stage2 十三発目 [逮捕権]
どうも、ようやくstage2の最終話を投稿することが出来ました。
長らくお待ちしていたかた、スイマセンでした。
stage3の予定も立っておりますが、公募用の小説を書くため、BLACKCITYを一時休載にしたいと思われます。
あくまでも、公募用に時間を掛けるつもりなので、次回がいつになるのか分かりません。
ですが、時間があれば書いていきたいと思います。
詳しいことが決まりましたら、活動報告などで発表させていただくので、よろしくお願いします!
では、本編へどうぞ!!!
(くそ! マズイな。早くしないと主砲の試射が始まるぞ!)
いらつきを感じながらも、俺は細い通路を注意して進んでいく。しかし、現段階で、俺たちの戦力では話にならない。
「そろそろ、覚悟を決めるべきかもね……」
「ああ、やりたかねぇけど。状況が状況だからな」
「そうね。やるとすれば、第1艦橋にいるであろう籐豪をやるしかない」
ベレッタのマガジンをしっかりと込めながら雛霧はそう言った。
「よし、作戦決行だ。3人で第1艦橋に乗り込み、短期決戦で勝つ! それしかない」
俺の考えに、2人はゆっくりとうなずく。
ここからの距離なら、何とか主砲の試射に間に合うかもしれない。
あまりにも、低い勝算だが今はやるしかないからな。
極力戦闘を控えて、第1艦橋にたどり着き、一気に片付ける。
「それにしても、こんな大きな事件になるとわね……」
紅葉は苦笑しながら俺の横を歩ku。
「全くだ。俺は龍司みたいなスーパーマンじゃないんだから勘弁して欲しいぜ」
「蒲原……」
「んっ?」
「頼りにしてるわよ」
「……任せとけ」
ゆっくりと,だが確実に敵に近づいている。勝てる確立は低い。だが、そんな中で、俺たちの会話には,なぜか余裕があった。
「やっとだ……。やっと目標を達成できる」
艦橋から見える景色を堪能しながら、男はにやりと笑った。
「籐豪体長! 試射の準備整いました!」
「そうか。よし、レーダー手! 目標は確認したか?」
右手に持った無線にそう話す。
『目標物確認! 距離、28000メートル』
「よし。 航海手。このまま前進だ。目視で確認できる位置。そうだな。距離20000メートルまで詰めろ」
「了解です!」
男は不敵に笑う。まるで自分がこの世で一番の権力者であるかのように……。
場面は蒲原達に戻る。
3人ほど籐豪の部下に遭遇したが、敵を呼ばれる前に少しの間眠ってもらうことにした。
「何とか、ここまで来たな……」
俺の目の前に、小さなエレベーターが存在する。これを上れば、敵の大将が待ち受けている。
浮上してから、それなりに時間が経っている。早くしないとあの巨砲が火を吹くだろう。
「紅葉、俺が前に立つ。エレベーターが到着するよりも早く、直視で艦橋内部の状況を教えてくれ……」
「分かったわ。雛霧さん。その籐豪ってヤツの特徴は分かりますか?」
「ええ。身長190センチの大男だから直ぐに分かると思うわ」
「よし、行くぞ……」
大きく深呼吸をして俺は、エレベーターのスイッチを押す。
エレベーターの現在位置を教えるライトが静かに点灯し、降下してくる。
SOCOMのスライドを引き、前のエレベーターに向って構える。ドアが開いたときに誰かが乗っていたら、乱戦になる可能性がある。
敵に気づかれる前に片付けなくては。
順々に降りてきたエレベーターがこの階層で止まる。
「蒲原。大丈夫。誰も乗ってないわ」
紅葉の言葉通り、ドアが開いたエレベーターは無人だった。
「よし。行くぞ……」
3人でエレベータに乗り込み、第1艦橋のボタンを押す。
低いモーター音とともにエレベーターが上昇していく。
