stage1 四撃目『引きこもりの捜査官』
帝都郊外のとあるマンション。
ピンポーン
「火神、俺だ。今時間空いているか?」
「空いてるよ。勝手に玄関から入ってきてよ。」
「そいじゃ入るぜ。」
そう言ってクリーム色の扉を押す。
重そうに開いたドアの向こうに彼は立っていた。
俺と同じ黒髪。前髪は少し長くて目にかかるぐらいだ。
こいつの名は、火神祐一SAAFの情報担当をしている。
いつも、爽やかな顔をしているくせに、なかなか家から出てこない引きこもり状態の奴だ。
「今日は、大人数だね。」
「この前の話を聞きたくてな。」
少年に案内され、部屋の奥に入っていった。
「で、この前の話ってなんだい?幻のカウンタックの話。いや、それとも北が作ったミサイルの話かな?」
「龍って、たまにいないかと思ったら火神君と話してたんだ。」
紅葉がジト目でこちらを見る。
「じ、情報収集だよ。」
確かに、情報収集はしているのだがどちらかというと、情報収集がついでで、いつもこいつの話に聞き入っちまうんだよな。
「ところで、柳刃君。そこの銀髪の女の子は、新人かい?」
「紹介してなかったな、彼女は桜咲桔梗。今は俺とコンビを組んでる。」
「桜咲桔梗だ。よろしくな。」
「僕は、SAAF情報処理係の火神祐一。よろしくね桜咲さん。」
「でだ。流れ星の話だよ。話しただろ火神。」
「ああ、あれか。でも何で今更?」
「実はな、その弾の本物が見つかったんだ。だから、詳しい話を聞こうと思ってな。」
「そうなんだ、コッチも怪しい情報を仕入れてたんだ。」
「怪しい情報ってなんだ?」
そう言う、桔梗の目色が少し変わった気がした。
「最近、ネットでこんなページを見つけたんだよ。」
祐一は、立ち上がるとディスクの上に置いてあるパソコンを立ち上げる。
鮮やかな山と草原の背景がパソコンの画面に映し出される。
インターネットにつなぎ、あるサイトに入る。
真っ黒な背景に、血のような赤で『血の帝都まであと13日』と書かれている。
「なんだよ、このサイト。」
紅葉が、パソコンを覗き込む。
「あ15日ってちょうど帝国会議の日じゃない!?」
「そうなんだ。そして、このページ。」
祐一は、『武器弾薬庫』の文字をカチカチッとダブルクリックする。
ページが移動する。
白地の背景に青い文字でこう書かれている。
T.N 清掃終了
A.D
E.I
K.S
「清掃終了。どういうことだ?」
「あくまでも、僕の推理だけど、このT.Nって西田拓郎(にしだ たくろう)のことじゃないのかな。」
祐一は、シリアスな感じを出して話す。
「西田拓郎って、今日遺体で見つかったアイツか!」
「おそらく。殺されて清掃終了ってことならば分からないでもない。あくまでも、推測。」
「だが、それが本当なら後3人、誰かが殺されるということか。」
桔梗がそう呟いたときだった。
ブブブ ブブブ ブブブ
マナーモードにしていたケータイが鳴りだした。
「はい。柳刃です。星野さんですか。はい、…えっ!連続殺人事件で無罪を言い渡された男が殺された!?」
俺は、ケータイの音量を上げ、会話がみんなに聞こえるようにする。
『ああ、頭を打ち抜かれた形でね。え?犯人の名前?被害者の名前は、太宰晶則。』
携帯から聞こえる星野さんの声は確かにそういった。
「太宰晶則…A.Dじゃねぇか。」
蒲原は、パソコンの文字をみながら驚く。
「星野さん、現場は任せました。後で話を聞かせてください。」
そう言って、携帯の通話を切る。
「火神君の推理通りね。」
「これからどうする、火神?」
