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「えっとねえ……ものーすごくかいつまんで話すとね、私はまだ幽霊じゃないの」
「えっ……人間ということですの? 」
「んー……肉体はここの人間界にあるんだけど意識はふわふわ空中を飛んでる状態、っていうとわかりやすいかな? 」
「じゃあ、肉体の貴方には触れることが出来るのですか? 」
「うん、残念ながら居場所は教えられないんだけど」
そう言って一息つく彼女の髪がさらりと落ちて、触れてみたくなってそっと手を戻しました。
そうですわ、わたくしは彼女に触れられないのでした。
「でね、私は15歳の誕生日に目を覚ますの。『世界の守護乙女』っていう大それた名前の聖職者としてね」
「せかいの、しゅごおとめ……」
「うん、嘘みたいって思うかもしれないけれど私は大体の事を知っているの……ユリシウス=ルーミャ、貴方の事も」
教えていないはずの名前を呼ばれて現実味を増す事態に頭のどこかで警報が鳴り響きます。
だけれど聡いとは到底言いがたいわたくしはそれを信じて次をうながしてしまうのです。
「そこで私は6人の男の子に会うの。その人たちは、騎士だったり、大司祭だったり、魔法使いだったり様々な個性あふれる人間たちなのだけど……その人たちが皆私に恋をするの」
「まぁ……」
「そこで現れるのが貴方、ユリシウス=ルーミャ。貴方はね魔力値がとても高いの……次期『世界の守護乙女』と呼ばれるくらいに。そして貴方はそれ相応の努力をする。でもぽっと出て全てをさらっていく女が出てきたの。それが私」
「そ、それで……? 」
「貴方は私をいじめるは大なり小なり様々なことを……そして最後に私を慕うという少年たちの手によって殺されるの……ユーザーは大喜びだったけど、私はあのラスト大っ嫌い」
最期の台詞を聞き流してしまいつつも自分の死に際を教えられたわたくし。
彼女が『世界の守護乙女』でわたくしが『代理』というのはありえなくもなくて。
「わたくしは、死ぬのでしょうか?何故、死ななければならないの? 」
「ルーミャ……今のところ貴方が死なない確率は100パーセントなの」
「わたくしは……起きた貴方を亡き者になどいたしません。ですから……」
「ううん、貴方がいくら私に意地悪をしようとしないと関係ないの。貴方はね『いじめる』とはいっても筋が通っていたいじめ方だった。舞踏会で複数の人と踊ってはいけないということを悪口にのせて言ってみたり……はたからみて『いじめ』じゃなくて『注意』だったの」
「じゃあ……! 」
「私を『いじめていた』のは貴方の周りにいる人だったから……貴方は王族の末端とはいえ大貴族。だけど私はただの田舎貴族。皆は貴方を選んだの、そして私をいじめた。貴方が私に注意をしなくなってもうっぷん晴らしの為に『ユリシウス=ルーミャ』の名前を借りて私をいじめるでしょうね」
「そして、わたくしは死ぬのですわね」
「私が教えられるのはこれくらい、そしてこれから教えられるのも一つだけ」
「ルーミャ、強くなって。そして、本当に信頼できる人を探しなさい」
ぼろぼろと、なにも悲しくないはずなのに涙が止まらないのです。
そっと彼女を見ると悲しそうな顔で、ごめんね私には貴方に触れることも出来ない、泣かないでとこぼします。
嗚呼、泣きそうなのは貴方もではありませんか。
こんな、出来損ないに泣いてくださるのですか。
「わたくしのためにお話しくださってありがとうございます、貴方の話を信じますわ」
「ほんとに……? 」
「ええ、だって貴方わたくしと話をしていて泣きそうなんですもの。こんな風に顔をゆがめてお話をしてくださる方を無下になんてできませんわ」
「やっぱり」
「え? 」
「やっぱり、ルーミャは私が思ってた通りの子だった」
そうして彼女はこういいました。
「ねえ……良かったら、もし良かったらで良いから。私の事はヒカルって呼んでくれない? 」
「ヒカル?ですか? 」
「うん、嫌だったら……いいんだけど……」
どんどん小さくなっていく『ヒカル』がかわいく思えて。
「ええ、ヒカル。わたくしの事はルーとよんでくださいませ」
「る、ルーって……ファミリーネームじゃ? 」
「ええ、貴方を……ヒカルを信じて、わたくしは優しいヒカルを信じていますわ」
何故か、また涙が空を舞いました。