stage1 六撃目 『ねじ曲げられた真実』
赤、青、黄、緑、白、黒。
色とりどりのコードがの目の前を通っている。
液晶のカウントダウンは、残り2分をきろうとしている。
機械的な音が刻々と少なくなっていく時間を知らせる。
普通の神経の人間ならこれだけで気絶してしまいうだろう。
そう普通の人間なら……。
「なるほど〜。これを切っちゃうとドンってわけね♪ 」
手前を通過する、緑色のコードをニッパーで切断する。
「ここは、電気が流れてるのか〜。そりれじゃ、ストッパーをかまして……」
「あの、会長? 」
「んっ、どうしたの? 」
「スイマセンが楽しそうに爆弾を解体するのはやめてください……」
後ろから、爆弾の解体をみているのだが、まったくをもって緊張感がない。
ボーっとしていたら、会長が時計を解体している子どもに見えてしまう。
「なんで〜。楽しまないと、スリルは楽しむためにあるんだよ」
どこの中毒者ですか。
「よし。後は、この一本を切ったら解体終了」
液晶の残り時間は、まだ1分以上ある。
「……あっ」
突然なにに気づいたのか声を上げる有紗。
「ど、どうかしたんですか、会長? 」
恐る恐る、聞いてみる。
「思ったんだけど、やっぱり爆弾って1秒前に止めるのがセオリーだよね」
ハイ? 一体この人はなにを言い出すんだ?
「会長……。無駄なことしなくていいですからさっさと線、切ってください」
「え〜。だって1秒前に止めてこそ感動と緊迫感があるじゃない。そうしないと読者、離れていっちゃうよ」
会長、誰と話しているんですか。
読者だとか言っちゃってるよ。
「感動も緊迫感もいりません。だから、早く切ってください」
さっきから聞こえてくる単調な機械音でノイローゼになってしまいそうだ。
「分かったわよ。切ればいいんでしょ」
赤いコードにニッパーの刃先を持っていきパチンッと切断する。
すると、液晶の時間をカウントする早さが恐ろしく早くなる。
さっきまでの単調な機械音はよりいっそう早くなる。
「間違えちゃった☆ 」
「なにやってんですか〜!! 」
ああ、めまいがしそうだ。
残り秒数は見る見るうちに減っていく。
もう、1桁台だ。
死んだな……
そう確信したときだった。
目にも留まらない早さでニッパーを動かし、有紗は白いコードを切る。
カウントは、ピタリと止まる。
もちろん、残り1秒で。
「うーん、今日はまあまあかな」
お願いですから、俺の心臓を止めようとしないでください。
って言うか、マジで止まるかと思った。
「んっ?なにこれ? 」
残り1秒で停止していた液晶パネルは、真っ暗になったかと思うと、ある文字が映し出された。
『勇敢な君に告げよう。これは、前菜に過ぎない。きっと、このストーリーのエンディングにふさわしい花火になるはずだ。では、帝国会議の日に』
「……花火だって?」
「ブラックケースになるわね」
腕組みをして有紗は目をつむる。
事件には、ケースと言われるランク付けが4つ、存在する。
ホワイトケースは、危険度があまりない事件を指す。ブルーケースは、傷害事件、殺人未遂。レッドケースは、殺人事件、重大建造物等の侵入、放火、もしくはその予告。ブラックケースは、大量殺人事件もしくは、その予告。テロ事件を指している。最も危険な事件。
今の所、過去数件しか起きていないようなケースだ。
しかし、今回のプラスチック爆弾。
もし爆発していれば、おそらく、基礎が破壊された帝都病院は崩れ落ちていただろう。
「ブラックケースとなると、保安課も共同捜査に切り出すでしょうね」
「共同捜査って、じゃあ、警視庁が捜査権限を持つことになるんですか!? 」
少し、興奮気味にはなす俺をなだめるように話す有紗。
「権限は警視庁に移るでしょうね。でも、コレは私達にどうにか出来るような事件じゃないわ。龍君もそれぐらいは分かるでしょう」
「……後のことはお任せします」
そう言うと、俺はそれ以上なにも言わずに駐車場を後にした。
一言もしゃべらず、その場を後にした龍司を見届けた有紗は目を細めて小さく呟いた。
「まだ、引きずってるのか……」
2日後
会長が言ったとおり、特殊公安課と特殊能力捜査課の共同捜査になった。
もちろん、警視庁が捜査権限の下で捜査が開始した。
「……今回のプラスチック爆弾の件と銃弾が見つからない連続殺人事件は、おそらく同一人物だと思われるわ」
同一人物か……。
あんな爆弾、弾丸も作られるんだよな。
ちょっと、まずい相手だよなあ。
俺は、コーヒーを飲みながら目の前の捜査資料に目を通す。
「課長。ちょっといいですか? 」
普段から滅多に家を出ない火神が捜査課に来ている。
「どうしたの火神君? 」
