺の通う高校には、本好きの生徒が全くと言っていいほどいない。
一時間近く、図書室にいるが誰一人本を借りてくる気配は無い。
軽く溜息をつく。
と、その時
「あの......?」
と、いきなり声が聞こえた。
声のした方を見ると、一人の背の小さな女子生徒が本を何冊か手にしていた。
「あ、ごめんなさい.......。
この本、お借りしたいんですけど......?」
「あ、はい!」
自然と嬉しくなる。
手際よく本の貸し出し手続きを済ませる。
「はい、どうぞ。」
本を渡された女子生徒は途端に笑顔になる。
「ありがとうございます!!」
頭を下げて、図書室から出て行った。
「......あの人、また来たんだ。」
図書室から出て行く女子生徒を見送りながら、俺は思った。
全く人が来ない図書室だが、あの人は時々見かける。
図書室に本を読む借りに来てくれる言わば珍しい人なのかもしれない。
だが俺にとっては、ここを利用してくれるだけで嬉しかった。
夕方になり、チャイムが鳴る。
「そろそろ閉めないとな。」
読んでいた本に栞を挟んで閉じる。
鞄を持ち、図書室から出て鍵をかける。
鍵を職員室に返しに行こうとしたその時.....。
「!?」
ほとんど生徒が残っていない校内に女の子の悲鳴が響き渡った。
「何だ.......、今の悲鳴は.....!?」
俺は悲鳴がした方へ走った。
悲鳴が聞こえたのは、とある教室からだった。
教室のドアを勢いよく開けると、中には......。
「な!?」
ついさっき本を借りに来ていた女子生徒が、見たことない謎の怪人に襲われそうになっていた。
その怪人は右手を大きな剣に変え、女子生徒に一歩一歩、迫って来ていた。
そして剣を振り上げ......!
「危ない!!」
この時、何故だが分からないが俺は咄嗟に怪人に向かって駆け出していた。
そして、思い切り怪人にタックルをお見舞いした。
バランスを崩して、倒れる怪人。
今の内だ!
「おい!大丈夫か!?」
女子生徒はいきなりの事に驚きつつも、ゆっくりと、頷いた。
「早く!ここから逃げよう!!」
俺はその子に手を差し伸べた。
女子生徒は俺の腕を掴み、立ち上がった。
とにかく逃げなきゃ!!
俺は女子生徒と共に教室を抜け出した。
一先ず、外に出よう.......!
そ考えた俺は女子生徒は校舎を飛び出し、外へ向かう。
が、しかし.....。
「!?」
校舎から出られない。
「これは一体!?」
すると女子生徒は
「恐らく、さっきのファントムの仕業です......!」
と口を開いた。
「え?」
何を言ってるんだ、この人は?
「ファントム?
こんな時に何言ってるんだ!?」
しかし、女子生徒は
「ファントムは異世界から来た怪人です。
奴らの狙いは私の持っているこの本です!」
「本?」
すると女子生徒は両手の平から一冊の本を出現させた。
「え!?」
何がどうなってるんだ......?
「この本が奴らに奪われたら、世界は滅亡します!!
何としてでも守らないと!」
その時、後ろの方から、不気味な鳴き声が聞こえた。
振り返ると、さっきの怪物、いや、ファントムが俺達に向かってくる所だった。
「見つかった!?」
咄嗟に俺は女の子の手を掴み、その場から逃げた。
「はあはあ......!」
体育館の倉庫に隠れた俺達。
どうやらファントムを巻いたようだ。
けど、いつまでもこのまま逃げるわけにはいかない。
けど、一体どうすれば......!
「あの......?」
ふと、女の子が話しかける。
「どうしたの?」
尋ねると女の子は俺にいきなり頭を下げた。
「さっきは、本の貸し出し手続きしてくれて、ありがとうございました!」
「え?」
そして女の子は笑顔で、
「お陰で読みたかった本を読む事ができます!」
と言った。
「それ、今言う事かな......?」
俺は疑問に感じた。
「ごめんなさい......、けど、どうしても言っておきたくて。」
「まあ、どういたしまして。」
と俺は返した。
「俺も嬉しいよ。
本好きな人がいてくれて。」
「え?」
「この学校の図書館さ、本を借りにくる人が全然いないんだよね......。
でも、君はいつも借りに来てくれるだろ?