「…そうだね。とりあえず二人の共通点を調べてみるよ。」
「コイツらは…犯罪者だ。」
桔梗が、重要な共通点に気づいていた。
「犯罪者か。そっちに関しても調べてみるよ。」
「俺たちは、今のところ出番はなさそうだ。だが、血の帝都が意味するのは何だ?」
「あと13日後には何かがおこるんだ。俺たちの調整を最優先にしないとな。」
「そうね。今日は、ここで解散にしておこうよ。」
紅葉の意見に全員賛成し帰路につくことにした。
「柳刃君。メールの件だけど、今すぐは答えられないから帝都会議が終わった次の日曜日に。」
「OK。じゃなあ火神。」
バタンとドアが締まり、部屋の中に静寂が漂う。
「…U18。あの事件の日もU18強襲部隊が出動していたんだ…。」
西の空は、もう赤くなり始めている。
「また明日な。」
「じゃあね。」
「おう、またな。」
蒲原と紅葉を乗せた帝都交通のバスはゆっくりと発進して、大通りの車の流れに乗って遠ざかっていく。
「それじゃ、俺らも帰るか。」
「ああ、そうだな。」
友一のマンションから俺の家は徒歩20分ほどだ。
「今日も色々あって疲れた。」
「これからは、もっと忙しくなると思うぞ。」
「だよな。気なることもいくつかあるし、変なことが起こらんといいが。」
夕日で、小道は赤く染まっている。
「…はぁ。めんどくさいんだよ。」
右半身を少しひねりながら俺はそう言い放つ。
ブンッ
釘が刺さったバットがすぐ横を通過する。
思ってもいなかった空振りに男はよろめく。
「ふざけんなあぁぁ!」
いきなり襲ってきた男が振り回す釘バットは、俺の目の前を通過する。
だが俺には当たらない。
っていうか、当たるわけないだろ。
そんなに大きいモーションじゃ、軌道が丸見えだから。
「ちょっと、彼女ぉ。そこのバカほっといて、俺たちといい所行こうよ。」
茂みから出てきた、いかにもチャラそうな男は桔梗にまるで親しい関係のような態度
で触ろうとした。
パシッ!
近づく手を払いのける。
「…ないな。」
「え、なんて?」
「なってないな。お前たち。」
「あ!黙って聞いてりゃ。なめたこと言うんじゃねぇよ!」
どうやらあっちも、絡まれてるみたいだな。まっ桔梗だから大丈夫だろ。
「よそ見してんじゃ、ねぇ!!!」
「おいおい。だから大振りすぎるって。」
一歩足を引くだけで、バットの軌道かそれることができる。
と言っても、相手との距離感、武器の攻撃範囲を正しく計算してないとできないんだけどな。
「あきたから、そろそろ寝てくれるか?」
「こんっのぉぉ!」
ドス!
男のみぞおちに一発。
「いとくけど俺はあんまり力入れてないからな。お前がそんな勢いで突っ込んでくるのが悪いんだ。いわゆる自業自得って奴だな。」
ドサッと男はその場で伸びてしまった。
「さて、桔梗。そっちはどう…うぉ!」
男に痛そうな関節技を決めている桔梗の姿が。
めちゃくちゃイタそうだな…。
「さあどうする?自分の罪深さを知って反省するか?」
「イテテテ、します!!反省します!だから、ゆる…。」
容赦なく男の首に手刀を振り下ろし、男を気絶させる。
エグッ!!やってることえげつないよアンタ!
「マナーを知らんバカ者もまだいるもんだな。」
立ち上がった桔梗は、男を放置して歩き始める。
下手したらあの男、一生女性恐怖症で苦しむことになるかもな。
「まったく。けしからん奴だ。」
どうやら、桔梗さんangryのよですな。
触らぬ神に祟りなしだ。
女性恐怖症になりたくないからな…
そう思い、俺も男たちを無視して帰路についた。
四撃目 終了