「はい、実はこの前に殺害された、西田と太宰の共通点を探してみたところ、二つほど見つかりました。まず、一つは皆さんも知っての通り二人は犯罪者です。次に、この二人は……柳刃龍一巡査部長に逮捕された経験があります。」
「!?」
勢いよく立ちあがった、龍司に捜査課の全員が視線が注目する。
柳刃龍一は、俺のそして姉さんの父。
俺がこの世で最も尊敬する人物。何でいまさら、父さんの話が……。
「父さんが……どう言うことだよ。」
俺は、ホルスターに収まっているミネベアをぎゅっと握りしめた。
「柳刃君のお父さん、龍一さんが、おそらくこの事件のキーポイントだと思っている。そして、E.Iが表す人物は恐らく、石沢 英吉が次のターゲットでしょう。しかし、K.Sは該当する人物がいませんでした。」
石沢英吉は、親父が死ぬ一年ほど前の事件で一度逮捕された人間だ。
確か、三成商事に毒ガスを撒いた疑いで父さんに逮捕されたはずだ。
しかし、明白な証拠が見つからなかったため、立件できず釈放となった。
俺は、形見のミネベアをぎゅっと握りしめた。
「僕の推測ですが、この事件のキーポイントは、柳刃龍一さんだと思っています」
「分かったわ。私が調べておくわ。星野君? 石沢英吉の監視、頼めるかしら?」
「石沢ですね。了解しました」
星野さんは、イスに掛けてあった上着を手に取ると慌ただしく捜査課をあとにした。
「姉さ、いや課長!俺にできることは?」
俺は、身を乗り出すように姉に聞いたが、戻ってきたのは思っていない答えだった。
「アンタは、待機よ。アンタが父さんを尊敬しているのは痛いほどわかっている。」
「だったら!」
「だからこそ待機よ。今のアンタを父さんが見たらこう言うに違いないわ。『冷静に物事を観察できるのが一流の警察官だ』っね。今のアンタが現場に行ったって足手まといよ」
一瞬、捜査課が静寂に包まれる。
俺は、苦々しく自分のイスに座り込んだ。
「課長。少々お時間よろしいですか?」
「良いわよ。先に取調室にいってて、蒲原君と紅葉ちゃんは、現場周辺の聞き込みよろしく。桔梗ちゃんは、資料室に行って、過去の事件からこれに当てはまるモノを探してくれない?」
紙を受け取った桔梗も、一緒に出て行った蒲原と紅葉もいなくなり、捜査課は、ガランとしている。
「」
姉さんも、取調室に入っていった。
「コーヒーでも飲むか……。」
書類が山積みなった、蒲原の机の前を通り、給湯室に向かった。
インスタントコーヒーの粉とお湯をポットに注ぐ。
ポットとコップを持って自分の席に戻ろうとしたが、俺はある人物の席の前で立ち止まる。
はキチッと整頓された、デスクの上には赤いノートパソコンが電源がつき放しで置かれている。
「火神のパソコンになら、何かいい情報があるかもしれないな」
キョロキョロと辺りを見回す。
依然として捜査課内は自分以外は誰もいない。
いけないと分かっていたのだが、俺は火神のパソコンのデータを眺め始めた。
この行為が悪夢の始まりだった。
「課長、龍一さんの最期の事件についてですが……」
「火神君。あの事件には関わらない方がいい。決して解き明かしてはいけない日本の闇よ。」
「闇ですか……」
「そう言えば、今回の事件。火神君はどう感じ取った?」
彼女は突然話題を変えると、イスに腰掛けた。
薄暗い部屋の中を照らすのはたった一つしかない机の上にあるスタンドライトだけだ。
「今回の事件。実行犯は一人多くて二人。かなりの少人数です。しかも、何か強い意志を感じ取ることが出来ました。」
火神は、奈菜の反対側のイスに腰掛ける。ギシッと軋ませながら火神を受け止める古いパイプイス。
「強い意志か、例えば……?」
「そうですね。例えば、狂った日本のリセット……とかですかね」
「プラスチック爆弾にshootingstar(流れ星)か。一体何者なの?」
奈菜は、ブラインド越しに外を眺めながら呟いた。
その頃、星野は
「では、今から石沢の監視に入ります。中山さんは、もしもの時に備えて、周辺で待機していただけますか?」
星野は、覆面パトカーを運転しながらその他の捜査官と話す。
「ああ、分かった。私はここで降りるとするよ」
角張った顔つきでいかにも男らしい捜査官は、石沢の住むマンションの向かい側のビルの入り口で降りた。
「中山さん、気をつけて」
星野は、車を出す。
中山は、軽く手を挙げると近くのコンビニの中に入っていった。
「さて、犯人はどうやって石沢をやりにくるんだ?」
星野は、左右の通りを気にしながら覆面パトカーをマンションの前に止めた。
このマンションの周りには二十人ほどの捜査官が待機している。
犯人は、凶器の拳銃を持ってノコノコ来るだろうか?
