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滝田聡司の告白 9

 中島篤人(なかじまあつと)は結局、最初から最後まで馴染めなかったんだろうな。

 途中入部だからって気を遣ってたのが、かえってあいつを遠ざけることになってたのかもしれない。


 こうなる前に気づいてれば、だいぶ違ったんだろうけどな。

 オレがいて、篤人がいて。

 そこに(みなと)が来たら、どんな感じだったのかなとは思うな。


 部活終わりに、三人でゲーセン行ってさ。

 女子どもの悪口で盛り上がってたかもしれねーな。

 「あいつらなんなんだよ!」ってな。

 ……ま、今と変わらねえか。


 あいつは頭よかったから、ひょっとしたら、オレたちの行く末もだいぶ変わってたかもしれない。

 まあだからこそ、考えなくていいことまで考えてあんなことになっちまったのかもしれないが。


 それに、あいつがいなくなったからこそ今の春日美里(かすがみさと)があるんだって言い方もできる。


 あれからだよ。

 春日が「みんなが言いたいことを言える部活を作る」って公言するようになったのは。

 前々から思ってはいたんだろうが、それまでのあいつはどっか頼りなかったしな。

 言ってもやっぱり、説得力がなかったと思う。


 それが篤人がいなくなって変わった。

 アホみたいに強くなった。それは三年になってからのあいつの言動を見ればわかるだろ?


 そしてそんな春日だったからこそ、今の湊がいるとも言える。


 春日は強くなったが、弱いところは相変わらず弱いまんまだった。

 あいつはやっぱり、自分の周りの人間が好きなものを放り出していなくなっちまうことが、すごく嫌だったんだ。

 富士見ヶ丘高校の……誰だっけ。まあ、春日の友達が部活辞めたときだって、そうだったろ。

 この弱点が継続してたからこその、強さだったとも言えるんだがな。けどそのしわ寄せは、やっぱり少しだけど後輩に行ってたと思う。


 ひとりは関掘まやか。

 篤人の退部を止められなかった、というか、そもそもオレたちが辞めさせたようなもんだからな。

 関掘には、どうしても春日はかなり気を遣うようになっちまった。


 でも残された後輩には、続けてほしかったんだ。

 つらいけども、それがオレたちの意思だった。


 関掘本人も、やり続けるって言ってたしな。

 そこからの努力の仕方がちょっと異常で、それがまたさらに春日が心配するひとつの要因になったんだが……。


 そしてもうひとりは、湊鍵太郎。

 初めてできた同じ楽器の後輩ってことで、春日の溺愛っぷりはすごかったからな。

 はたで見てても、おいおい大丈夫かって思うくらいで……。


 ……大丈夫じゃない? 今ちょっとひどいことになってる?


 あー……。うん。そっか。

 本当にオレたちはどうしようもないな、オイ……。


 あいつはオレたちのことをすごい先輩だなんだって言ってたみたいだけど、本当、全然、そんなことないなもう。

 むしろオレたちはあいつに謝らなきゃいけないくらいじゃないか。あーもう。くそ。



 ……まあ、そんなことがあったからこそ、今があるっていうのは、本当だ。


 篤人が辞めたから、今の春日があって、関掘があって、湊がいる。

 あいつも、自分がいなくなった影響が顔も知らない後輩にまで及んでるっていうのは、考えもしなかっただろうな。


 でも、個人的な意見だけどさ。

 いなくなったからこその影響じゃなくて、いるからこその影響の方が、オレはやっぱりいいなと思うんだ。

 だから、やっぱりオレは、あいつと一緒に引退したかった。

 そういうことなんだ。



 中島篤人と坪山亜里沙がいなくなったことは、事情を知らないやつらから見れば、別れて気まずくなって部活を辞めた、って感じだ。

 音楽関係の部活ではよくあるみたいだな。そういう恋愛沙汰。

 振られたショックで、とか。ドロドロの三角関係の末に、とか。


 ……オレには無縁だけどな。

 ああ。うん。悲しくなるからなにも言わないでくれ。


 ……えーと、なんだ。

 そう、そういう人間関係がこじれていなくなる、っていうのは、どこでもよくある話だよな。


 でも、オレたちみたいな音楽関係では、そういうのをオブラートに包むための言葉がある。


 「音楽性の違い」ってやつだ。

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