表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

last story

10/

 俺に向かって放たれた炎。

 くそッ、なんの打開策もない。

 「君は何をやっているんだ」

 一人の男が俺の前に立った。

 炎が一瞬で消えた。

 「君に死なれては困ると何度言ったらいいんだ?」

 「お前、なんでここに・・・」

 もう一人の俺が俺の目の前にいる。

 「君はここから離れていろ」

 「だからなんでここに・・・」

 「いいから離れていろ」

 もう一人の俺は怒鳴った。

 俺が少し離れるともう一人の俺は消えた・・・隼人の後ろに。

 「彼女から離れろ」

 「!?」

 もう一人の俺は隼人を蹴り飛ばし、地面に転ばせた。

 「そんなに死にたいなら死ぬといいよ」

 もう一人の俺がぱちんと指を鳴らす。

 その合図で隼人の周りに火がついた。

 「熱い、熱い、熱いよぉ」

 火達磨になりながら隼人が暴れている。

 しかし、それもいずれおとなしくなった。

 もう一人の俺が梓を抱きかかえる。

 「てめぇ」

 周りにいた異能者が一斉にもう一人の俺に殴りかかる。

 もう一人の俺は俺の目の前に立っていた。

 消えた!?、瞬間移動か?、などと異能者たちが声を上げている。

 「彼女を」

 梓を俺に渡してくる。

 「梓、大丈夫か?」

 返事はないものの梓は俺に軽く微笑んだ。

 異能者たちがこちらに向かってくる。

 「止まれ」

 もう一人の俺が放ったこと言葉は低く、重いものだった。

 場の動きが止まる。

 もう一人の俺が能力を使ったわけじゃない。

 先ほどの言葉はそれほどのものだった。

 「僕はあなたたちを殺しに来たのではありません。 彼らを少し助けに来ただけです。 もし、あなたたちが僕や彼らに危害を加えるようなら殺します」

 「おー、そうだそうだ。 お前たち手を出すんじゃないぞ」

 男が俺たちの後ろに立っていた。

 「しかし、こいつらは・・・」

 「黙れ」

 その一言で異能者は口を開かなくなった。

 「悪かったな、部下が君たちに暴力を振るってしまって」

 俺たちの後ろにいる男は俺に手を差し伸べてくる。

 その手には掴まず、問う。

 「あんたは、一体・・・」

 「俺か? 俺の名前は朱鷺とき しゅう。 この異能者の集団をまとめているモンだ」

 「それじゃあ、あんたがこのエリアを襲った張本人だって言うのか?」

 「そうだ。 けどな兄ちゃん、この状況は俺にも予想外なことだ」

 そういって朱鷺 周はもう一人の俺を指差す。

 「あんたのその能力、もしかするとあんたはあの男の息子かい?」

 「さぁ? どうだろうね」

 もう一人の俺はあの男じゃわからないよ、と朱鷺 周に告げる。

 「あの男って、まさか・・・」

 もう一人の俺に殴りかかろうとしていた奴らの中の一人が声を上げた。

 「そうだ、俺たちの集団はなぜここまで減った? 野郎どもそれを考えてみろ」

 朱鷺 周がそう言葉にすると異能者たちが反応し、騒がしくなった。

 朱鷺 周が肩に付いているトランシーバーで命令を出す。

 「・・・・・・ああ、そうだ。 だから、絶対に撃つなよ」

 朱鷺 周がもう一人の俺に話をしだす。

 「悪かった悪かった、君がいるんじゃ、このエリアには手出しは出来ないな」

 今の異能者たちの会話からして思い当たる節があった。

 それを言葉にしようとしたが、もう一人の俺が俺の口をふさぎ、話し出す。

 「そういってくれるならありがたいな。 じゃあ、さっさとここから消えてくれ」

 「いいだろう、野郎ども、撤退だ」

 「しかし・・・」

 一人の異能者が反論しようとしたが、朱鷺 周に一言によってその口を閉じた。

 異能者が次々とエリアの外に出て行く。

 しかし、俺には納得がいかない。

 エリアをこれほどめちゃくちゃにしておいて、撤退するだと?