いや、来るだろうな。
奴は自分のやることには絶対的な自信を持っている。
そうでなければ、二度も近距離から頭を拳銃でぶち抜いたり、帝都で一番デカい病院に爆弾なんて仕掛けるわけがない。
「必ず来る……」
一方、資料室にいる桔梗
「……コレでもないな。」
先ほどから山のようにある捜査資料に目を通しているが、一向にお目当てのものが見つからない。
「ウム……ンッ!?」
スカートのポケット内で騒ぎ出した携帯を手に取る。
「メールか」
ディスプレーには
着信一件:送信者 柳刃龍司
と表示されている。
少し、首をひねった桔梗だったがすぐにメールを開いた。
桔梗。
話したいことがあるから屋上にきてくれ。
相棒だからこそ桔梗にしたい頼みなんだ。
よろしく。
「ふっ……。結局、ガマンできんのか。仕方ない、屋上に行くか」
資料ばかり見ていても、目が痛くなるので桔梗は、階段を使って屋上に上がった。屋上に唯一つながるドアを開けて、広い屋上にでる。
周りには、あまり遮蔽物となる高いビルがないので、帝都がある程度見渡せる。
フェンスから、帝都タワーの方をみているひとりの少年。
「龍司。来たぞ」
桔梗がそう言うと彼は振り返った。
「すまないな。どうしても話しておきたいことがあってな」
龍司の言葉には真剣んみがよくこもっている。
「どうしたんだ?何か、いい証拠でも見つかったのか?」
「……いや、今から証明するところだ。」
ガチャリ
重々しい金属が当たる音がする。
桔梗に向かってぽっかりと穴をあけている銃口。
銀色のスライドが太陽光で鈍く輝く。
銃身には、発砲音を小さくするサイレンサーつけられている。
龍司の漆黒のミネベアは相棒の桔梗に向けられていた。
「……龍司。何の悪ノリだ?」
「悪ノリじゃねぇ。俺の質問にしっかりと答えろよ、silver arrow(銀色の矢)」
「!?」
桔梗は驚きを隠せなかった。
それもそのはず、その名はU18部隊にいたころにつけられたものだ。
迷わず、標的を殲滅する姿から、そう呼ばれていたのだが。
この名を知っているのは、U18部隊の同僚ぐらいだからだ。
龍司は、拳銃を下げずに淡々と話を進める。
「桔梗。お前は、父さんの最後の事件知っているよな。いや、現場にいたんだから知らないとは言わせねぇ」
「……ああ、知っている」
桔梗は、うつむきかげんに話す。
「あの事件で、父さんは一発の弾丸で心臓を撃たれて亡くなった。体内から見つかった弾丸はお前が当時使用していたソーコムピストルと一致している。……桔梗、コレは一体どういうことだ?」
龍司の声は震えていた。
心中では、怒りと、桔梗であってほしくないという小さな希望とが渦巻いていた。
しかし、桔梗の答えでさっきまでの心中の戦いは一方側に塗りつぶされてしまった。
「……私が、龍一さんを殺した」
静かに、しかしハッキリと桔梗はそう告げた。
「お前が、父さんを……」
もう、心中には怒りしか渦巻いていない。
「お前とはもう組めねぇ」
龍司の指が引き金に掛かる。
桔梗は、何もせずうつむいている。
そう、死を受け入れたように。
龍司の人差し指は引き金を引いた。
バシュッという空気が漏れたような音と共に銃口が火を噴いた。
「くっ!!」
桔梗は片目をつむり、撃たれた腹部を押さえて、ひざをおった。
「すまないな……桔梗」
薄れていく意識の中、桔梗はその言葉を聞いた。
そのまま彼女は、力無くその場に倒れ込む。
もう、視界は真っ暗だった。
その光景を双眼鏡で見る男の姿がとあるビルの屋上にいた。
「ふっ……。」
双眼鏡で桔梗が倒れるのをみて男は、右側においてあったノートパソコンに手を伸ばしこう打ち込んだ。K.S 清掃終了
最後に、パチンとエンターキーを押し、男はニヤリと笑いながらその場を離れた。
六撃目 終了
龍司は、桔梗に手をかけてしまった
そんな中、また新たな事件が帝都をにぎわせる。
暗闇のどん底に向かって転がり落ちるように加速する負のストーリー。
無事に、帝都を守ることができるのか。
次回:七撃目『闇に飲まれた帝都』
それでは、
Let's meet again next time.