不完全な楽園
「いやー! うまいよな滝田は。さすが吹奏楽部!」
軽音部の練習につきあった後。
滝田聡司は軽音部の結城紘斗にそう言われた。
「なんか、音がキレイだよなー。真面目に練習してるんだなーって感じ」
「そ、そうかぁ……?」
これでも、吹奏楽部に帰ると「音が雑」と言われる方なのだが。
しかし最近わりとちゃんとやっているおかげで、確かに腕は上がっていた。
今までは純粋に、練習不足の面が大きかったのだ。ああ、意外とやればできるんだなオレ、と自分のことながら、聡司はそんな風に思っていた。
いろいろできるようになってきて、ドラムを叩くのが楽しくなってきたのもある。
しかしこれって、真面目っていうのか。聡司は首をかしげていた。
「真面目っていうなら、ウチの部の女子どものほうが、よっぽど真面目なんだけどなあ」
「じゃあそいつら、すっごくうまいの?」
「……いや、なんか、そう感じないときもあるんだよなあ」
あの子じゃダメ、と言われていた、自分よりリズムが正確な後輩。
ジャズはそういう吹き方じゃない、と言われていた、トランペットの同い年。
彼女たちは聡司にはとても上手く感じて――けれど同時に、どこか物足りなさも感じていた。
「真面目すぎてなんかつまんねーっていうか、そうじゃねーっつーか」
「ノリが悪い?」
「あー。そう。それ。そうかもしれねえな」
紘斗のセリフに聡司はうなずいた。
そう、吹奏楽部はいまいちノリきれてない。
特に今回学校祭でやる「シング・シング・シング」というジャズの曲はそれが顕著だった。
合奏では先生に何度も注意されている。
テンポもリズムも正確なのに、合っている気がしない。
そう、「ノリが悪い」のだ。
紘斗の言うそれは、あの状況にしっくりと合っていた。
だがまさか、軽音部でその原因がわかるとは思わなかった。
少しすっきりしていると、紘斗が伸びをして、言った。
「真面目にやるのはいいけどさー。やりすぎるのも考えもんだよなー」
「……そういえば岩瀬って、あれからどうなんだ」
軽音部は不真面目すぎる、と怒って練習を出て行った、もう一人の助っ人の名前を聡司は出した。
あれから彼を軽音部では見ていない。
本番には出るとは言っていたが――それまでなんにも合わせないのも、どうなのだろうか。
本番では、なにが起こるかわからない。
不安からの発言だったのだが――紘斗はお気楽に笑って、「あいつも上手いし、大丈夫だろ」と言った。
「それより、カラオケ行こうぜカラオケー。歌い足りねえよー」
「あ。ああ……」
軽音部はノリがよくて、思い切り叩いてもなんの文句も言われない。
「けど、なんか……」
でも、こちらもこちらで、どこか物足りなかった。
吹奏楽部にはないものが、軽音部にはあった。
軽音部にはないものが、吹奏楽部にはあった。
それはどっちもどっちで――どっちがいいとか悪いとか、そういうものではないように思えた。