壁に付けられた黄色の電灯がジジジと音を立てて点灯している。
上昇していくエレベーターが第1艦橋に到着しようとした時だった。
「なっ! 銃!!」
紅葉の驚きに染まった顔を見た瞬間、俺は反射的にエレベーターのドアに右手をついた。
一瞬送れて、発砲音とともにエレベーターのドアに大きな衝撃が走る。
いくつもの銃火器から排出された弾丸が襲う連続的衝撃。
「何でばれてんだ!!」
「M16を2丁持った籐豪がコッチに向って発砲してる!」
「不味いわね! 打つ手が!」
この間にも、激しい衝撃がエレベーターを襲う。
「大丈夫だ。必ず弾切れになる瞬間が来る。その時に飛び込む!」
ガガガガガガガガガガガガ……
銃撃が止む。
ドアにかけていた力を時、俺は敵から奪ったM16を持って飛び込んだ。
「ほう。なかなか面白い技を持ってるな」
臆することも無く立っていた籐豪が神業のような速さで懐の拳銃を抜き去る。
M16を構えながらも俺は横っ飛びに相手の射線から離れる。
「実に面白い小僧だ」
籐豪は引き金を引かずに、蒲原を追いながらエレベーターに、もう1丁の拳銃を抜き去り、それを向ける。
「デザートイーグル……」
雛霧はそう呟いた。
籐豪は、俺に視線を向けながらも明らかな死角に立っている紅葉たちに的確に銃口を向けている。
その両手で鈍く光るデザートイーグル。
「言っておくがおかしな真似はしないほうがいいぞ。俺は、見えていなくてもお前たち能力者の場所は分かる」
「籐豪! アンタの目的はなんだ?」
M16の銃口を籐豪に向けながら俺は静かに呟く。
「目的? 俺は、この国を統一する。腐りきった、東日本も、西日本もいらん。この俺が日本を掌握するんだ!!」
余裕の笑みとともに籐豪がおかしなことを呟く。
「それはたいそうな目的だ」
「残念だったな、小僧。三人では我々を倒せんからな。 おい、そのままそこに立っとけ
壁際に立たされる俺たち。
拳銃は持っているものの、反抗した所で全滅だ。
追い詰められたな……。
『籐豪隊長! 目標の20000メートル圏内に突入しました!』
「ちょうどいい。無能な東日本に罰を与えるときがきたみたいだ」
「何をする気!?」
「雛霧か。これが何だか分かるか?」
籐豪は笑いながら、モニターの電源を付ける。
「っ!!」
モニターに映ったのは、真っ白な大きな客船。
「飛鳥Ⅱ……」
力なく雛霧の口から出たその名前。
「正解だ。全長241メートルの日本最大の客船としてデビューしたアイツだ」
「まさか! そこに向って!!」
「その通り。あれに向って紀伊の主砲をぶち当てる!!」
「バカいうんじゃないわよ! 今の飛鳥Ⅱには乗客、従業員、合わせて750人が乗っているのよ!」
「750人も乗ってるから狙うんだ。そこまでされたら、東日本だって黙っていられない。そうなったら東日本と西日本の全面戦争が起きるからな」
俺の頭の中で、最悪のシミュレーションが行われる。
全面戦争となれば、弱体化するのは東日本だけではなく西日本も同じだ。そうなれば籐豪の思うツボ。
弱体化した国家を侵略するのは、容易いことだからな。
「後は、俺の前に屈する日本を俺がいただくだけだ!」
「や、止めなさい!!」
雛霧が前に出る。
「アンタに必要なのは私のはず!」
「ほう。よく分かってるじゃないか」
「だから、飛鳥Ⅱを攻撃するのを止めなさい!!」
「やめろと言われてやめる馬鹿がいると思うか? それに、アンタは俺の掌の中に納まっている。止める道理が見つからないな」
「くっ!!」
雛霧の顔が苦虫を潰したかのように歪む。
「おい! どういうことだ!?」
「ん? 何だ。小僧たちには話してなかったのか」
愉快なものを見たかのように籐豪が笑う。
