シルバーのPEUGEOT 206
場所
イギリス ロンドン ブリッジ駅
私は、重たいキャリーケースを引きずりながら、駅の改札口の前を通り過ぎる。
連日の激務のせいで
睡眠時間がほぼ0に等しく、気分が悪い。
人々の足音がガンガン頭にひびく。
湧き上がってくる吐き気を飲み込み、足を早めた。
人の波を掻き分けながら、キャリーケースをもっていない方の手で、iPhoneを取り出した。
7:39
画面に表示される予定通りの時間。
間に合った事に安堵しながら、
私は小走りで駅を出た。
途中で何回も怠そうなサラリーマンにぶつかり、吐きそうになりながら
やっとの事で駅を出た。
眩しい日光をうっとおしく思いながら、目当ての車を探す。
あたりを見渡すと、見覚えのある、シルバーのPEUGEOT 206を見つけた。
私は乱暴にドアを開け
重たいキャリーケースを放り込むとシートに滑り込んだ。
「168まで」
私はパンプスを脱ぎ捨てながら運転手に告げる。
運転手はミラーで私を見ると、黙って車を出した。
乱れたスーツを手早く直し、髪を結び直すと
窓の外を見つめた。
小さな花が植えられたハチがどんどん流れて行く。
疲れを感じた私は、
今のうちに少しでも休んでおこうと
瞼を閉じた。