エピローグ~そして、これからへの接続章
ぎゃあぎゃあと騒ぐ、自分の生徒たちを横目に見て――
吹奏楽部顧問の本町瑞枝は、満足げに笑いながら音楽準備室に戻った。
きのうも今日も、今回の吹奏楽部コンサートは、かなりいいものになった。
そして、軽音部のライブも――と、思ったところで。
本町は職員室より馴染みのある、自分のデスクに腰掛ける。
そして彼女は、そこに置いてある自分の携帯に手を伸ばした。
電話をかけるのは、もちろん――
「……あ、もしもし。匠?」
同じ大学の後輩である、彼のところだった。
本町の周りでも数少ない、音楽で生計を立てている、そのひとり。
彼には少し前に、ある話を持ちかけていた。
だから、もう一度これから、その話をするため――
本町は、その後輩へと語りかける。
「どうだ、考えてくれたか、こないだの話? ――は!? まだ迷ってる!? テメエ、いっつまでもグズグズ考えてんじゃねーぞ!? あぁ!?」
そしてその後輩へと、本町は先輩特有の押しの強さでしゃべりかけた。
電話の向こうの相手は、それに対して何かを言ったようだったが――
「……なあ、匠。いい加減おまえも吹っ切れよ。昔のことは昔のことだ。おまえも、もうそろそろ前を向いてもいい頃合なんじゃねえのか」
それに本町は、ため息をついてそう返した。
この後輩がこれまでどんな道を歩んできたのか、それを自分は知っているのだ。
だからこそ、このまま彼をただのトロンボーン吹きとして終わらせる気は、毛頭なかった。
いかに才能があり、演奏で生活をすることができても――それでも彼自身が指揮者として復帰しない限り、その過去にあったことを乗り越えられないのは、わかっていたからだ。
音楽を教える教師として、先輩として。
それは今までずっとずっと、考えてきたことだった。
だから――
「先輩後輩だから頼みたい、っていうんじゃない。アタシはただのいち吹奏楽部の顧問として、指揮者のおまえに来てほしいんだよ。だって、それに値する生徒が出てきたんだからな」
外部講師として、この部活の指揮を頼みたい。
そう言う先輩へ――彼はそこで、一番不安に思っていたことを吐き出す。
それはこの後輩が、最も恐れていて。
そして、最もなってほしくない未来のことだった。
だが、それに本町は微笑んで答える。
「ああ、大丈夫だ。今回は、あのときみたいなことになったりはしないよ。だって、アタシがいるからな。それに――」
と、本町はそこで言葉を切って、音楽室の方を見た。
そこでは、相変わらず自分の生徒たちが、泣いたり笑ったり、叫んだり――とてもとても、騒がしくやっている。
「それに値する生徒が出てきたって、言ったろ?」
そしてその騒ぎの中で、一際目立っている、その男子生徒を見て――
さらに今回、彼に引かれて爆発的に成長した、その周りの生徒たちのことを見て。
本町は、やはり満足げに笑って。
そして、後輩に言った。
「ウチのガキめらは、おまえが思ってるより、ずっとずっと――スゲエやつらなんだぜ?」
その言葉に対する返事は、一体なんだったのか。
それは今は、聞き取れなかったが――
だけど、それから半年後。
この電話の先にいる指揮者と彼らは、この場所で出会うことになる。
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