単純なお笑いシリーズ ヤマザキ春のパ〇まつりとの戦い
紙をもぎり取る。そして同じように紙に手を出す若者がいた。ほほー、彼も参戦するのか、まだ若いのにな。どれ年長者としてアドバイスでもしてやるかな。
「君ちょっといいかな。君もこの戦いに参加するのかな?」
『へ? 戦い?』
急に話しかけられてキョロキョロと周りを見回している、どうやら話しかけられていると分かったようだ。
「そう、戦いだよ。あいやっ、ちょっと待って、逃げないで」
彼は不審と感じ、逃げようとしている。しかし、逃げれないように両手を広げてブロックする。彼のためにアドバイスをしてあげたいので、多少強引でも仕方が無いだろう。
「落ち着いて聞いて欲しい。年長者からアドバイスだと思ってくれ。若者よ」
彼は気が弱いのか、無理にこじ開けて逃げようとはしない、フフフフ、その性格を利用させてもらう。しばらく様子を窺っていたが話を聞く雰囲気が出て来た、どうやら諦めたようだ。
「これは戦いだよ。君は一人で挑むのかい? そうか。じゃあ一人で挑むのは何回目だい? 初めてなのか。じゃあやっぱり聞いておいた方がいいぞ。
さて、どこから話すべきかな、生い立ちからかな……。おい! 逃げるな! そんなに時間を取らないから、すぐ終わるから、そうだな一時間位で」
『なげーよ』
若者が隙をみて逃げ出そうとしたが、両手ブロックを発動して再び行く手を阻んだ。油断も隙もあったもんじゃない。まったく。話を続ける。
「これは春の三大祭りと言っていいだろう。ん? なんだ三大祭りを知らないのか? ひな祭り、春のパン祭り、お前を血祭だ!」
『こえーよ』
「フフフ。冗談さ、さて真面目に話そう。今までは母親が持ってきた台紙にただ食べたパンのシールを貼るだけだったんだろう?
そんなのはお遊戯みたいなもんさ、一人で台紙を埋める事に比べたらな。君はどうやって、二十五点を集めるつもりだい?」
『ええ? そんな事特に考えてなかったので、強いて言えば食パンですかね』
彼は百三十円位の六枚切り食パンを持って答えてた。
「素晴らしい。君は初心者なのに何が重要か分かっているね。目の付け所が違うな、そうだ主力は食パンなのさ。私も六枚切りが主要な朝食になっている。
これは着実に点数を稼げるのさ。それこそボディーブローのように、累積した確実なダメージをね。
さて、君はそのパンを一日に何枚食べるんだい? 一枚、そうだよね、一日一枚、私も同じさ。じゃあそのパンのシールは何点だい? そう一.五点だ。
ここで問題だ。今日は何日で、キャンペーンは何日までで、その間に消費するパンの量はいくらだい?」
『えーと二月七日で……キャンペーン期間は残り八十二日で、十四芹、二十一点。はっ! 毎日食べても四点足りない。でもそれくらいなら、昼にも菓子パンを食べる事もありますし、多分補えるかな?』
スマホを片手に計算した結果、その事実に気が付いたようだ。しかし考えが甘すぎるわ。
「確かに一.五点のパンを買い続ければ、まあ行けそうだよね。私でもそう思うよ。でもね、線路向うのドラックストアに買い物に行ったことはあるかい?
そこの食パンは六枚切りが六十八円(税別)なんだよ」
『安っす!』
「そうだろう、安いだろう。ただ、シールは零.五点なんだ。つまり三倍の差が出てしまうんだ」
『そっそれじゃあ、全然足らないんじゃないですか? じゃあこっちのパンを買えば……』
「違う! 違うんだ。確かにそう思うだろう、違う点数の高いパンを買えば良いと。ただおまけの皿が目当てに、本来出費しなくても良い出費をすることになってしまうんだ。そんな事なら、差額で自分の好みの皿を買った方が良い」
『たっ確かに。じゃっじゃあどうすればいいのですか?』
「家には相方がいるのでね。彼女は三日に二枚位だけど、食べるから多少パンの減りは早くなる」
『でも全然足りないのですよね?』
「そうさ、足りない。でも阻害する要因はそれだけじゃないんだ。相方はコスポコが好きでね。良くベーグルやパンを大量に買ってくるのさ。それこそアホみたいにだ!
