滝田聡司の告白 5
自由に叩け、ってな。
気付いた人もいるかもしれないけど、これはオレが越戸ゆかりにやったのと一緒だな。
春日が湊に任せたのと同じ。
「オレがいなくなってもがんばれよ」って、引退直前の三年生から後輩に向けての強烈なエールだよ。
やられた時点だと、その真意まではわからないもんだけど。
いなくなってからわかるんだ。だからオレも、やってみた。
越戸は、わかってくれたかな……?
しかしまあ、これ言われたときはびっくりした。まさか吹奏楽部の方で、そう言われるとは思ってなかったからな。
しかもジャズだぜジャズ。かっこいいー! って。これこそオレのやりたかったやつじゃん! って思った。
そんな感じで、最初は嬉しかった。自由にやっていいって言われたことも、任されたことも嬉しかった。
けど、それが通り過ぎたとき、あれ? って思ったんだ。
自由に叩くって、どうやればいいんだ? って思った。
なっさけない話だよなあ。
あんだけ「自由にやりたい」「やりたいことやらせてもらえない」って言ってたくせに、いざ白紙のキャンバス渡されたとたんにこれだよ。こっちまで頭が真っ白になっちまったんだ。
どうすればいいのかわからなくて、とりあえずその日は楽譜通りに叩いた。ボロボロだったなー。あーかっこわりい。
悔しかったけど、やっぱりどうしていいかわからなくて、ひとりで悩んでた。
神鳥谷先輩は春日みたいに優しい人でもなかったからな。湊は恵まれてる方だと思うよ。
「わからなかったら教えてあげますよー」なんて、オレはあのとき言ってもらえなかったからな。
自分でやれってことだったんだろ。それも含めて「自由に」だったんだ。今から考えればな。
……春日のモノマネすんなキモい?
はい、すみません……。正直、オレも今のはちょっとどうかと思いました……。
……うん。それでまあ、これからオレは、その「自由に」を模索することになるんだ。