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軽音部のイカれた連中

「それじゃあ、イカれっちまったメンバーを紹介するぜ!」


 軽音部の結城紘斗(ゆうきひろと)は、滝田聡司(たきたさとし)に今回のバンドメンバーを紹介し始めた。


「まずはおれ! ボーカル兼ギター、結城紘斗!」

「わー」


 イエーイ、と両拳を天に突き上げる紘斗に、聡司は適当に拍手を送った。

 ボーカルをやっているせいなのか、紘斗は声が大きい。赤みがかった茶髪に裏表のないストレートな表情は、なんとなくヒマワリを連想させた。もう九月で夏の盛りは過ぎたはずなのに、紘斗の周りだけは気温が高いように感じた。

 彼は「ありがとうっ!」と聡司に言って、隣にいる他のメンバーを紹介した。


「ベース、石岡徹(いしおかとおる)! みんなテツって呼んでる!」

「……よろしく」

「お、おう」


 こちらは対照的に、静かな印象の男だった。ここに集合してからもほとんどしゃべっていない。というより、紘斗がひとりでベラベラしゃべっているだけなのかもしれないが。

 徹は真っ黒い髪に真っ黒い瞳で、眠そうに聡司のことを見ていた。あいさつはされたので、一応歓迎の意思はあるのだろう。「よろしく」と言っておく。


 むしろ問題はその次、銀縁メガネのいかにも優等生といった雰囲気の男子生徒だ。


「キーボード、岩瀬真也(いわせしんや)!」

「なあ、なんで秀才くんがいるんだよ」

「それはこっちのセリフだ」


 聡司のセリフに冷ややかに応じたのは、その秀才くん、真也だった。

 どうしてそんなあだ名がついたのか、それはこの外見だけの話ではない。

 彼は人差し指で、メガネのブリッシを押し上げた。


「おい、早くしてくれないか。塾の時間があるんだよ」


 こういう性格だからだ。こんなやつがなぜ軽音部に参加してるんだ、という聡司の疑問は、徹が解消してくれた。


「……キーボードもいなかったんだ。だからお前と一緒で、紘斗がスカウトしてきた」

「よく引き受けてくれたな……」

「ピアノやってたって話を聞いて、夜討ち朝駆け昼間かまわず頼み込んだんだ。そしたらそのうち根負けして、学校祭限定でキーボードを引き受けてくれた」

「それはまあなんというか……大変だったな」


 「ねーねーねー、一緒にバンドやろうよ、ねーねーねー」と真也の後ろをヒヨコにようについてくる紘斗が容易に想像できた。四六時中そんなことをされたら、塾通いの優等生もさすがに折れるだろう。


 ともあれ、これでなんとか面子は揃ったわけだ。軽音部の紘斗と徹、吹奏楽部の聡司、帰宅部優等生の真也、という寄せ集めメンツではあったが、みなそれぞれ経験者ではある。形にはなるはずだ。


 学校祭でやる予定だという数曲の楽譜をもらう。ギター、ベース、キーボード、そしてドラムの動きが全部書いてある、コンデンス・スコアだ。

 普段打楽器の楽譜しか見ない聡司にとって、それは新鮮ながら見づらいものでもあった。ドラムを叩いていたら楽譜をめくっている暇はない。そう思って聡司は紘斗に訊いた。


「なあ、ドラムだけ書いてある楽譜ってないの?」

「え?」


 まったく予想だにしなかったことを訊かれた、といったように、紘斗は目をぱちくりさせた。そのまま、首をかしげる。


「ないよ?」

「ないの!?」

「もし必要だとしたら、その譜面切り貼りして作る感じかなあ」

「マジで!? すっげえ手間じゃねえか!?」


 吹奏楽では、その楽器の動きだけが記された譜面があるのが普通だ。軽音部の譜面もそうだと思っていた聡司は、その違いに驚いた。そう言うと、紘斗も驚いたようだった。目を大きく開く。


「へー! 吹奏楽の譜面てそんなんなんだ! おもしろいな!」

「ていうか、同じ音楽関係の部活なのにこんなに違うのか……」

「だいじょーぶだよー。なんとなくで覚えてやればいいんだよ。楽譜なんて見ない見ない」

「マジかよすげえな軽音部」


 楽譜通りにやれと言われる吹奏楽部とはえらい違いだ。こんなんで本当に大丈夫なのかと思いながら、聡司は譜面をパラパラと見た。

 不安は大きいがそれと同時に、楽譜に縛られず自由に叩けて楽しそうだという思いもある。閉塞的な環境から解放されるかもしれないという気持ちは、これでさらに強くなった。

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