 ふざけるな。

 俺は朱鷺 周に殴りかかろうとしたがもう一人の俺に止められた。

 「君には彼女がいるだろう?」

 その一言によって、少し平常心を取り戻した。


 異能者たちが完全に見えなくなる。

 異能者たちの集団がこのエリアを離れた、ということだろう。

 「なんでだ?」

 俺はもう一人の俺に問う。

 「なにが?」

 「何であいつらを殺さなかった? お前になら出来るだろ」

 はっ、ともう一人の俺は息を吐く。

 「僕は正義の味方ではない。 帰ってくれただけマシだと思え」

 「ふざけんな、さっきの争いで人が、たくさんの人が殺されたんだぞ。 それで帰ってくれただけマシだ? そんなの・・・」

 「どうしてこうなったかを考えろ。 人間たちが今まで異能者たちにどれだけの大罪を犯した? それを今になって払うツケが来ただけのことだろうがッ」

 もう一人の俺が胸倉を掴んだ。

 だが、その手はすぐに離れた。

 もう一人の俺の体が吹っ飛ぶ。

 「くッ」

 もう一人の俺がわずかな悲鳴を上げるのと同時に、時間が止まった。

 今ここでは俺ともう一人の俺しか動いていない。

 「な、にが・・・」

 一瞬のことに事態を把握しきれていない。

 もう一人の俺が立ち上がった。

 腹部からは血が出ている。

 腹を押さえながらこちらに歩いてくる。

 俺の目の前に立ち、もう一人の俺が話し出した。

 「ある男の話をしよう。 男と女二人の人物がいる。 その二人は互いに好意を持っていた。 男と女はあるビルの中を歩いていた。 すると、突然ビルが崩れ始めた。 そのせいで女が足場をなくし落ちかけるが、男が女の腕を掴み落下は阻止した。 しかし、男は腕に傷を負い一人では女を上げられなくなってしまった」

 「その話って・・・」

 もう一人の俺は目で口を挟むな、と言っている。

 「続けるぞ。 そこに二人の男がやってきた。 女を掴んでいる男はその二人に助けを求めた。 男たちはこう言った。 その女、人間じゃないんだろ。 そう言って男たちは女の救出を断った。 そして、女は男を巻き込まないようにと男の手を払って下へと落ちていった。 男は嘆いた。 どうして人間か人間じゃないかで女は死ななければならなかったのか。 人間か人間じゃないかはそれほど重要なことなのか。 男は決意した。 そんな考えを持つ人間を殺そう、と。 そして男は人を殺した。 殺して殺して殺し続けた。 そして男はある男に出会った。 出会った男は男に向かってこう言った。 そんなことをして彼女が喜ぶとでも思っているのか。 そこでようやく男は気づいた。 いくら人間を殺し続けようと、女は戻ってこないし、女は喜ばないんじゃないかと。 そして男は過去へと戻った。 そして、女を見捨てた男を一人殺し、もう一人の男を殺そうとした。 しかし、それはその時代の自分自身によって阻まれた。 そしてその男は崩れたビルの中その時代の自分自身と女を助けた。 これがある男の話だ」

 ・・・・・・そうか、もう一人の俺は人間を殺すためにこの時代に来たんじゃなく、女、つまり梓を助けにこの時代に来た、ということか。

 「人間は過ちを繰り返す。 人間は人間のことしか考えていない。 だから俺は人間が大嫌いだ」

 俺?

 もう一人の俺が初めて自分のことを俺と表した。

 「一つだけ言い忘れていたことがある。 君の親父はもう死んでいる」

 親父が?

