表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/86

セッションするべ!

 さて、心配なのはこっちの方だぞ、と。

 滝田聡司(たきたさとし)はもう一方を見た。


 そこには同じ吹奏楽部の豊浦奏恵(とようらかなえ)と、軽音部の結城紘斗(ゆうきひろと)がいた。

 奏恵はトランペット、紘斗はエレキギターの担当だ。

 本来ならば一緒に演奏してもおかしくない楽器同士なのだが、奏恵にはどうも軽音部に馴染めないところがあるらしい。

 電子楽器の音量に負けたくない、と言っていた奏恵は、どことなく不満げな様子で紘斗を見ていた。


「……一緒にやろうって言ったって、なにするの」

「てきとーに合わせてみようよ。トランペットと一緒にやるの初めてだから、楽しみだなー」

「テキトーって、あんたねえ……」


 額を押さえる奏恵の前で、紘斗がギターを鳴らす。既にアンプをつないでおり、ジャーン、という音が部屋全体に響き渡った。

 それに、奏恵が口元を引きつらせる。


「……くそう。あんなのに負けてたまるか」


 トランペットは自分の口と息で音を出す楽器だ。

 エレキギターのようにアンプで増幅できるわけではない。そこがどうしても納得できないらしく、奏恵は紘斗に負けじと音出しを始めた。

 しかしやはり、どうにも分が悪いのは傍から聞いていてもわかった。

 しばらくして紘斗は「マイク使う?」と奏恵に言ったが、彼女は「自力でやるからいらない!」と突っぱねてしまった。

 ここは吹奏楽部ではない、軽音部だ。だから別にいいじゃねえかマイクくらい、と聡司は思うのだが、奏恵には奏恵なりのプライドがあるらしい。

 頑固にも、生音にこだわっている。その様子に今度は紘斗が不思議そうな顔をした。


「……目立ちたくないの?」

「んなワケないでしょ! トランペットなんて選んだ時点で、そいつはもう目立ちたがりよ!」

「自分で言っててどうなんだ、それは……」


 聡司は遠慮がちにそう突っ込んだが、奏恵は聞いていなかったらしい。

 吹奏楽部の花形楽器・トランペットを担当する奏恵は、半ばヤケクソになって紘斗に言った。


「やりましょうよ、ええやりましょうよセッションでもなんでも! 絶対あんたより目立ってやるんだから!」

「あはは。滝田、なんかおもしろいねこの人」

「面目ない。なんかほんと、ごめんなさい……」


 なんだか連れてきたこっちがいたたまれなくて、聡司は頭を抱えた。

 まあ、やる気になったことはいいことではあるのだが、肝心の演奏の方はどうなのか。

 奏恵がチューニングをしてなにかを吹き始める。それは今度の学校祭で演奏する『シング・シング・シング』――


「あ、ベニー・グッドマンじゃん」

「……へ?」


 紘斗がそう言ったので、奏恵は動きを止めた。

 確かに『シング・シング・シング』は、ベニー・グッドマン率いる楽団がアメリカで演奏をしたのが始まりだ。

 だから紘斗の言うことは正しいのだが――ただ、それを軽音部で聞くとは思わなかったらしい。

 ぽかんとした顔の奏恵に、紘斗は笑いながら言う。


「かっこいいよねー、それ。前になんか映画でやってたじゃん」

「『スウィング〇ールズ』……」

「そうそれ。『ジャズやるべ!』ってさ」


 ちょっと興味あって、曲とか調べたりしてみたんだよねー、と紘斗は続けて言った。


「それなら少し弾けるし、歌詞も知ってるし。じゃあそれでセッションしてみようかー」

「え、ちょ、う、歌!?」

「うん。おれはギター兼ボーカルだからさ」

「ていうか、あの曲に歌詞があるなんて知らなかったぞ」

「え、そうなの?」


 こちらとしても初耳だったので、聡司は紘斗にそう声をかけた。演奏ばかり気にかけていたので、歌があるなんて思いもしなかった。

 まあ確かに、言われてみればあのタイトルなら歌があるかもしれんよなあ、と思う。


 『シング・シング・シング』。

 そう冠されたあの曲は今、いつもと違う形で合わせられようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