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stage1 七撃目 『闇に飲まれた帝都』

とあるビルの屋上で黒塗りの細長いケースを持った男の姿があった。


屋上に備え付けられている貯水タンクの前に行くと、男はおもむろに黒いケースを開けた。


真っ赤な内張りがされているケースの中には各部品に分けられたライフルが横たわっている。


男は、手際よくそのライフルを組み立てる。


手慣れた手つきでライフルを組み立てると、屋上の端で静かにライフルの銃口を向かい側にたっているマンションに向けた。


スコープをのぞくとあるマンションの一室をみることができた。


「ふっ。」


かすかに笑うとリビングでくつろいでいる男の頭に標準をあわせた。


「死ね……。」










星野は、石沢のマンション下で車の中から石沢の部屋を見上げていた。



その時だった。


パァーンという音が辺り一帯に響いた。


今のは、明らかに銃声。

音の響き具合と銃声の音からして野外からの射撃だ。




「!!」


向かいがのマンションに目を向ける。


かすかに見えた黒い銃身。


ちっ、やられた!


車を飛び出したタイミングで胸ポケットに入れていた携帯がなる。


走りながら、携帯を開き通話ボタンを押す。



「もしもし?」


「星野か。今銃声が聞こえたぞ!」


「中山さん?犯人は、向かい側のマンションの屋上です」


「屋上に向かっているところだ」






カツカツと言う階段を駆け上がる足音が受話器の向こうから聞こえてくる。


「俺もマンションに向かいます!」


「いや、こっちに来なくていい!お前は、石沢のマンションに行け!!」


「了解!」


マンション一階のロビーに駆け込み、右側にある階段急いで三階まで駆け上がる。


石沢の部屋は、309号室。


一番奥から二つ手前の部屋だ。


部屋の前までいくと、ドアを開けようとするが、鍵がかかっている。



「ちっ!」



軽く舌打ちすると、ドアに体当たりしてドアを破る。




転がり込むように部屋にはいると、そこには派手に頭を打たれた無残な遺体が寝転がっていた。



部屋中に血を飛び散らしている。


「遅かったか……」



星野は、遺体に駆け寄ることなくその場に立ち尽くした。



ベランダに続く大きな窓は、派手に割れている。


再び、胸ポケットの携帯がなる。


「もしもし?」


「もしもし、中山だ。犯人に逃げられちまった。屋上からロープ一本で降下するなんて、奴は相当できるぞ。」





警察もいる中、白昼堂々ライフルで石沢ターゲットを殺しにくるとは。


相手は、かなりの自信家だ。


じゃなかったら、ただのバカだろう。


「警察がいながらもみすみす殺されてしまうなんて。一体何者なんだ?」



その頃、捜査課内でも事件が起きていた。


「課長、捜査課内にはいませんね」


「勝手な行動を!」


菜奈は、イラついていた。


火神との話が終わり、取調室を出て来たときに龍司の姿が無かったのだからだ。



あれほど、ねんを押していたのにアイツは!!



菜奈は、ディスクの上に備え付けられている電話機を荒々しくつかむ。



「こちら、SAAF課長の柳刃菜奈。至急、署内の出入り口に検問を張って下さい!重要参考人は柳刃龍司。署内で発見次第確保。少々手荒でも許します!」



「課長!?」


火神でさえ、菜奈の行動には驚いた。


目つきといい、雰囲気といい、いつもの菜奈ではない。



しかし、単に龍司に怒りを露わにしているようには見えない。


なんだか、焦りのようなものも見て取れる。火神は、とりあえず自分のディスクに戻り、電源をつけっぱなしだったパソコンに目を向ける。


「?」


ごくわずかだが、パソコンの位置がずれている。

それに、ディスクの上には、数滴ほど水らしくものがある。


いやな予感がした火神は、パソコンの使用履歴を出す。



つい数分前に、パソコンの使用履歴が残っている。


どんなことをしていたのかをさらに調べる。



「な、何だって!?」



使用履歴には、こう記されている。



ケース35:銀行強盗事件


軽傷者:三名

死者:一名(死者 柳刃龍一巡査部長)



