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わたくし、ユリシウス=ルーミャは天に誓って頭が正常な乙女ですわ。
怪物や、妖精などと言った空想上の産物には今一度として出会ったことも見たことも、言葉を交わしたことすらありませんの。
そんな戯言をこの世にたらたらと流していては、このユリシウス家の恥になってしまいます。ですから、わたくしのベッドに一人で気持ちよさそうに寝ている少女はきっと目の錯覚ですわね。
ああ、嫌だわ……きっと勉強のし過ぎで疲れているのですわ。
こんな錯覚、早く取り払ってしまわなければ。
「ねぇ、貴方」
このベッドは国内から集めた至宝の数々を並びたてて作った酷く豪奢な物。お父様がくださったわたくしのためだけのもの。
たかが、錯覚ごときが占領して良いものではないのですわ。
たか……が……
「な、なんですの!?錯覚が……口を開いたのですわ!? 」
「さ、錯覚?酷いよ、私にはちゃんとした名前が……」
「り、リリア!来なさい、部屋に不届き物が! 」
その少女に後に続く言葉を言わせる前から、わたくしは大声でメイドの名前を口に出しました。
「お嬢様!?不届き物とは!? 」
大きな音と共にミルクブラウンの髪がはためいて、わたくし付きのメイドであるリリアが転がり込んでまいりました。
「このベッドの上にいる少女よ、早く追い立ててくださいませ」
「はえ? 」
「はえ?とはなんですの?早くとらえてくださいまし。わたくしはもう寝るのですわ」
「えっと……申し訳ありません。私にはどうも不届き物と呼ばれる少女?が見えないのですが……」
「な、何ですって……?」
わたくしのベッドの上には起き掛けと思われる目をこする金髪の少女が一人。
こんなにも精巧ですのに……リリアが嘘をついているようにも見えませんし……
「お、お嬢様……? 」
「貴方、本当にこの子が見えないのです?」
きょとんとしたリリアがそのどんぐり眼を動かしましたがベッドの上でその瞳が止まることはなくとおりすぎましたわ。嘘をついているわけではないのですね。
「わかったわ、呼び出して悪かったですわ。ちょっと試したいことがあっただけですの、おやすみなさいまし」
「お、おやすみなさいませ。お嬢様」
バタンと予想に反する大きな音が部屋に響いてわたくしは本当に独りぼっちになってしまいました。
金髪の少女は大きな水色の瞳を輝かせてわたくしをじっと見つめています。
「なんですの、貴方は?私の妄想にしてはリアルですわね」
数秒の間が空いてその少女の顔はみるみると歪んでいき、ついに。
「あははははっ!いきなり、メイドを呼ぶなんてさすがお嬢様だねえ!おっもしろくて涙が出そう!わ、私が妄想っ!面白いな、おじょーさまは! 」
「不躾な! 」
顔に熱が籠っているのが手に取るようにわかりますわ。私の頬はきっと真っ赤なのでしょう。
くすくすとこらえきれずに笑いをこぼす少女を見て、眉を顰めます。
「ごめんね、私はね……幽霊なの」