だから、嬉しかったんだ。」
そこで俺は
「俺、本田 弘也。
君は?」
「じゃあ、本田さんですね!
私、リセラって言います!」
笑顔で
そのリセラという子は名乗った。
「リセラ?
えーと、 苗字は?」
「いえ、リセラだけです!」
またもや笑顔で答える。
「......。」
思えば、物凄い事になってるな......。
不気味な怪人にいきなり襲われ、助けたこの子は異世界だとか、世界が滅ぶとか、リセラとか......。
一応、頬をつねってみる。
痛い。
夢じゃないのか......。
「えーとさ、リセラでいいのかな?
変なこと聞くけど、どこから来たの?」
「この世界とは異なる世界......いわば、異世界です!」
「......。」
平気でとんでもない事言うな......。
「私は、あのファントムから大事な本を守るためにこの世界にやってきたんです。
私が居た世界はある日、ファントムに突然襲われて、大事な本が奪われたんです。」
唖然とする俺を前にリセラは続ける。
「残ったこの一冊の本が奪われたら、さっきも言った通り、世界そのものが滅ぼされます!
それで私は本と世界を守る守護者、ディフェンダーを探しているんです。」
「ディフェンダー......?」
頭がパンクしそうだ。
「ディフェンダーは特殊な力を持った、ファントムに対抗できる者の事です。
ですが、全然見つからなくて......!!
そうだ!!」
突如、大きな声を挙げたリセラ。
「本田さんは、本がお好きなんですよね!?
だったら、ディフェンダーになれるはずです!」
そしてリセラは俺に再び頭を下げた。
「お願いです!
世界と本を守る為に、ディフェンダーになってください!」
「.......はい?」
いきなりすぎるお願いに俺は思わず聞き返す。
「引き受けてくれるんですね!」
「いや、そう言う意味の、はい。じゃなくて......」
「いきなりそのディフェンダーとかになって世界とか本とか守れって言われても......。」
「でも、本田さんは本を愛してるんですよね?
だったら大丈夫です!
愛する物を守りたいと言う気持ちがあれば適合者になれます!」
するとリセラは着ている服のポケットから本を取り出した。
「私も本は大好きです!
自分の知らなかった未知なる世界を知る事が出来るんです!
本って、偉大なんです!」
「!!」
この子、俺と全く同じ事を思ってるんだ......。
俺はふと、過去の自分を思い出す。
人見知りだった俺はろくに友達もおらず、本だけが友達と呼べるくらいだった。
本を読む事により、色々な世界や、物語を知る事が出来た。
未知なる世界に感動し、時には話の内容に感動したり......。
何度も励まされる事があった。
そんな大事な本が奪われたら......。
その時、バン!バン!と倉庫の扉を激しく叩く音が聞こえた。
「!!」
まずい、話に夢中で見つかった.......!
そして、大きな力で扉が破壊された。
気のせいか、俺達を見付けた怪人がニヤリとした気がした。
怪人は俺をはね飛ばし、リセラの首筋を掴み、軽々と持ち上げた。
「う.......!!」
「リセラ!!」
何とかリセラを助けようとするが、怪人にいとも簡単に振り払えてしまう。
すると、リセラの手から持っていた本が落ちた。
怪人は容赦無くその本を踏みつけた。
「......!!」
その時、俺は激しい怒りを感じた。
あんなにも嬉しそうに本について話してくれたリセラ。
そんなリセラが大切にしている本を......!!
すると、怪人はリセラを投げ飛ばした。
「危ない!!」
咄嗟に俺はリセラを何とか受け止めた。
リセラの目には涙が浮かんでいた。
「無事か!?
リセラ!」
「は、はい......。
ありがとうございます......。」
俺は覚悟を決めると、リセラに言った。
「分かった。
俺、ディフェンダーになるよ。」
「......え?」
俺は怪人を思い切り、睨み付ける。
「あんな奴に、君や、本を奪われてたまるか!」
「本田さん......!」
「だから、頼む!
