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滝田聡司の告白 18

 あれが、春日美里(かすがみさと)ってやつだよ。


 相手と全体の幸せのためなら、どんなにつらくても自分の意思よりそれを尊重しちまう。

 それはあいつのすごいところで、同時に変な癖でもあるなって今でも思うなー。


 まあそれは、あいつがチューバなんて楽器をやってたからこその性格なのかもしれないっていうのは、ちょっと思うな。


 あんなデカイ負担を抱えながら、譜面を通して常に全体を見ることを要求されるというか。

 一番下にいながら、一番上から俯瞰する楽器というか――チューバっていうのは妙に、『自分』以外の目が養われるような楽器である気がするな。


 まあ打楽器も、全体を見なくちゃならない面はあるんだけど。

 チューバのそれとはちょっと違うような気がするなー。どう違うんだって言われるとよくわかんないけど。

 チューバは身体的負担、打楽器は一発のプレッシャーが大きいから、精神的負担のが大きいか?

 まあ、それもどっちも、両方慣れていくだろうし。

 だから、なんていうかなあ。

 プレッシャーに強くなってく分、オレらはもうちょっと、『自分』が大きいと思うんだよ。


 それは別にいけないことじゃなくて。

 逆にあいつが、『自分』を小さく扱いすぎてると思うんだよな。

 オレたちくらいの方が、むしろ普通だと思う。


 (みなと)も若干、その傾向あるよな?

 だからそういうのを見てると、オレ、チューバ無理だなって思うなー。

 身長はあるけど、アレを進んでやりたくはねーわ。だから春日のあの思考パターンは、未だによくわかんねえ。


 まあ最近は慣れはして、突っ込めるようにはなったけど――

 でもこのときのオレはよくわかんなくて、オイオイなんなんだお前は、って感じだった。


 おまえそれ、尊重してるようで尊重してないだろ、というか。

 いや別に引き止めてほしかったわけじゃないけど、おおい、なんだそりゃあオイ、って思ったなあ。


 でも別にオレ、春日のそういうところが可哀想だから吹奏楽部に残ったとか、そういうんじゃないんだぜ。


 だってそりゃ、本当に春日の言ってた「好きなようにやればいい」とは違うだろ。

 貝島が泣いたら我慢するのか、って篤人(あつと)は言ってきたけど――まあ、一回は我慢するかもしれないけど、それがずっとはおかしいだろ、って思ってさ。


 だから本当に自分がやりたいようにやるのが、こいつの言葉に応えることになるのかなって。

 そう思って、人情だけで残るのはやめにした。


 え? おまえもおまえで、『自分』が小さいだろって?

 馬鹿言うなよ、春日に比べりゃこんなの、全然大きいほうだろうが。

 オレはフツーだよ。至ってフツーだ。……おい、なんでそんな、疑わしげな顔をする?


 えー……と。


 うん。

 まあそんな感じで、オレは次期部長のお墨付きをもらって、本当に自分がやりたいことを選べるようになったんだ。


 自由と孤独は表裏一体、って言うけど――まあいいんだか悪いんだか、妙な感じだったなあ。

 しがらみがないならないで、変な感じというか。

 いや別にめんどくせーのが好きとか、そういうんじゃ絶対ないんだけど、うーん……。

 それはそれで、納得いかなかったなあ。


 でもまあ、だとしてもそれはそれで、自分で選ばなくちゃならないのは確かなわけで――

 学校祭も段々近づいてたし、そんな気分だったけど切り替えて、軽音部の練習にも行ったんだよ。

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