first story
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昨日クラスメイトが死んだ。
そいつとは特に仲が良かったわけではない。
だからといって悲しくないわけでもない。
そのクラスメイトはおもしろくて、いい奴だった。
今日はそいつの通夜らしい。
そんな重たい朝を迎えながらエレベーターを降りた。
マンションから出たところで見慣れた奴を見かけた。
「よう八識、おはよ。 お前の家、こっち方面じゃないだろ。 こんなところでなにやってんだ?」
そいつは何も答えず、ただニヤリと笑ってこちらへ歩いてくる。
「なんだよ、挨拶もなしか?」
なんてふざけて言っても何の反応もなく、こちらに歩いてくる。
そいつは俺の目の前で止まり手を上げた。
その手には何も持っていなかったはずだったのだが、剣が握られていた。
え?、と声を上げる間も無く、その手が振り下ろされた。
昨日クラスメイトが死んだ。
死んだクラスメイトの名前は工藤 夕。
夕とは仲が良かったわけではないが、おもしろくていい奴だった。
今日は夕の通夜らしい。
そしてもうひとつ。
一昨日俺は俺に会った。
夢だろうと思って俺の言っていたことはスルーした。
そして昨日、夕が殺された。
一昨日会った俺は俺にこう言った。
「工藤 夕を殺す」
夕は午後4時に町外れの廃工場で殺された。
一昨日会った俺は午後4時に町外れの廃工場にいた。
そこから導き出される結論はひとつだけだと思う。
一昨日会った俺、様はもう1人の俺が夕を殺したのだ。
昨日もう1人の俺は俺のところに来た。
「明日は梶 亮太を殺す」
そういって消えていった。
さて、今は午前4時。
これからひとっ走り行きますか。
振り下ろされるよりも先に、八識が吹っ飛んだ。
「亮太、怪我はないか?」
頭の中が混乱する。
吹っ飛んだのが八識。
八識を吹っ飛ばして俺の目の前にいて、声をかけてくるのも八識。
八識が二人?
「お前、双子の兄弟なんかいたのか?」
「いないよ。 あれは俺だけど俺じゃない」
「なんだそれ?」
「とにかく逃げろ。 あいつはお前の命を狙ってる」
吹っ飛んだ八識が起き上がってきた。
「邪魔するとはいい度胸ですね」
「うるせぇ、お前は黙って寝てろ」
八識が起き上がった八識に殴りかかった。
それをさらっとかわして、ローリングソバットを繰り出す。
八識が少し飛んでいった。
「馬鹿か君は。 僕は君なんですよ、君の考えていることくらい分かります」
立ち上がろうとしている八識に八識が腹部に蹴りを入れ、八識が大の字で飛んでいく。
大の字で飛んでいった八識はマンションにぶつかる。
「ぐ」
そこに八識が剣を四本投げた。
「ぐあぁぁ」
八識の両手両足に剣が刺さり貼り付け状態になっている。
「君はおとなしくしていてください」
「黙ってろ。 こんなものすぐに抜いて・・・・・・っ、なんだこれ体が動かねぇ」
「君の場合だと手足を引きちぎってでも僕の邪魔をするからね。 少し動けなくさせてもらったよ」
「君はそこで見てるがいい。 彼が死にゆく様を」
そういって八識は俺のほうを見て俺のほうに歩いてくる。
「なぜだ」
貼り付けになっている八識が叫んだ。
「なぜお前は俺の友達ばかりを狙う?」
「そうか、まだ話してなかったね。 僕は君だ、八識という人間だ。 だから、君が考えていることは僕の考えでもある。 君は人間が大嫌いだろう?だから僕はこの世界の人間を全て殺すのさ。 それを起こす前に八識という人間を知っている人間は邪魔だ。 だからまず、君の周りの人間を殺そうと思ったのさ」
「ふざけるなよ、たったそれだけの理由で人を殺していいと思ってんのか?」
「ああ、思ってるよ。 僕にはそれだけの力と権利がある。 人間はゴミだ。 所詮は自分の事しか考えていないクズの上に、過ちを繰り返す。 だから誰かが人類というのもに終止符を打たなくてはならない。 それを僕がやろうってわけさ」
「・・・確かに人間は過ちを繰り返す。 けれど人は変われるはずだ、俺はそう信じている」
「ふっ、ふははははは。 変われる? そんなのは無理だ、長い年月をかけたところで人は変われやしない。 もういい、君とのおしゃべりは飽きた。 さっさと彼を殺して次に行くとしよう」
八識がの手に剣が握られる。
一体どこから出してるんだ、なんて考えているとその剣が飛んできた。
ばばばばばばば・・・・・・・・・
マシンガンを連射する音。
剣はマシンガンによって軌道をずらされ、俺の顔の横を飛んでいった。
「あんた何やってんのよ」
怒鳴り声が上がった。
声の方向を見ると長い黒髪の女がマシンガンを持ってこちらへと向かってくる。
「おー梓、いいところにいるな。 この剣抜いてくれ」
「おー梓、じゃあないわよ。 一言くらい言ってから出て行きなさい。 ったく探したわよ。 ・・・・・・・で、彼がもう一人の八識?ほんと似てるわね」
「葉月 梓か。 余計な真似を」
チィッ、と舌打ちをして八識はぱちんと指を鳴らした。
その合図で八識に刺さっていた剣が消える。
「まあいい、いずれ君は殺すさ」
そういって、感情のない瞳で俺を見てくる。
「じゃあね、僕。 僕はこの街のどこかにいるよ」
「ちょ、待ちやがれ」
八識は消えていった。
「・・・・・・ふん、帰るわよ。 八識、ほらさっさと立って」
「無理、絶対無理。 痛くて立てない、家まで連れて行ってくれ」
痛いとか言う次元は超えてると思うのは俺だけだろうか。
「引きずるのでよければいくらでも」
「家まで連れて行ってください」
「よろしい」
葉月 梓と呼ばれていた人物は八識を背負いながら俺のところに来た。
「名前なんていうの?」
「梶 亮太だけど・・・」
「そう、じゃあ亮太君。 今朝のことは忘れてね」
そういって、頭に手を乗せてきた。
意識が沈んでいく。
「あ、れ?」
ばたりと眠りにおちた。
「おい、亮太あそこに置いておいていいのかよ」
「大丈夫よ。 すぐに目は覚めるわ」
「亮太もそうだが記憶のほうも不安だ」
「ちゃんと消したから大丈夫よ」
「そうか。 で、俺はいつまで背負われていればいいんだ?」
「家に着くまで」
「紗夜子さんいないのか?」
「家にならいるけど」
「・・・はぁ、すごく恥ずかしい」
「誰もいないんだからいいじゃない」
「それでもだ」
「あんまり文句ばっかり言ってると落とすわよ」
「落とせば?」
梓が手を離す。
「げふ」
地面に落ちた。
「落とすなよ。 こっちは怪我人なんだから少しはいたわれ」
「なに怒ってんのよ。 ほら、もう一度背負ってくださいって言わないと背負わないわよ」
「はぁ? ふざけんな」
「じゃあ置いてく」
すたすたと歩き出す梓。
「もう一度背負ってください」
「あとは?」
「あと? 知るかよ」
「あっそ」
梓は歩き出すのを再開した。
「もう文句は言いません」
「よろしい」
梓は俺を背負い始めた。
女に弄ばれる俺、そんな事を考えていると少し涙が出そうになった。