滝田聡司の告白 27
このときのオレは、じゃなくてさ――。
関掘のことは、今のオレにだって、未だにどうすればいいかなんてよくわからねえんだ。
まあ、それでも学校祭が終わってからは、あいつも一区切りついたからなのか自信がついたからなのか、あの能面にも多少は表情が出てきたように見えたけど……。
でも、あれも心の底からって感じじゃなかったからな。
けどそれなのに、貝島みたいにオレたちを責めてくる様子もないし、恨んでるって素振りでもないし。
かといってその割にはなにを考えてるのかも、一切言ってこないし。
だからそれはそれで、こっちも気を遣うしかなかったんだよ。
春日なんかは、それでも自然体で向き合おうとしてたけど……正直、木管女子の考えてることなんて、オレにはイマイチよくわからねえからな。
いや、だからって金管女子の気持ちなら分かるのかって言われたら、それもそれで微妙なんだけどさ……。
でも、あいつらの方が考えてることは分かりやすい気がする。
押さえるキーが少ない方が、考え方が単純なのかな? でもそうしたら、そもそも押さえるキーなんてないトロンボーンの連中が、一番単純明快ってことになるんだけど。
いや、そうでもねーよって反論来そうだけども。でも永田とか浅沼とか、城山先生とか見てるとちょっと、平和だなーって思うときあるんだよな……。
え、オレだけか?
えーと、うん。
まあそんな感じで、話は脱線しちまったけど。
関掘に関しては、オレたちもどう扱っていいか、距離感を測りかねたまま引退しちまったって部分はあるんだ。
だからそれが、心残りっていえば心残りだな。
あいつスッゲー上手くはなったから、それで副部長にもなったけど――それはそれで、貝島と同じく不安要素のひとつではある。
だから、それが来年の部活にどこかひずみを生まないか、そんな心配はあるな。
まあ、妙なことにならなきゃいいけど……。
あ? わかってるよ。
引退しちまったら、その部活は在校生のものだ。それは、わかってるんだけどさ。
なんつーか、それで全部放り投げてハイサヨナラ、ってわけにもいかねえ気持ちもあるんだよな。
それをさっき話した通り、貝島にも言われたわけだけど。
オレはもうそっちの人間じゃありません、じゃああとはよろしくお願いします、とか、そういうこと言うのはやっぱり、違うと思うんだよ。
だから別に吹奏楽部の片付けを全部放り投げるつもりもなかったし、それはそれでちゃんとやるつもりだった。
でもさっきも言ったけど、軽音部の用意は用意で、それは気になっちまうだろうこともまた、わかってた。
なにせオレもやるわけだからな。こんときばかりはダブルヘッダーって、本当に大変なんだなって思ったよ。正直自分でもなに言ってんだってくらい、気づくの遅えけど。
ってことで。
オレはあの後、吹奏楽部の本番までの自由時間を生かして、軽音部の部室に準備の手伝いに行ったんだ。
バタバタしてる時間帯にできないなら、せめて暇してる時間にでも――って、ない頭ひねって、考えたんだな。
でも、そんときも学校祭の最中だ。紘斗がそのとき部室にいるかどうかは、賭けみたいなところもあった。
最悪、部員全員が一日目みたいに学校祭を満喫してる可能性もあった。まあ、それはそれでしゃーないから、引き返して吹奏楽部の宣伝とかメシ食ったりするつもりだったけどな。
でも、オレは賭けに半分勝って、半分負けたんだ。
いたんだよ、部室にはひとりだけ。
コードや機材に囲まれながら、黙々と作業をする。
こっちもなに考えてんだか、よくわかんねえやつだけど――エレキベースの、石岡徹が。




