滝田聡司の告白 24
な、だから言ったろ?
あの事件で、一番迷惑をかけられたのは、豊浦なんだって。
まあ、ある意味、一番おいしいとこ持ってったって言い方もできるんだけどな。あんな風に盛り上がる本番なんて、これまでも、ひょっとしたらこれからだって、ほとんどないだろうよ。
その辺は、さすが紘斗っていうか。あの愛すべき馬鹿野郎というか。
あいつがいなけりゃ、豊浦はあのまま、なにもできなかったろうしな。
失敗しないことだけを考えて出した音なんて、本当つまんねえもんだ。
ん? ああ、わかってるよ。
それを理解してても、本番でトチるっていうのは怖いよな。
でも、豊浦はそのギリギリのところにいて、それを紘斗が超えさせてくれたんだ。
死ぬときは前のめり。
この半年ちょっと後に、豊浦自身が言ってた言葉だな。
ああ。
トランペットの人間は、そうでなくちゃ。
生きのいいトランペットは、その音だけでバンド全体を輝かせるからな。
――と、まあ、そんなわけで。
学校祭一日目の、この事件がきっかけになって、あいつの演奏は変わり始めたんだ。
それじゃ今度は、この本番があった後の、吹奏楽部と軽音部、それぞれの様子について話すことにしようか。
うーん、どっちから話すか、迷うところだけど……。
まあやっぱり、今回一番の被害者だった、豊浦がいる吹奏楽部の方から始めることにしようかな。
そうさ。
だから言ったろ?
あの事件で、一番被害をこうむったのは豊浦だけど。
結果的に、一番得るものがあったのも、豊浦だったんだって。