話がそれてしまったね。つまり食パンだけでは、駄目って事さ」
『そっそんな、それじゃどうするのですか?』
「決まってる、菓子パンを買うのさ。ただ朝食を菓子パンにするような貴族のような生活は出来ないからな。昼飯さ。昼の外食をしないようにして弁当の代わりとして菓子パンを用いるのさ」
『やっぱり菓子パンなんですね。それなら私の方が点数を多く集めるみたいだし、菓子パンの購入数も少なくて済みそうだし』
「甘い! 甘いぞ! 小僧」
『若者から小僧に格下げされたよ。 小僧じゃありません』
「……」
『……』
「うーん、小僧じゃありません。私には〇〇という立派な名前があるんです。とか言うと思ったのにな」
『いや、不審者に自分の名前なんて名のらないですよ?』
「なるほど。いやなるほどじゃねーよ、まいっか」
『いいのかよ!』
「直ぐ近くに一斤の値段が滅茶苦茶安いパンがあるのに、君はこのちょっとお高い食パンを買い続けるのかい?」
『はっ!! 確かに、今までは気にならなかったけど。そんなに安いパンがあるなら、そっちを買っちゃいそうです』
「そうだろう。君の戦いはより一層厳しい状況に変わったのさ。でも厳しさはコスポコパンをアホみたいに買って来られてしまう私も同じだよ。
解決のカギは菓子パンだね。そこのミニというネーミングはちょっとどうかと思うスナックゴールドがあるだろう、このスーパーだと税別百八円で若干安いよね。それが一点さ。
この菓子パンを中心に、昼は菓子パンを二個から三個買えば、トータル四百円未満に大体抑えられる。弁当を買うより、外食するより昼食の代金を抑えられるはずさ。」
『確かに、じゃあしばらくは菓子パンを中心とした昼食にすれば良いと』
「その通り。でもちょっと考えてみて欲しい。そこの富士パンのぶどうパンは七十八円だし、アンパンは六十三円だぞ(ともに税別価格)。そんな格安パンが売っている中で、本当に対象商品を買い続けられるのかい? さっきも言った通り、高い商品を買うなら安い商品を買って差額で欲しい皿を買った方が良い」
『そんな、それじゃあどうしたら良いのか見当がつかないですよ…』
「そうだろう。そこで必要になってくるのが、自分への言い訳さ」
『言い訳ですか??』
「そうさ、言い訳。安いからと言う理由ではなく、私はこのパンを食べたいから買う。そういう事さ。全く味が異なるパンならば、その理屈で買う事も可能だ。ただ他の格安パンも買うけどね。一品混ぜる、そういう感じだね」
『なるほど』
「次は中級者向けの技になるが、そこのフランスパン、お値段は若干高いけど点数もそれに応じて高い。格安食パンの代わりに、たまにはフランスパンも食べたいな、という言い訳でも買う事が出来る」
『確かに』
「でだ、ここからは上級編になるが、食パンの消費を上げるって作戦がある。きみはサンドイッチを食べる事があるかい?」
『自分では殆ど作らないですけど、食べはしますよ』
「サンドイッチなら二枚パンを使うだろ。私の場合は不思議な事に、サンドイッチだと二枚パンを食べたというのに物足りなく感じるんだ。なので四枚のパンを消費する事があるのさ」
『確かにサンドイッチだとパンの消費が多く……。ちょっ、ちょっと待って下さい! 六枚切りのパンですよね。サンドイッチに六枚切りのパンを使うなんて正気ですか!』
「正気も正気さ。サンドイッチを作るのは、気持ちが有る程度高ぶらないと無理だ、面倒だからな。作るかどうかも分からないのに八枚切りなんて買うわけがない。なので六枚切りで作るのさ」
『っく、なんという恐ろしい(食欲)。そして面倒くさがりなんだ』
「他にも毎日ヤマザキのお店で弁当を買うという選択肢もあるが、近くに無いので私は無理だし、コンビニ弁当を買うなんてことは、それこそ清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟(出費について)をしないとな」
『大げさすぎるよ!』
「そうでもないぞ、今のところ十回程飛び降りてる」
『飛んでるのかよ! こえーよ、コンビニ弁当位で、ていうか京都に行く旅費で弁当百個買えるだろ!』
「昔はさ、十年以上前の話だけど、住んでたマンションの一階に毎日ヤマザキがあってな、良く買ったもんだんよ。特に共働きだったし相方が変則勤務だったり、家に帰るのが日が変わる事なんてザラだったからな。一人分の食事を作るのが面倒だったし、時間も勿体なかった。
今うちの主力として活躍している少し深めの長い皿が四枚程あるんだが、毎日ヤマザキで買った商品についていた点数で手に入れたんだよな。
信じられるかい? 今残っている皿は四枚だけど、途中割ってしまったものを含めると六、七枚はあったんだぜ」
『二十五点を六、七回? 嘘でしょ……』
「さあな。でも二回連続同じ皿だった可能性もあるから、一シーズンではなく二シーズンの累計だったかも知れないけどな。でも間違いなく、振り返ってみると、それが人生での黄金期だったな」
『えらく低い黄金期だな』
「時間を取って悪かったな。戦い方は幾つもあるが、決してお金を無駄にすることなく、戦ってほしい。時には撤退する事もありだぞ。私もここ数年負け戦の方が多いからな。がんばれ若者よ」
そして複数人のおばさん達に白い目で見られている中、スーパーを後にした。
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スーパーで知らな人に話しかけてくる人がいたら、私は逃げ出します。