召喚されました
「身体損傷なし、転移による変質、規定値内、異世界間相互理解機構、正常、生命力、魔力、特殊技能、測定終了、問題なし」
初めに聞いたのは、そんなセリフだった。
あれ、おかしいな確か部屋で課題をしていたハズだけど…
何処だココ、俺の部屋こんなに広くないし薄暗くもないのに…
「それでランクは、救世主?英雄?スキルは?」
「ランク旅人タイプ平均型、スキルは……お!すごい、レアスキル『貯蓄』持ちです」
『貯蓄』って、まだ実家から仕送りを受けてる大学生だぞ俺は、バイトはしているが貯金なんてゼロに等しい、ん、スキル?
そこで、俺は一つの可能性を考えて、改めて周りを観察してみた。
地下室の様な窓のない部屋、大きさは大学の相談室くらいか、部屋の中には、中学生くらいの小奇麗な格好をした子供が、30歳くらいの痩せた男に、何やら説明を受けている。
自分の足元を見ると、複雑な模様をした床が、ほのかに光を放っていた
コレは所謂、魔法陣とか云うやつじゃないか?
ああ、コレは間違いないな…俺は異世界に飛ばされた様だ。
身一つで呼ばれたわけでは無い様で、部屋着にしていたジャージを着ていて良かった、陸上をやっていた高校の時と違い、最近は、あまり運動していないので、少し体が弛んできていたからな。
というか、何か俺、冷静だな、もう少し取り乱すものじゃ無いのか?
まあ、ゲームやアニメは好きだったから、多少なりに知識や興味が残っていた…と云うことだろう…そんなにハマっていた訳では無いんだが、中学の時は別として…
「すいません、名前を教えて貰えますか」
「え…鈴木洋一ですけど」
「スズキヨーイチさん、と… あ、私は今回の担当召喚師のハセクラと申します」
何か軽い調子で自己紹介されたが、この人が俺を、この世界に呼んだ人らしい、今回って言っているから、この世界では、異世界召喚は珍しいことでは無いのか。
とりあえず、「魔王を倒せ」とか「世界を救え」とかで、呼ばれたわけでは無い訳だ、良かった。
さっき救世主とかのワードが出ていたのが気になるが。
「では、説明をさせて頂きます、まずココは、スズキヨーイチさんの居た世界とは違う世界です、便宜上、この世界を『グリーゼ』スズキヨーイチさんがいた世界を『地球』と呼ばせて頂きます
また、所属する国は、依頼主が納めるリゲル王国になり――」
ハセクラさんの説明を聞きながら、改めて自分が異世界に来たことを実感した。
どうやらこの世界は所謂、ファンタジーRPGの様な、魔法があって冒険者が要る世界で、異世界召喚をビジネスで行うようだ。
会話が出来る事が疑問だったが、異世界間相互理解機構というもののオカゲらしい。
詳しい仕組みは解らなかったが、召喚された時に、肉体だけじゃなく知識や概念といった、内面的なものも変換されるらしい?
…要するに『地球』人から『グリーゼ』人になった、と言うことだろう、うん無理矢理、自分を納得させながら自分のスキルについて考えてみることにした。
貯蓄
自分自身の魔力などを貯めて置ける能力、上限はあるが一生、貯め続けても問題ないらしいから実質、限界は無いと考えて良いだろう。
ただ、貯める事が出来るだけであって、使うためには魔法などを覚えなくてはダメらしい…
意味ね~!
当然ながら俺は、魔法なんて知らないし使えない、今から学んだって基礎すら知らないのだから時間は掛かるだろう、幸い魔力の感覚とやらは、すぐ理解できたので、一応『貯蓄』はしておくが当分、使い道は無いだろう。
「『貯蓄』って、即戦力を期待したのに…ランクも旅人だし…」
中学生くらいの子供が、失礼なことを言い出した。
おそらくリゲル王国の宮廷魔術師の弟子か何かだろう、召喚を依頼した人物だろうから、能力が低くて失望したのは分かるが、当人の前で言わなくても、いいじゃないか。
「リゲル王、『貯蓄』は、かなり強いスキルですよ、いずれは歴史に名を遺す魔導士にも成る――」
「いずれじゃダメなんだよ、今ヤバいのに…」
今、聞き捨てならない事を言ったような、リゲル王……王?
王様?若すぎないか、王子なら分かるが…いや問題はソコでは無い。
何故、王様が一人で異世界召喚をする場所に居たのか?…だ。
お忍びで来た王様の娯楽とかだよな…まさか人材不足解消の為とかアホな理由じゃないよな…
「民は、もう一人も居ないし、ここから国を立て直していくんだから――」
嫌な予感的中、というかソレはもう国とは言えないんじゃないか?
「依頼は旅人コース2回でしたので、魔法陣流用で、すぐに出来ますがどうします?」
「……!そうだったチャンスはまだ有る!お願いします」
「分かりました、ではスズキヨーイチさんは此方に」
促されて魔法陣から出ていき、部屋の隅で待機する。
どうやら初めから2人呼ぶつもりだった様だ、不愉快だが自分はハズレ扱いらしいから、この召喚が終わったら送り帰してもらおう。
魔法陣が新たに光り、ハセクラさんが何やら儀式めいた呪文を唱え始め召喚が始まり、15分くらいで魔法陣の上に新たな人物が現れた。
女性の様だ、黒いローブ上に禍々しい黒い胸当て、黒いマント、頭には角が2本…
「……ランク救世主、タイプ魔力特化………」
ハセクラさんが驚愕しながら呟いた。
これ魔王ってやつじゃね、俺、詰んだか?
異世界に召喚されて、すぐに魔王に遭遇ってどんな無理ゲーよ。
そんな事を考えながら、俺の異世界生活はスタートした。