滝田聡司の告白 14
楽器を久しぶりにやる、っていうのはどういう心境になるのかね。
岩瀬や千渡みたいに、すげえ嬉しくなるのかな。
オレは高校で始めたから、今みたいに引退して、しばらく楽器に触れてないっていうのは初めてなんだ。
だからまだ、その感覚はわからない。
次に楽器を触ったときに、それはわかるのかもしれないな。
そうだなあ。
確かに、なんかな。
当たり前にあったものがなくなって、なんか足りないような気がするんだよな。
片足がなくなった……ってほどじゃないけど。
それに近いような、少しずつどっかに淀みが溜まってくような。そんな気はするんだよな。
だから春日は大学に行っても楽器を続けるみたいだし、オレらの代はそういうヤツ多そうだ。
あ、そうそう。オレ大学受かったよ。
ありがとう。……言うのが遅い? ああ、すまんすまん。
いやー、ようやく自由だよ。
春日みたいに国立のいいとこ目指してたわけじゃないけど、これでようやく一安心だ。
だからちょっと、その先のことまで考える余裕が出てきた。大学行ってどうしようかなって。
……キャッキャウフフのキャンパスライフ?
で、できるかなあ、オレに。
あ、でもバイトとかはやろうかな。なにがいいかなあ。
コンビニの深夜……は、時給は高いけど大変そうだよなー。
ファミレスのキッチンとかもいいかな。
そういえばウチの近くに、ウエイトレスの制服がかわいい店があって……あ、はい。すみません。
いや、すみませんじゃねえよ!
なんだよう、いいじゃねえかよう! かわいいものをかわいいって言ったってよう! かわいいは正義なんだろうがよう!
……そういうこと言うからキモイんだって?
なんかもう、なにを言っても自爆するしかなくなってきたな……。
うん、まあそんなわけで。
オレは助っ人のクセにちょっと軽音部に口出そうかなと思ったわけだ。
本来そんなこと、しないほうがいいんだけどな。あくまでお手伝いなんだし。
けどまあ、あいつらならいいかなって思った。
吹奏楽部のやつらと違って、多少思ったことを言ってもあの雰囲気なら大丈夫だろって。
だからそんなに心配はしてなかった。
むしろ心配なのは、吹奏楽部の部員たちで――うちの学年でひとりいたろ。あんまり軽音部にいい顔してなかったやつ。
うん、この時点でこそそうなんだけどな、あいつ。
でもあいつこそ今は、もう楽器無しじゃ生きられないんだろうな。
トランペット――豊浦奏恵。
あのバカの覚醒前は――うん、まあやっぱりバカなんだけどな。




