滝田聡司の告白 13
永田は、最後までよくわからんやつだったなあ。
いや、わかるんだけど、「よくは」わからないんだよな。
引退しても、それは変わらねえや。
まあ、なんだろ。
それでもいいや、って思えるのは、やっぱうちの学年仲よかったってことなのかな。
仲いい……そうなんだろうなあ、たぶん。
そういえば正月に、みんなで大学の合格祈願のお守り買いに行ったんだ。
引退してみんな背負うものがなくなって、今までより楽に話せるようになった気がしたな。
現役だった頃もよかったけど、引退してからも話すってのもいいよな。
まあ相変わらず男ひとりで、周りから見たらどうだってことはあるんだけど。
でもオレにとってあいつらは、別になんというか、そんな対象ではないんだよな。
あいつらだってそうだろ。
合格祈願のお守り買うんだっちゅーに、みんながみんなして「滝田は縁結びだろう」「縁結びじゃないですか」「縁結びだねえ」「縁結び以外なにがあるの?」とか言いやがった。
巫女さんに笑われたじゃねえか。まったく。
……どちくしょう。
……まあ、うん。
そんなわけで、よくわかんねーやつだけど永田はやっぱり上手かった。
あいつが合奏に入ってから、叩く腕が軽くなったような気がしたんだ。
シング・シング・シングみたいなジャズトロンボーンだと、あいつみたいにパキパキ出すようなやつは『ぽく』聞こえるし、曲運びもスムーズになるんだよなー。
トロンボーンって、はっきりした音を出すのが案外難しい楽器なんだってな。
音を出すときに、スライドを指定の位置に動かし終わってなきゃいけないとか、なんとか。城山先生がそんなこと言ってた気がする。
オレは打楽器だからよくわからねえけど、常にそれをやりつつ口も動かしつつっていうのは、言葉にすると簡単だけど案外難しいんだろうな。
……こないだおまえも、ドラムは訓練だって言ってたろ?
ま、まあ、そうか。
なにごともそういうことなのかな。
はじめはできなくても、やってるうちにできるようになるんだろうな。
そうだなあ。
楽器でも部活でもそれは一緒で。
そんな風に永田が吹奏楽部に来るようになって、やっぱり人がいると違うなーって、オレは思うようになったんだ。
上手いやつなら、なおさらだ。
だから軽音部でも同じことができたらいいなって思った。
ほら、あいつだよ。
軽音部に一回来た、キーボードの優等生。
岩瀬真也。
あいつも来れば、もっとおもしろくなるんじゃないかって思った。




