最初の幕
学校祭一日目。
土日を利用して行われる川連第二高校の学校祭は、もちろん一日目にも一般客が入ってくる。
やはり活気付くのは、二日目となる日曜日ではあるが――今日は晴れたこともあって、そこそこの人が学校にやってきていた。
生徒の親、近所に住んでいるのであろう老夫婦、どこかの他校の生徒。
見慣れた校内を見知らぬ人たちが歩いているというのは、なんだか不思議な感覚だった。
そして、その校舎から少しだけ離れた場所。
体育館ではこれから、吹奏楽部のミニコンサートが行われようとしていた。
「……もうちょっとか」
本番用にセット楽器たち、そしてその部員たちの中で――
滝田聡司は体育館の時計をチラッと見て、そうつぶやいていた。
今はもう音出しも終わって、なにもしないで開演待ちの時間だ。振り下ろしまでの、数分間の無音状態となる。
その中で聡司は、今度は目の前にずらりと並んだパイプイスの客席を見た。客の入りとしては空席はあるものの、まあまあといったところだろう。去年も同じくらいだったような覚えがある。
満員にならないのは少し寂しいが、それでもこれから自分たちがやれるのは、精一杯演奏することだけだろう。
ここまできたらもう、そうするしかない。
だが――その客席の中に見知った顔がないことで、内心聡司は、少し慌てた。
「……あいつら、時間間違えてねーよな。大丈夫だろうな」
このコンサートを聞きに来ると言っていた、軽音部の結城紘斗の姿がない。
まあ、学校祭だしそんなにお堅い場でもない。途中入場でも全く構わないのだが。
しかし、それでもあれだけ行きたい行きたいと言っておきながら姿を見せないとなると、どうしたんだろうと思いたくもなる。本番までは、あと少しなのだ。
そんなわけで、聡司がソワソワしていると――
「……お、ようやく来た」
体育館の入り口に紘斗と、同じく軽音部の石岡徹、そしてなぜか今回の軽音部ライブには助っ人参戦であるはずの岩瀬真也まで姿を見せて、聡司はほっとしながらも、同時に首も傾げた。なんだあいつら。いつの間にそんな仲良くなったんだ。
まあ、岩瀬は元々クラシックピアノ出身なので、吹奏楽部の演奏には興味があったのかもしれない。
聞きに行こうかどうか迷っていたら、紘斗に誘われて、口では文句を言いつつ付いてきたとか――彼の性格を考えると、そういった流れだったろうことも、十分推測できた。
まあ、そんなのでも観客がひとり増えたことはありがたいのだ。
なので彼らが手近な席に着いたのを確認して、聡司はよし、と気合いを入れた。ひとまず、気になっていたことはこれで解決した。あとはもう、演奏に集中するだけだ。
そこでちょうど時間になり、顧問の先生が指揮を振るために、部員たちの前にやってくる。
吹奏楽部と軽音部。
聡司のこの学校祭における、二つの本番のうち、まず最初の幕が――
「……よし」
奇しくもその二つの仲間がいる前で、今、上がろうとしていた。
 




