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日影の都  作者: イツキ
第一章 影に住むもの
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(2)

 引きずられながら店の隙間をを通り抜けていけば、そこは人気のない裏路地だった。流石にまずい、と必死で抵抗したが悪あがきにもならず、非力な我が身を少年は悔やんでいた。

「だから、お金も全然無いし、おじさん達が欲しいような物は持ってないってば!」

 壁際に追い込まれ、上から男二人に睨まれている状況。必死で同じ言葉を繰り返し逃げ出そうとするが、上手くいかない。むしろ悪い方向に向かっているようにさえ思える。助けを呼ぼうにも、薄暗く細い路地に人通りはあまり期待できそうにない。それに大通りでの周囲の反応を見れば、この街の人間は厄介事には関わりたくないのだと――助けようとする気は無いのだと、予想がついた。

「……どうだ?」

「あぁ、いいんじゃねぇか」

 値踏みするように自分を見渡す男達。頭上で交わされる謎の会話。一体なんの話なのか。再び声を上げようした瞬間、耳に入ってきた言葉に思わず絶句した。

「こいつの容姿なら、高く売れそうだ」

「売、る……?何を……」

「世の中には物好きも居るんだよ、ボウヤ」

 ニヤリと笑う髭面を見て、少年は背筋が凍った。

「冗談じゃ……!」

「一緒に来てもらうぜ!」

 再び腕を掴まれて捻り上げられ、もうダメか思われたその時だった。

「悪いなおっさん、ちょっと失礼」

「がっ……!」 先程までは存在しなかった第三者の台詞と共に、鈍い音を立てて目の前の髭面が歪んだ。その第三者による肘鉄がモロに入ったようだ。予測していなかった出来事に少年は一瞬呆気にとられながらも、男が怯んだ隙に捕まれていた手をとっさに振り払った。それとほぼ同時に髭面の男に塞がれていた視界が広がり、何か重たいものが路地の壁にぶつかり、周りの物を巻き込んでガラガラと崩れた音が聞こえた。

「まったく、情けない大人達だな」

 髭面の代わりに新たに目に飛び込んできたのは、買い物をしたのであろう紙袋を抱えた、少し不機嫌そうな赤い瞳の青年だった。





 ゼキアが先程の少年に追い付いた時、まさに恐れていた事態になりかけていた。路地の壁を背に、腕を捻り上げられる少年――。

「ちっ……!」

 駆けてきた足に更に力を込め、少年の腕を掴む男に殆ど飛び掛かるように肘鉄を喰らわせた。少年が手を振り払うのを確認して、もう一発、と今度は腹に蹴りを入れてやれば、大した抵抗もなく反対側の壁に向かって体がとび、男は周りの物を巻き込みながら倒れこんだ。残された少年と、もう一人のスキンヘッドの男は不意打ちに呆気にとられているようだった。

「やれやれ……情けない大人達だな」

 言いながら、少年を庇うように自分のそばに引き寄せた。

「よう、ちっさいの。名前は?」

 ちっさいの、と呼ばれた少年は、戸惑いながらも口を開いた。

「え、あ……ルアス」

「ルアス、ちょっとこれ持っててくれ」

 そう言って、持っていた紙袋をルアスに押しつける。腕にのし掛かったそれが思っていた以上だったらしく、ルアスは少しよろめいた。

「な……なんなんだテメェ!」

 そんなやりとりをしている間にようやく我に返ったらしいもう一人の男が、がなり声と共にゼキアに向かって腕を振り上げた。ゼキアは特に焦る風でもなく、呆れたような顔で溜め息をつくと、殴りかかる男の手を軽くいなして後頸部に手刀を叩き込んだ。

「通りすがりのお人好しですよ、と」

 短く呻き声を上げて崩れ落ちる男に、ゼキアはそう答えを返した。

「あ……あの」

 事態が落ち着いたと判断したのか、男達がのされていく様を見守っていたルアスはおずおずと声をかけた。

「ありがとう……どうなる事かと思った」

「どういたしまして。まったく、気をつけろよお前……ただでさえ目立つ外見してんだから」

 言いながら、ゼキアはルアスに預けた荷物を受け取った。その瞬間、ルアスの妙な表情に気づく。驚いたような、焦ったような――。

「……後ろっ!」

 視線は、ゼキアの背後。延びていると思っていた髭面の男がまさにゼキアに拳を振り下ろそうとしている瞬間だった。

「よくもやってくれたなぁ!!」

 まずい、と咄嗟にルアスを背後に庇おうとした時だった。突然、その場にざばーん!という――紛れもない水音が響き渡った。

「……はっ?」

 構えていたゼキアは、思わず間抜けな声を上げた。水は男の頭上から降り注いだらしい。突然の奇怪現象に固まった男の足元にある水溜まりから察するに、その量はおよそ大きなバケツ一杯分。どこからそんな量が降ってきたのかと、ゼキアは思わず上を見上げてしまった。

「早く、今のうち!」

 後ろに居たルアスに服の裾を引っ張られ、我に返った。今はそんなことより目の前の男をどうにかしなければ。

「……おっと、そうだったな」

 髭面の男よりひと足早く動き始めたゼキアは、もう一人と同じように相手の首に手刀を叩き込んだ。

「さてと、とりあえず大通りに出るか。また絡まれたらたまんねぇからな」

 男が倒れるのを確認した後の呟きに、ルアスもまた同意した。

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