 「そんなはずないだろ。 だって、俺にはまだ力がない」

 そう力がない。

 俺の一族には代々受け継がれてきた力がある。

 それは途中で途切れさせてはいけない、親父は昔、そんなことを言っていた気がする。

 「君に力がないのはこの時代に俺がいるからだ。 俺は未来のお前だから」

 未来の俺・・・、ということは力を持っている、ということか・・・・・・。

 ・・・そうか、力は同じ時代に二つあってはならない。

 そのため親父が死ぬ寸前に俺に能力を継承したとしても、もう一人の俺がいるから俺には力は宿らないってわけか。

 「君の親父はあの異能者の集団に殺されたんだろう」

 「え?」

 「奴らの言葉を思い出せ、あいつらは俺と同じ能力を持った男とあったと言っていただろう」

 「あいつらが親父を・・・」

 一瞬にして殺意が湧いた。

 しかしその殺意はもう一人の俺の言葉によって霧散した。

 「君は彼女についていろ」

 もう一人の俺が歩き出した。

 「どこに行く?」

 「異能者の集団はまた来る」

 それを止めるのか、その体で。

 「十夜とうや 八識やしき。 君は君の考えで行動しろ。 このままだといずれ反乱は起きる。 お前がそれを止めろ」

 そういうともう一人の俺は消えた。



 重たい体を引きずりながら、やつらの前まで行き、時間を元に戻す。

 「お前、お前は殺したはずじゃ・・・」

 朱鷺 周が驚いている。

 「あんな一発じゃ俺は死なねぇよ。 お前ら覚悟は出来てるんだろうな?」

 「はっ、怪我人がよくいうぜ。 野郎ども撃てぇええええ」

 時を止める。

 ポケットからナイフを取り出し、異能者の首を次々を斬っていく。

 全員の首を斬ったところで時間を元に戻す。

 異能者たちの首から血が噴出している。

 これで間違いなく全員殺しただろう。

 俺はその地面に倒れた。

 血を流しすぎたようだ。

 未来は変わった、よな?

 だんだん意識が遠くなる。

 そして俺は絶命した。



 俺は梓を抱きかかえながら家へと戻った。

 途中でもう一人の俺がどこにいるかわからないことに気がついた。

 ということはこの時代から消えたか、あるいは死んだか。

 あの出血からしてたぶん、もう・・・・・・。

 俺は梓を抱えたまま家へと戻った。

 家では梓をベッドに寝かせ、俺は家を後にした。


 あてもなく歩き続ける。

 俺の頭の中ではぐるぐるとある言葉が繰り返される。

 いずれ反乱は起きる、か。

 もう一人の俺が別れ際に放った言葉。

 わからない。

 なぜだ、なぜ反乱は起きるんだ?

