結論の時間
「いやー、やっぱり超スゲーライブになったねー!!」
軽音部のライブが終わって、機材を部室に運びながら。
ボーカルの結城紘斗は、まだその本番が続いているような大声で、こちらに向かってそう言ってきた。
「やっぱ、滝田スゲーよ! 声掛けてよかったよ、ホント!」
「いやー、それほどでも」
それに対して、今回ライブでドラムを務めた滝田聡司も、照れ笑いをしながらそう返す。
学校祭のラストを飾る――軽音部の体育館ライブ。
その一大イベントは、最後の最後まで、大盛況のまま幕を閉じた。
それはここにいる紘斗や、他のメンバー、そして自分の活躍があってこそだろう。
まあ、自分で活躍とか言ってしまうのもどうかという話だが――それだけラストのあの曲を終えたときのあの歓声は、すごかったのだ。
軽音部の正部員である紘斗ですらも、ここまで盛り上がったライブは初めてということだった。
ということは本当に、あれはすごかったということなのだろう。
それに貢献できたことを、自分でも誇らしく思う。
今でもまだ、そのときの興奮が残っているようだった。最初の頃は吹奏楽部からのヘルプということで、非常に不安な面もあったが――
終わってみればそれは、聡司にとって何ものにも代えがたい、大切なものになっていた。
「あー、楽しかったなあ」
ここに参加してよかったと、心から思う。
まあその代償として、自分も後輩のスティックも結局、ボロボロになってしまったけれど――それはまた今度、新しいものを買いに行けばいい。
そんなことを言ったら、あのちっちゃい後輩は怒るかもしれないが。
しかし、いずれにしても彼女には。
そして同じ吹奏楽部の面子には――
言っておかねばならないことが、あった。
「なあ――これからみんなどうするんだ?」
「んっとー、部室に楽器とか置いて、そこでなんか飲みながら休憩して。そのまま閉会式までそこでしゃべってる感じかなあ」
「そっか」
だから、それを伝えるために。
「じゃ、オレちょっと音楽室行ってくるわ」
聡司は軽音部の部室から。
吹奏楽部のみなのいる音楽室へと、向かうことにした。
♪♪♪
学校祭も、もう終わる。
だから、そんな時間の音楽室は、どこか影のある夕焼けに染まっていて――涼しげな風が吹き抜けて。
静かに『その時』を待っているようだった。
なので、聡司は。
「よう。お待たせ」
その中にいる部員たちに――なんでもないことのように、普通に声をかけた。
「……滝田!」
それに、肘をついて窓の外を眺めていた豊浦奏恵は、弾かれたようにこちらを見る。
「ずいぶんと、盛り上がってたようだな」
腕を組んでうつむいていた永田陸が、静かに顔を上げてそう言ってきた。
そしてその言葉に、床にべったりと座り込んでいた美原慶が、携帯を振って言う。
「ソーですよ。ワタシのとこまでグループで、『今年の軽音部のライブすげーから見に行こうぜ!』ってメッセージが回ってキタんですから」
「段々観客が増えてったように感じたのは、そのせいか……」
やっぱり、あれは錯覚じゃなかったのか――と、今更ながらに聡司は、苦笑してほおをかいた。
その口ぶりからすると、彼女たちはあのライブには来なかったようだが。
けれど、それもまた照れくさいような気がしたので、それでよかった。
「……聡司くん」
だから、明日から部長になる、春日美里と。
その後ろに隠れるようにして立っている貝島優が、こちらを見つめていても。
「なあ、みんな。オレ今みんなに言いたいことがあって、ここに来たんだ」
聡司は照れ笑いのような苦笑いのような、そんな表情を浮かべて、そう言うことができた。
ずっとずっと分からなかった自分の気持ちを――ようやく、口にできるときが来たのだ。
「オレさ。ずっと迷ってたんだ。自分はどうすればいいのかって」
『……』
それは知ってる――と言わんばかりの沈黙が、彼女たちの全員から溢れてくる。
吹奏楽部に残るか。
軽音部に行くか。
その選択が、ここしばらく頭の隅から離れなかったのだ。
それについては、もう彼女たちには言ってある。
だから、ここからはその結論を出す時間で――
「決めたんだよ、オレ」
それを、彼女たちに伝える時間でもあった。
叩いて叩いて、叩き続けた先に――
一体、なにがあったのか。
「わかんなかったんだけどさ。ずっと。自分がどっちに行ったらいいかわかんなくて、みんなに心配かけてさ。ごめんな。けど、ようやくわかったんだ」
二つの部を行ったり来たりして、でもその両方とも、好きなところや楽しいところがあって。
ずっとすっと、迷っていたけれど――
「オレさ」
今日の吹奏楽部の本番と、軽音部の本番を叩いて、ようやく納得がいった。
自分が本当にやりたかったのは、なんだったのか。
その『答え』を見つけた聡司は、笑って彼女たちに言う。
それは――
「吹奏楽部と軽音部、両方続けようと思うんだ」
それは聡司にとって、偽りのない真実の言葉だった。
だが、それを聞いて彼女たちは――
『……は?』
眉をしかめて、半眼で。
口を揃えて――しかしただただ心のままに、そう言ってきた。