「雛霧椿。それは偽名だ。本当の名前は、峰鈴園彩子
「峰鈴園だと……」
「そう、東日本の内親王殿下だよ。全く東日本も落ちたものだな」
「うそ……だろ。」
「ウソじゃないわ」
キリッと籐豪をにらめ付けながら、雛霧がそういう。
「でも、何で?」
驚きを隠せない紅葉
「私には特殊な能力があってね。それをこいつらが悪用したがっていたのよ。だから私は、あえて、敵の陣営内に潜伏し、時が来るのを待っていた」
「灯台下暗しとはこのことだ。探し出すのにかなりの時間を割いちまったぜ。だが、おかげでこの紀伊の力を100%引き出すことが出来る。さて、茶番はここまでだ。そろそろ、あの客船を沈めることにするか」
「ま、待ちなさい!!」
「ふっ。 砲撃手。撃て!」
『了解しました!』
その一言とともに、紀伊の主砲が紅蓮の火柱を吹く。
凄まじい爆音とともに、砲弾が飛び出る。
籐豪は満面の笑みを浮かべた。
『着弾まであと10秒!』
「終わりだ」
「残り5秒! 4、3、2、1!」
着弾までの秒読みがカウントダウンされた。
『主砲弾命中!!』
遠く海の向こうで46センチ主砲弾が炸裂する。
その爆発力は凄まじいものだった。
「……」
内親王殿下は力なくへたり込む。
「ハッハッハッハ! 俺たちの時代の幕開けだ!!」
「……さて、どうかしらね」
籐豪の笑いを見ていた紅葉が笑った。
『なっ! 飛鳥Ⅱ。健在! それどころか傷一つありません!!』
「なんだと!!」
射撃手があわてた口調に籐豪が驚愕したときだった。
『はぁい。西部強襲部隊の皆さん』
紀伊の無線から、聞きなれた声が聞こえてきた。
「か、課長!!」
無線から聞こえてきた課長の声に俺と紅葉は顔を合わせる。
『こちらは、東日本警察特殊能力犯罪捜査課。アンタたちの作戦は無駄に終わったわ! 直ちに投降しなさい!』
「き、貴様何をした!」
『紀伊の46センチ砲って、私の空間遮断の力に負けるのね』
「空間遮断……」
課長の発言で俺の頭の中の豆電球が回った。
そうか!
空間遮断は、対象物を能力で囲むと、対象物が物理的攻撃を受けなるとう能力。そして、課長は能力Aとされる強力な能力者。
砲弾が飛んでくると分かれば、飛鳥Ⅱを守るように砲弾が直撃するであろう、側面に空間遮断で壁を形成すれば、巨大な飛鳥Ⅱを全て囲まなくても、砲撃を避けることが出来る。
「くそ! とんだ邪魔者がやってきやがった。だが、我々の船は、西日本の船舶だ! 逮捕権は無い!! それに、この船には人質もいる!」
『人質ね……』
年若い少年の声が、紀伊の無線に飛び込む。
「龍司!!」
『そこにいたか蒲原。えっと、籐豪だったか? 悪いが、紀伊は俺と桔梗で、制圧させてもらったぞ』
「ぬかせ! 紀伊には、武装した俺の部下が50人乗り込んでるんだぞ! たった2人で制圧できるか!!」
『状況をちゃんと理解しないと長生きできないぞ。たった50人で私たちの相手が務まると思っていたのか?』
「桔梗!」
一気に形勢が逆転する。
「逮捕権の無い奴らが暴れまわったらどうなるのか知ってるのか!!」
籐豪が吼える。
『逮捕権? 今の状況を一番理解できていないのは、あなたのようですね』
籐豪を小バカにするように話しかけていた声
「火神までいたのか!」
『仲間の危機は、皆で乗り越えるものですからね。さて、あなた方の乗っているのは、戦時中に建造された戦艦紀伊ですよ。戦時中の戦艦は全て、菊の紋章が付けられている。 これがどういう意味かお分かりですか?』
「なるほど、菊の紋章がついた船舶は、皇室の船ということね!」
『正解です。紅葉さん。さあ、皇室の船舶なら、東日本の法律が適用できます。それがたとえ、東日本の領海でなくともね』