 十夜、織髪、宇翼。

 この三つの一族が存在する限り、反乱は失敗に終わるはずだ。

 現に、昔起きた人間と異人の戦争、それを止めたのは言うまでもなく十夜、織髪、宇翼の一族。

 この三つの一族は異能者たちとは違う特別な能力を持っている。

 そして、十夜の末裔である俺には十夜の一族が代々受け継がせてきた時を操る能力が使える。

 時を止めるのはもちろん、過去に行ったり、未来に行ったり、時に関係するものならばすべてが使える。

 もし、もう一人の俺が言っていたように親父が死んでいて、親父が俺に能力を継承していればの話だけどね。

 一度、能力を試してみるか・・・・・・。

 時よ止まれ。

 心の中でそう思う。

 ピタリ、と周りが止まった。

 動くもの全てが、この世の全ての時間が止まった。

 「はは・・・・・・」

 これでわかってしまった、親父は死んでこの世界にはもう、いないのだと・・・。

 時間を元に戻す。

 なにもなかったように歩き出す人々。

 実際、俺以外の人にとっては時を止めたなんて誰にもわからない。

 ふらふらと歩く、歩く。

 気がつくと廃工場に来ていた。

 工場の中に入り、腰を下ろす。

 もう一人の俺が使っていた場所、か。

 何か反乱に関して手がかりになるものはないか探したが結局は何も見つからなかった。

 そしてもう一つ、俺は考えなければいけないことがある。

 この工場でもう一人の俺が言っていたこと。

 人間と異人は分けられている。

 あの時は俺が変えると言ったが、もし、政府が絡んでくるようであれば本当に厄介だ。

 政府が持つ国一つは簡単に消せる軍事力。

 俺一人では難しいかもしれないな。

 今はとにかく情報が足りなすぎる。

 それにもし反乱が起きるのであれば、それこそ俺一人では難しい。

 やっぱり、ここから出て行くしかないのだろう。

 俺は立ち上がり、工場を後にした。


 家についた俺は部屋にいた。

 部屋で何をやっているかというと・・・・・・。

 コンコン、とドアをノックされる。

 八識帰ってきてるの?、と梓の声が聞こえる。

 「え、あ、ちょ、ちょっと、ドア開けるの待って」

 俺はモノをベッドの下に押し込む。

 がちゃり、とドアの開く音。

 「なにやってんのよ八識」

 「べ、別に何にもしてない」

 「怪しいわね」

 「何にもしてないから。 それより俺に用があったんじゃないのか?」

 「用はあったんだけど、それより話を変えようとしないで。 実際のところなにやってなのよ」

 「だから、何もしてないって。 おい、そこいじるなよ」

 がさごそと俺の部屋を漁る梓。

 「なんにもないわね」

 「もう気は済んだか?」

 じー、と俺の見てくる。

 「な、なんだよ」

 「本当に何もやってない?」

 「ああ、そう言ってんだろうが」

 「そう、ならいいわ」

 「で、お前は何しに来たんだよ、というより何で動いている? お前寝てなかったか?」

 「それはお母さんが治してくれたから、もう動けるようになったの」

 なるほどね、じゃあもう紗夜子さんは帰ってきてるってわけか。

 「夕飯できたって」

 「あ?」

 「だから、夕食の準備ができたって」

 「わかった、すぐ行くから梓先に行ってていいぞ」

 「待ってる」

 「は?」

 「八識が来るの待ってる」

 ・・・・・・しょうがないな、アレは後でやるか。

 「じゃあ、さっさと飯食いに行こうぜ」

 俺は梓を強引に部屋から連れ出して、居間へと向かった。


 飯も食べ終わり、自室へと戻ってきた。

 さっさとアレを終わらせるか。

 ベッドの下からモノを取り出して、中に物を詰める。

 ―――三十分後―――

 「ふぅ」

 やっと終わったか。

 今までいじっていたモノをベッドの下に入れる。

 後は明日それを持って出て行くだけだな。

 ベッドに体を預けてそのまま眠りにおちる。



 目が、覚めた。

 今は午前四時三十分。

 眠たい目をこすりながら体を起こす。

 昨日ベッドの下に入れたリュックを取り出す。

 それを持って音を立てないように部屋を出る。

 階段をゆっくりと下りて、幼少の頃より住んでいた家を後にした。

 始発のJRに乗った。

 JRを降りてゲートに向かって歩く。

 思ったとおりゲートはまだ補修されていなく、エリア外へ簡単に出れるようだ。

 さて、今まで住んだいたこの町ともお別れか。

 少し名残惜しみながらこの町を後にする。

 「待って」

 俺の後ろでよく聞きなれた声がした。

 俺は振り向いてその女を見る。

 「なんだよ梓」

 そこにはよく知った幼馴染の姿があった。

 「どこに行くの? その先はエリア外だよ」

 「知ってるよ、だから行くんだ」

 「八識はこの町から出て行くって言うの?」

 「ああ」

 「なんで? なんで? わけわかんないよ」

 梓は涙声で俺の元へ駆け寄ってくる。

 「お前は別にわかんなくていい」

 「なんで? 何で何も教えてくれないの?」

 梓には関わってほしくないから黙って出て行こうと思ったんだけどな。

 「戻れよ、紗夜子さんが心配するだろ」

 「戻るわけないじゃない、八識が行くんなら私もついていくわ」

 「やめてくれ」

 そういって、指を鳴らすために片腕を上げる。

 梓に腕を掴まれた。

 「時間、止めようとしたでしょッ」

 梓が怒鳴った。

 この行動はもう一人の俺と同じ行動だったからな。

 一回見ているだけあって梓でも気づいたか。

 「今、時間を止めたら八識のこと一生恨んでやる」

 「何だよそれは」

 なんちゅう脅しだ。

 そんなこと言われたら止められるわけないだろ。

 けど、止めないわけにはいかない。

 「梓、俺帰ってくるからそれまで待っててよ。 ちゃんと帰ってくるからさ」

 「そういう問題じゃない。 何でなにも話さないで一人で背負い込んじゃうの? 私じゃダメなの?」

 「そうじゃない。 梓には迷惑かけたくなかった、ただそれだけだ。 黙って行こうと思ったけどお前に見つかっちゃったな・・・・・・」

 梓の体を抱きしめる。

 「俺、行くから。 ・・・・・・梓、大好きだ」

 俺は時を止めた。

 ゲートの跡地を抜けて俺はこのエリアを出て行った。


 ・・・あいつは最低だ。

 なんで私をおいていくのよ。

 数時間前去っていった八識ばかのことを思い出しながら必要なものを詰め込む。

 詰め込んだリュックを持って玄関へと足を運ぶ。

 「お母さん、私、行くから」

 「八識ちゃんのことちゃんとつれて帰ってきなさいよ」

 「わかってる。 それじゃあ、行くね」

 ドアを開けて外に出た。

 これからあの八識ばかの後を追うために・・・・・・

END

この読みづらい文章を読んでいただきありがとうございます

十夜八識の物語はいったんここで幕を下ろします

これから八識はどうなっていくの?というのはそれはまた別のお話

この作品は三部作の一つに過ぎません

一つはゲームとして作成していますが、もう一つは公開するかはまだ未定です

次に投稿するのであればこの世界観とは別のものを投稿しようかなと思っています

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました

あと感想などいただけるとうれしいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