嵐を呼ぶ男
「へー、じゃあおれも吹奏楽部のミニコンサート行ってみようかな!」
数日前、軽音部の練習が終わったとき。
滝田聡司は、軽音部ボーカルの結城紘斗にそう言われていた。
聡司は吹奏楽部から軽音部にヘルプで来ているため、学校祭当日は吹奏楽部と軽音部の、両方の本番に出ることになっている。
それでも時間帯は被っていないため、大丈夫なのだ。というか軽音部のライブは学校祭二日目の最後の最後、全ての出し物、屋台などは終わっている時間になるので、その辺りは問題なかった。
しかし――言い方を変えればそれはつまり、軽音部の人間はそれまで暇だということでもある。
これは学校祭の毎年のタイムスケジュールのせいで、体育館は直前まで二日目のミニコンサートで吹奏楽部が使用しているため、軽音部の方も準備ができないのだ。
なので去年も紘斗たちは、時間になるまで校内で普通に学校祭を楽しんでいたということだった。ただ、今年は聡司がいるということもあって、そっちにも行ってみようという話になったらしい。
まだ見ぬ舞台に目をキラキラさせ、紘斗が言う。
「そういえばさ、おれ吹奏楽のライブって行ったことないんだよね。去年はフツーに校舎の中を回ってただけだし。うん、今年はせっかくだから見に行ってみたいな!」
「おう、来い来い」
吹奏楽部としても、客席が埋まるというのはありがたい。なので聡司は、興奮気味に言う紘斗に対して笑ってそう答えていた。
そういえば、このあいだ同じ吹奏楽部のトランペット吹きが、吹奏楽部のコンサートの方は客の入りがそれほどでもないのに対して、軽音部のライブが満員になるのは納得いかないなどと話していたが――あれはつまり、先述のように大体のイベントが終わって、大半の生徒が体育館に集まるからなのではないか。
そんなことを思ったりもするのだが、まあ、それを時間帯のせいにしてもしょうがない。というか、それを紘斗たちに言ってもしょうがない。
今はとにかく、こいつらに来てもらって、楽しんでもらうことが重要なのだ。
そう思って、聡司は紘斗に言う。
「こないだ来た豊浦と春日もいるから、聞きに来てくれたらあいつらも喜ぶぞ。カタイ曲もやるけど、ポップスとかジャズ系もやるし、前知識なしにただ来ても普通に楽しめると思う」
「やったー! 行く行く!」
「じゃ、これがコンサートのチラシな。何時からとか書いてあるから。ホラ、ここな」
嬉しそうに両手を上げる紘斗に向かって、聡司はミニコンサートのチラシを差し出した。
それは先日、顧問の先生が小器用に作ったもので、何枚かもらっていたものだ。そのチラシに「おー!」と驚きの声をあげる紘斗を見て、聡司はまた、満足げに笑った。
ジャンルが違うと、同じ音楽系の部活といえども、意外に交流は少ない。
だったらその貴重な機会が、紘斗にとってもいい刺激になればと思った。自分も両方の部活に顔を出すようになって、色々考え方が変わったのだ。
似て非なるものと接することは、きっと彼にとってもプラスになるだろう。
このときの聡司は、ただそんな風に考えていた。
だが、これが学校祭一日目のコンサートの事件のきっかけになるとは――
この時点ではこの二人のうちどちらとも、予想もしていなかった。




