stage3 一太刀目〔狙撃手〕
どうも、みなさまお待たせいたしました!
BCシリーズ再開です!
不定期更新になるかもしれませんがよろしくお願いします♪
「よし。完全復活!」
肩をコキコキと鳴らして、傷が完治した体を確かめる。
幸い、何事もなく退院することができるようになったわけだが……。
「桔梗。なぜお前が?」
銀髪の少女が不機嫌そうな顔をして俺の前に立っている。
「いいか龍司。今度一切、あんな無茶をするな」
「分かった。今度からはうまくやる」
「そんな問題ではない!」
刀のように鋭い目つきで俺を睨めつける。一瞬にして、SAAFの室内に黒々とした怒りのオーラが立ち込める。
「分かった。無茶はしない。だけど、お前も無理するんじゃねえぞ。桔梗」
「善処する」
「さて、話はまとまった?」
姉さんが課長専用の机で資料をめくりながら、俺たちに話しかけてくる。
「ああ。それで、俺のいない間に変わったことは?」
「そうね。この前、蒲原くんたちが解決した事件の時についてきた戦艦紀伊、正式に東日本の護衛艦として使用するらしいわよ」
「そうなのか?」
まぁ、あんなどでかい主砲を持っている戦艦は見た目としてはかなりの威力を持ってるからな。
「あ、そう言えば、龍司に頼まれてた資料を取り寄せたわよ」
姉さんが古く色あせたファイルを俺に突き出す。
「サンキュー」
「それは何だ?」
興味津々に桔梗がファイルを覗き込む。
「東京湾シージャック事件……」
「ああ。2007年12月17日に発生したシージャック事件だ」
「そういえばそんな事件もあったな。18時間にも及ぶ逃亡劇の末、何者かに犯人が狙撃され死んだあの事件か」
「詳しいな。桔梗」
「ああ、あの時はU18ももしもの際に備えて海保の船舶からの狙撃とヘリによる強襲作戦を行うようになっていたからな」
桔梗が目を細めるようにして、外の景色を見ながら昔を思い出しているようだ。
「でも、なんでいまさらそんな事件を?」
「いや、どうも引っかかることがあってな……」
犯人が謎の死を遂げることはこの街ではそれほど珍しいことではない。組織の秘密をばらさないために消された。
よくある話だ。数枚ほどページをめくった後、自分の机に資料を置くと桔梗のほうむいた。
「なぁ。飯食いにいかないか?」
「そうだな。お腹が減ってきたところだ」
「決まりだな。渚食堂に行くとするか」
行く場所も決めて、俺と桔梗がSAAFを出た時だった。目の前の玄関から見覚えのある2人が歩いてきた。
「おっ。紅葉に蒲原か。どうした?」
「おう龍司か! 今ちょうど事件が片付いてな」
「そうなのよ。蒲原がドンくさいからほんと疲れちゃったわよ……」
「なっ! 俺のせいかよ!」
「当たり前よ!」
帰ってきたばかりだというのに、2人で口喧嘩をはじめる当たりがいかにも2人らしい。隣を歩いていた桔梗もやれやれといった感じに手を振っている。
「そうだ。2人とも今から飯一緒に食いにいかないか?」
「いっまぁ。助かとぅたぜ〜」
俺の前で渚食堂特性天ぷら定食をガツガツ食べる喋る蒲原。もはや何を言いたのか分からない。
「話すか、食うかどっちかにしろよ」
俺は苦笑しながら、味噌ラーメンのスープを一口飲む。
「でも、こうしてゆっくりお昼ご飯を食べるのも久しぶりね」
「そうだな。ここ最近忙しかったからな」
女性陣は、渚食堂特性低カロリー定食を仲良く食べている。
「ほんとだな」
確かに、2人が言うようにここ最近は特に忙しかった。こんな感じにみんなで昼食をとることなんて滅多になかったからな。