『蒲原! 紅葉!』
龍司の声で、俺と紅葉が動く。
「小癪な!!」
籐豪のデザートイーグルがこちらに向けられる。俺は、M16を放り投げ、SOCMを握る。
あらかじめ、スライドを引いていたSOCOMを発砲。
だがそれは、籐豪に当たらない。まるで、こちらの発砲を予知していたかのようなに回避される。
次に火を噴いたのは、籐豪のデザートイーグルだった。
何とか、射線から上半身をずらす、だが掠めていった銃弾で袖が裂ける。
「ちっ!」
すかさず、紅葉が、二丁のUZIで応戦するが、室内なので跳弾を避けるために乱射ができない。
「甘い甘い! 甘いぞ!!」
続けざまにデザートイーグルが火を吹く。
ヤツの持っているのは自動式拳銃の中では世界最高の威力を持つ弾薬を使用する、デザートイーグル50AE。
しばし、マンガやゲーム内で鬼畜じみた攻撃力や反動で描かれる拳銃だ。
よく小柄な人間や女性、子供が撃つと肩の骨が外れるなどという表現をされるが、現実では、射撃姿勢や扱い方にさえ注意を払えば、非力な人物でもデザートイーグルを撃つことは可能だ。
逆に姿勢を崩すと腕力が強くてもバランスを崩しやすい危なっかしい武器でもある。
そんな銃を片手で、撃つとは中々の腕前だ。
威嚇もかねて、俺もSOCOMで応戦するが全て避けられる。
全く、なんてヤツだ!
内心、舌打ちしながら次のマガジンを込める。あまり撃っていたらコッチが弾切れになる。「何だ! その程度か!」
籐豪は自らの計画を邪魔され、かなり頭にきていた。
怒りで我を忘れ、引き金を引きまくる。
「俺は最強だ! 俺は負けねぇ!!」
「紅葉!」
俺の呼びかけに紅葉がうなずく。
2丁のUZIを続けざまに発砲。
防弾チョッキを着込んでいる籐豪に9mmパレベラム弾が吸い込まれるようにぶち当たる。この至近距離で撃たれたならば、その衝撃は凄まじい。
一瞬だか、籐豪の動きが鈍る。
その隙を見て、俺は突っ込む。
やられまいと、籐豪がデザートイーグルを突き出す。
俺は、右手で突き出されたデザートイーグルを掴む。
銃身が焼けるように熱いが、そんなのにかまっていられるほど、余裕は無い。瞬時に力をこめ、籐豪が引き金を引くより先にデザートイーグルの時間を止める。
「なに!?」
「これで終わりだ!!」
左足を軸に回し蹴りを籐豪の顔面に叩き込む。
「が、がはっ!」
ゆっくりとよろめき、籐豪はひざをつき、前のめりに倒れこんだ。
「はぁはぁ。午後2時37分。籐豪大二朗、及び、西部強襲部隊を逮捕!」
籐豪の手を後ろに回し、手錠を掛ける。
『よくやったわ。お疲れ様』
課長の声が無線から聞こえてきた。
「これで、仕事終了ね」
「ああ、終わったな」
艦橋から見える大海原を眺めながら、俺はようやく安堵した。
事件数日。
俺と紅葉は、帝都新京に戻ってきていた。
あの後、紀伊は横須賀の基地で一旦保管することになった。雛霧、いや、内親王殿下は、皇室専用の飛行機に乗り、帝都新京に帰省とともに、国民の前に姿を現した。
何でも、西日本で学んだことを生かしこれからの東日本を作っていくらしい。まぁ、あの人なら大丈夫だろう。
籐豪たちはというと、東日本の刑務所に留置されるはずだったが、なぜか、釈放となった。
おそらく、西日本が裏から根回ししたのだろう。
西日本の地下街に住んでいた人々は内親王殿下の意向で東日本に来ることが出来た。
その時に、あの研究室にあった書類等も持ち出してきてくれたので、戦時中の闇の部分などがこれから明らかになってくるだろう。
そして、俺たちは――。
「蒲原! 港区でバスジャック事件よ!」
「分かった! 今行く!!」
俺たちは、今日も事件を追っている。
Stage2 完