滝田聡司の告白 12
どっちがいいとか、悪いとか、そういう話じゃないけどさ。
リズムっていうのは、曲によって違うんだ。
マーチとかワルツはわかりやすいかもしれないけど。
他にもボサノバとか、ラテンとか、とにかく曲にはそれぞれ、ずっと流れてる固有のビートがある。
そのパターンっつーか、ノリは曲によって違う。それがひとつの「味」になってると思う。
そのリズムのとらえ方というか、ノリの感じが演奏会中ずっと同じなのは、ずっとカレーばっか食ってんのと同じで飽きるんだよな。
いやカレーうまいんだけど。毎日それはちょっとなあ。
でもあいつらは真面目だから、「カレーがいい」っていったらずーっとカレーばっか作り続けるんだよな。
ああじゃねこうじゃねって分量変えてよ。
もう違う料理作ればいいのに、って言っても「真面目に作れ!」ってきかないんよな。
それでスゲーうまいものが作れるのかもしれないけど、気がついたら食べさせるやつがいなくなってた、なんてなってたら本末転倒だと思うんだけどなあ。
ま、そんなこと言う前に、おまえは一発でうまいもん作ってみろって話だけどよ。
ああ、ちなみにオレは、結構料理は作れる方だぜ?
カルボナーラとかふつーに作る。
あー圧力鍋ほしいなあ。角煮とか作りたい。
プリンもこないだ作ってみたんだ。
ぷっちんな感じじゃなくて、とろける系の……って、え? キモイ?
……なんで?
……まあ、とにかく、演奏において「ノリ」っていうのは単純に雰囲気だけの問題じゃなくて、しっかり音楽要素としてあるってことだな。
そのノリを出せるやつ、実はうちの学年にひとりいたんだよな。
マイペースがすぎて部活に来るペースもマイペースすぎて、今までこの話には出てこなかったけどさ。
それが、美原が言ってたキープレイヤーのひとりだ。
暗譜が得意で、でもカレーばっかりの吹奏楽部に飽きて。
来たり来なかったりを繰り返していた、オレと同じく異質な女子部員。
トロンボーンの――永田陸。