俺をディフェンダーにしてくれ!」
リセラは驚いたものの、ゆっくりと頷いた。
「はい!」
すると、リセラは両手の平を俺に向けた。
手の平から不思議な光が放たれる。
眩しいあまりに、目を瞑る。
目を開けた次の瞬間、俺の手には一冊の本を持っていた。
ファントムが不思議そうに首を傾げた。
「その本を開いて、文章を読み上げて下さい!」
リセラに言われるまま、俺は本を開いた。
ページには見た事のない文字がビッシリと記されていた。
だが、不思議な事に俺にはその文字が読めた。
「聖なる書物よ!
我に守護者の力を見に纏わせよ!!」
次の瞬間、書物が光り出し、その光が俺を包んだ。
そして......!
気付くと俺は、白銀のローブを身に纏っていた。
「これが、ディフェンダー......!!」
白銀の騎士と言った所だろうか。
驚くと同時に、全身に力がみなぎってくるのを感じた。
ファントムもたじろいだものの、俺に向けて襲いかかってきた。
パンチを繰り出すが、いとも簡単に俺は避けた。
そして、すぐさま回し蹴りを喰らわせる。
吹き飛ぶファントム。
行ける!
俺は確信した。
続けて、パンチやキックを喰らわせる。
苦戦するファントムが槍を手に出現させた。
素早く俺を突いてくる。
何とかガードするが、反撃のスキがない。
その時、リセラが叫んだ。
「剣を召喚して下さい!」
言われるがままに、右手に剣を召喚させる。
そのまま槍を薙ぎ払い、剣で斬りつける。
「はああっ!!」
強烈な一撃を喰らわせる。
ファントムは何が起きているのか分からない様子だった。
すると、腰に挟んでいた書物が光りだす。
「今です!
ファントムにトドメを!」
俺は頷き、書物を開く。
「聖なる書物よ!
我の剣に力を!!」
すると、剣が光り出した。
両手を掲げる。
「邪悪なるファントムよ!
永遠の眠りにつけ!!」
そのまま剣を振り下ろす。
ファントムは叫び声と共に、消滅した。
「倒せたのか.......?」
元の姿に戻った俺は尋ねた。
「はい!
本田さんのおかげでファントムは倒せました!」
「そっか.......。」
「凄いです!
これなら、本当に本と世界を守れるはずです!!」
本当に、出来た......!
守る事が、出来た。
「本田さん!」
見るとリセラは笑顔だった。
「守ってくれて、ありがとうございました!!」
頭を下げた。
「ううん、俺の方こそ、ありがとうだよ。
守れる力をくれて。」
すると、リセラは顔を俯かせた。
「リセラ?」
「それから......、ごめんなさい。
あなたを巻き込んでしまいました。」
「え?」
「本田さんは、これからディフェンダーとしてファントムと戦う運命にあります。
それは、とても過酷な運命です......。」
「リセラ.....。」
「自分からお願いしておいて、本当にごめんなさい......。」
俺はリセラを見つめた。
そして
「顔を上げてよ、リセラ。」
「え?」
「言ったろ?
俺をディフェンダーにしてくれって。
決めたのは俺自身だ。
そして、そのおかげで守ることが出来たんだ。
攻めるつもりなんて、これっぽっちも思ってないよ。」
更に
「俺、ディフェンダーとして戦うよ。
だから、これからもアドバイスよろしくな。」
「本田さん......!」
次の瞬間、リセラは何とに俺に泣きながら抱きついてきた。
「ちょっと、リセラ!?」
「うう.....、任せてください!
私と本田さんが手を組めば無敵ですから!」
泣きながら凄い事言ったな.....。
「大丈夫だから!
ほら、泣き止んでよ!」
何とかリセラを引き離した。
未だ泣きじゃくっているリセラの頭を撫でた。
俺はリセラに、微笑む。
それを見たリセラもニコッも、微笑んだ。
こうして、ディフェンダーとして戦う事を決めた俺と、リセラの物語の一ページが開かれた。