クロスバンドセッション
滝田聡司が吹奏楽部の春日美里と豊浦奏恵を連れて行くと、軽音部の二人からは「両手に花」と言われた。
「なんだよー。あんだけ吹奏楽部の文句言ってたくせに、贅沢だなあ」
「もげろ」
「そう言うなら一度あの中入ってみろおまえら……。あいつらは花じゃない。むしろ蜂みたいなもんだ」
ギター担当の結城紘斗とベースの石岡徹がそう言ってくるのを、聡司はジト目で見返した。
男三人でコソコソ話している様子に、奏恵がそれこそ蜂のような、うさんくさいものを見る鋭い視線を飛ばしてきているのを感じる。だがここはこういうところなので、しょうがないと流してもらいたい。
心身ともに刺されるのは勘弁してもらいたかった。女子だらけの吹奏楽部と、野郎だらけの軽音部のノリはまるで違うのだ。
そういった感じで、同じ音楽系の部活でありながら、この二つの部は男女比だけではなく部活の雰囲気、やり方やその他もろもろまでもが違いすぎた。
だがそれならば、もしかしたらこれをお互いに見せれば実はいい刺激になるのではないか。
両方の練習に出た聡司はそう思ったのだ。
そうすれば、真面目すぎてなんとなく居心地の悪い吹奏楽部も、ノリでやりすぎてとっちらかってる軽音部も少し変わりそうな気がする。
そんな思惑があって美里と奏恵の二人を連れてきたというのは、あった。
だから聡司は、紘斗と徹に言った。
そして美里と奏恵にも。
「あーもう。連れてきたからあとは勝手に頼むぜ。おい春日、エレキベースやってみたいんだろ」
「はいー」
「じゃあ徹、よろしく頼む」
「わかった」
エレキベースと同じく低音楽器のチューバを担当している美里が、のほほんと返事をしてテコテコと徹のところへ歩いていく。
元々、軽音部に行ってみたいと言い出したのは彼女だ。奏恵と違って乗り気である。
「豊浦には紘斗がついてやってくれ。トランペットとセッションしてみたいんだろ?」
「してみたい!」
「せ、セッションんんん……?」
吹奏楽部ではまず使わない単語に、奏恵がさらにうさんくさげな顔をした。だがそれに構わず、紘斗は奏恵を引っ張っていく。
奏恵には一応トランペットは持ってきてもらったので、まあどうにかはなるだろう。
聡司は自分の定位置である、ドラムのイスに座った。
息と唇を使って音を出す管楽器と、弦を弾いて音を出す弦楽器。
まったく異なる原理で動く者同士が重なる様子を、聡司はさらに違う打楽器の位置から眺めることにした。




