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滝田聡司の告白 8

 揺れ動いてたって言うけど、結局おまえは吹奏楽部(そっち)を選んだんだろう、って?


 そうだよ。だから今オレはこうしてこの話をしている。

「最終的には」こっちを選んだんだ。


 理由は……まあ、いろいろ重なってな。

 それはこれから話すよ。ここからもまた、いろいろあったんだ……。


 ああそうだ。誤解がないように言っておくけど、軽音部のやつらが言う「楽譜通りになんてできない」っていうのは、別に間違いじゃあないんだ。

 市販の楽譜には、原曲そのままの――プロの超絶技巧ソロが、そのまま書かれてるものだってあるからな。

 そんなもんそのままできるわけないし、やるとしたら簡易版になるか、イチから自分でカッコイイと思ったものを作ることになる。

 とにかく、結構な難易度になることは間違いない。だから最初からあきらめてたっていうより、最初から無駄だってわかってたから自分のできる範囲でやれることに力を注いでたんだろうな。

 紘斗なんてボーカルを兼ねてたから、歌ってる間はずっとパワーコード弾いてたもんな。歌いながらギター弾くって、口で言えば簡単かもしれないけど、やってみると大変だぜ?


 ……なら、手と足を別々に動かすドラムだって大変だろうって?


 あー。あれな。訓練だよ訓練。

 試しに、足で四分音符刻みながら、手拍子で倍の八分音符叩いてみ?

 意外とできないもんだよ。最初は。でも段々できるようになってくる。


 そんな風に、思ったことが素直に出てくるように身体を慣らしていくんだ。

 だから訓練。その訓練が……まあ、岩瀬は足りないって思ったんだろうな。あいつはピアノ習ってたっていうから、考え方がどっちかっていうとクラシック寄りだったんだろう。


 ライブ感が重要な軽音と違って、クラシックや吹奏楽だと楽譜の再現性っていうのが重要視されるからな。

 あいつやっぱり真面目だから、時間ないところをがんばって練習してきたみたいだ。

 で、他の面子が全然楽譜通りにやってないのを目の当たりにして、なんか裏切られた気分になったらしい。

 紘斗の勧誘が熱心だったからこそ、余計な。

 まあその辺りは、育ってきた文化が違うからこその行き違いで。今はオレと同じで、その辺をあいつは理解してるみたいだ。


 そんな風に、知らないからこその誤解って結構あるもんだよな。まあ、知っても納得できないってことも、多々あるけどよ。


 そんな細かい誤解が積み重なって、解きほぐせないくらいになっちまったら――オレもひょっとして、吹奏楽部を辞めてたかもしれないな。


 実際、オレらの代にはそんなやつがいたんだ。

 名前だけは聞いたことあるよな? 「中島」って――フルートの、男子部員。

 当時つきあってた同じフルートの女子部員とさようならして、そのまま部活もさようならしちまった、オレと同じ代のやつだよ。


 中島篤人(なかじまあつと)


 無責任なやつと思われてるかもしれない。

 それでもやっぱりオレは、あいつと一緒に引退したかったな。

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