「昼からの予定も入ってないし、たまには羽伸ばしに行くか?」
「賛成〜」
俺の提案で渚食堂で食事を済ませたあと、近くの大きなデパートで買い物をする予定を立てた俺たち4人で歩道を歩いていた。
「ホント。平和っていいなぁ〜」
背伸びをしながら紅葉がそう呟いた。
「ああ、平和はいいものだ」
桔梗もそう微笑みながらもみじと一緒に俺たちの前を歩く。
夏もそろそろ終りが近くなってきて、だんだん秋に移り変わろうとしている。相変わらず人々が行き交う賑やかな街を見る。
俺たちが暇なほどこの街に良いことだ。犯罪が少しでも減ってくれるといいものだ。だが、人口が密集するこの街で俺たちの安息はまずない……。
「おらぁ! どけどけ!」
ひときわ大きな声が近くに響き渡った。
この一瞬で俺たち4人の顔つきが一転する。
「桔梗……」
「ああ。まずいことになったな」
俺たちの前で事件は発生してしまった。
歩道の真ん中で目と鼻に穴のあいたニット帽を被った男が女性に拳銃を突きつけている。
「この距離、この人の多さじゃ拳銃が使えないわ」
「最悪なことに、犯人が拳銃を持っているとはな……」
犯人の手から銃が離れない限り犯人を確保することは出来ない。だが、拳銃を使って犯人の拳銃を破壊するにはあまりにもリスクが大ききすぎる。この人の多さの中で発砲しよものなら、拳銃を破壊した銃弾が間違いなく誰かに当たる。
「龍司。モデルガンは無いのか?」
「今整備に出していて手元に無い」
「絶体絶命ね……」
犯人を目の前に、手も足も出ない俺たち。
くそっ!
どうにかならないのか?
「ふっ。なんとかなりそうだな」
隣に立っていた桔梗がかすかに笑う。
「どうした桔梗?」
「南西のビル。距離にして950メートル。 入射角が厳しいが、ヤツなら造作もなく仕事を終わらせるだろうな」
「えっ?」
直後、真上の該当が火花を散らすのと同時に犯人が握って拳銃が跡形もなく吹き飛んだ。
「チャンス!」
その瞬間を見逃さなかった紅葉が背中から抜き去ったシルバーのコンバットナイフの柄を犯人の腹部に叩き込む。
それに続いて、乾いた発砲音が背後から聞こえてきた。
「ぐはっ! なんで拳銃が……」
そう言って倒れた犯人の手を後ろに回し手錠をかける紅葉。
「スナイパーか!」
音が聞こえてきた背後を振り向く。ビル群の中からスナイパーの姿を探すがそのような人影は見えない。
「相変わらず手際がいいな」
「街灯を使って弾の進行方向を変えるとはいい腕だ」
犯人の足元のコンクリートにめり込んだ銃弾を眺めながら蒲原がつぶやいた。
「まさか、あの時の……」
俺の脳裏にはかつて中山と戦った時にアンチマテリアルで狙撃してきたあの謎の人物が思い浮かんだ。
「犯人沈黙……」
ガランとした、何もない部屋でギターケースをかるった金髪の少女は微笑む。
撃ったばかりの狙撃銃を壁に立てかけ、右手に持ったスコープ覗き込む。サイトの中心に銀髪の少女が入ってきた。
クセのない長い銀髪。その後ろ姿だけで彼女が誰だか分かる。
「いつ見てもお姉様は綺麗」
歩き出した銀髪の少女がふと振り返る。そして、左手で拳銃の形に指を折り曲げる。
突き出した人差し指は間違いなく自分を向いている。
『バーン』
銃を撃つ仕草をした彼女は小さく口を動かしてそう言った。
「お、お姉様。まさか気づいて……」
スコープの向こうにいるに銀髪の少女は優しく微笑むと背を向けて歩いていった。
「ふふっ。流石お姉様です」
スコープから目を離して彼女も微笑んだ。