「け、ケース35……」

「ケース35ですって!?火神君、どういうこと?」「龍司君は、どうやらこのファイルを見たようです。」


そう言って、パソコンの画面を菜奈にむける。



画面には、ケース35の事件に関わった当時の捜査員並びにU18部隊の隊員の名前が書かれている。



「まさか、アイツ!」


当時のU18部隊の隊員名には、桜咲桔梗の名前が書き込まれている。


「まさか、桔梗ちゃんを問いただしたりしてないでしょうね!」


ポケットに突っ込んでいた携帯を引きずり出すと、桔梗に電話をかける。


しかし、一向に電話がつながる気配はない。



「いやな予感がする……。火神君!至急GPSで桔梗ちゃんの携帯を! 」


「了解しました。五分待ってください。」その頃、屋上では。


「これで俺は一応、殺人犯ってことか……」


屋上の真ん中には、血だまりの中倒れている桔梗の姿がある。



龍司は、先ほどまで自分たちを双眼鏡でみていた男がいたビルをじっと眺めた。



ちょうどその時だった。


桔梗のスカートポケットから携帯の着信音が聞こえてきた。


「まさか、姉さん?」



倒れ込んでいる桔梗に歩み寄り、ポケットから携帯を取り出す。


携帯のディスプレーには、柳刃課長と映し出されている。


「マズいな、早くここから離れねえとな。」


用意しておいたロープを屋上から垂らす。


といっても、警察署の建物は8階建て。


ロープは、それほど長くはない。しかし、龍司は、ロープを体に巻き付けて、高さに臆することなく4階まで降下する。



4階は、禁煙室になっており、ベランダに簡単に降りることができた。


幸い、禁煙室には誰もいない。


きっと姉さんのことだ、署内には既に緊急警備体制にはいっているだろう。


署内で、ほかの警官に見つかりでもしたら、直ぐに応援が駆けつけてくるに決まっている。



他の警官に気をつけながら、廊下を進む。


やれやれ、警官なのに堂々と廊下を歩けんとは、とりあえず目指すは2階の資料室だな。龍司が、四階のベランダに降りたった頃。



「課長!分かりました。桜咲さんは、この建物内にいます!」


「火神君、ちょっと見せて」


パソコンの画面には、確かにこの建物内に桔梗の携帯が反応している。


「……!!」


顎に手を当て、パソコンを睨んでいた菜奈は、捜査課を飛び出した。


「か、課長?」


慌てて、火神も菜奈の後を追う。


菜奈は、全速力で走った。


モヤモヤとしたいやな感じが胸から離れない。


龍司、アンタまさか!


廊下を突っきって、階段をひたすら駆け上がる。

階段の突き当たり、屋上にでるドアを開けて、菜奈は驚愕した。


「課長、急にどうしたんですか?」


何とか追いついた、火神は菜奈を見る。


菜奈の顔は蒼白になってある一転の視点から目が動いていない。


火神は、ふとその視線を追って屋上をみた。んっ?


屋上に何かが転がっている。


!!!!!



物じゃない!


人だ!!



桔梗が、屋上で倒れている。


菜奈と火神は急いで桔梗に駆け寄る。


仲間が生きていることを願って。


桔梗は、血溜まりの中に倒れている。


菜奈が、慌てて桔梗の様子を見る。


火神は、右手は、べっとりした真っ赤に染まっている。


「クソっ!救急車を!!」

ケイタイをとりだして119のボタンを押そうとする。


その手をパシッと菜奈がつかんだ。


「課長!?」


「……、救急車は必要ないわ」


菜奈は、そっと桔梗を抱き上げた。


「まさか……、もう手遅れ……」ウソダヨナ……、リュウジクンガ?


サクラザキサンヲ殺した??





「逆よ。彼女は眠ってるだけ。」


「へっ?」


菜奈は、クスリと笑った。


「その手、血生臭くないの?」


「!!」


さっき、血に触ったはずの手は、血生臭いと言う臭いには程遠い。


むしろ、人口的に作られた塗料の匂いに……。



「まさか、ペイント弾……」


「そう、ペイント弾に麻酔弾。アイツ、なかなか手の込んだことをしてくれたわね」


菜奈に抱えられている、桔梗からは静かな寝息が漏れている。


「何でこんな手の込んだことを」


「アイツなりに考えがあったんでしょ。答えはたぶん、例の掲示板に出ているはずよ。さっ、捜査課に帰りましょ。」


菜奈は、桔梗を抱きかかえ階段を下りていく。


火神も、菜奈のあとを追って屋上からたちさった。





そのころ資料室では


山積みに積み上げられた資料の中で、龍司は頭を抱えていた。


「えっと、コッチがケース34、そんでこっちがケース36……。ケース35に関する資料がない……」


なぜだ?


警察所内の資料が紛失するなんて、どういうことだ……。


もしかして、犯人は『警察官』!?


だったら、なぜ桔梗を標的に……。



その時だった、後ろドアが開いた。


「龍司……」


恨みのこもったような声。



「よくも、私を撃ったな……」




ドアの前には、服を真っ赤に染めた(俺が染めたのだが)桔梗が仁王立ちしている。


誰か、事情を知らない人が桔梗をみたら驚くだろう。


明らかに、出血多量に見える。


我ながら、少々やりすぎたと思っている。


昔、調子に乗って作った特性ペイント弾は予想以上の働きをしてくれていた。


だって、血だまりできてたもんな……。


あの時は、作った本人である自分でさえ驚いた。

そんな見た目、出血多量少女は満面の笑みでこちらを向いている。



こぇぇぇ!



この一言につきる。


「龍司、何かいったらどうだ?」


ズイズイッと少女は俺に歩み寄ってくる。


「す、スイマセン!」


「……」目をつぶって歯を食いしばっているのだが、一向に攻撃されない。


恐る恐る、ソッと目を開いてみる。


そこには、ギュッと拳を握りしめたまま泣きそうな顔をした桔梗が唇を噛みしめている。


「……き、桔梗?」


「正直言ったらどうだ、私のことを人殺しだと……」


…………。


数十秒の沈黙が流れる。

この沈黙は桔梗にとって、永遠の時のように感じていた。


静かな、部屋の中でゆっくりとそして、ハッキリと龍司は断言した。


「言うわけないだろう、俺はおまえの相棒だぞ。まあ、確かに直接的に聞いたときは理性が飛んじまいそうだったが、今ははっきりと言えるお前は人殺しなんかじゃない。俺はそう信じてる」龍司は、にっこりと笑って答えた。


まるで、子供のような純粋な笑顔で。



ポロッと、一粒の涙が頬を伝い床に落ちる。


後に続くように、次々と次々と涙が瞳からこぼれ落ちる。



「ちょ、泣くんじゃねえよ!!」


龍司は、あたふたしながら桔梗を慰めようとする。


その光景が余りに目滑稽で、でもあふれ出る涙は視界をぼやけさせた。


人差し指で涙を拭うと、桔梗はわずかに微笑みながら答えた。


「そうだな、最高の相棒だ」


「お、おう」


龍司は、照れたように顔を逸らす。


「きっと、龍司なら……」


「へっ?なんか言ったか?」


「いや、何でもない。さっ、捜査を始めないとな」桔梗は、クルリと回ると資料室を出て行った。


桔梗の背中は、どこか嬉しそうに見えた。


七撃目 完

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