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プロローグ 『アブノーマル』 改訂版

挿絵(By みてみん)


「ひぃ、助けてくれ! 」


男は、壁にもたれ込みながら叫んだ。


「金ならいくらでもやる、だから命だけは!」


ガチャリ


男の2メートルほど前にそいつの姿はあった。


「死にな」


重々しい銃声が響き、男はピクリととも動かなくなった。



大量の血が地面をまるで生きているかのように赤く染める。






午後のどかな公園


制服姿の高校生二人か互いに顔を背けてベンチの端に座っている。


「なにが嬉しくて、真っ昼間からヤロー2人とベンチに座ってるのやら」


右端に座る赤毛の青年はほおずえをついてため息をついた。


黒い制服姿の彼はなんだか暇そうに座っている。



人懐っこそうな顔に二重のブラウンの瞳。


癖毛なのか、髪の毛は少しツンツンとしている。


「別に、ついて来いなんて頼んでないぞ。てゆうか、帰れ」


左端に座る黒髪の青年は、そう言ってコーラを飲む。


彼も赤毛の少年と全く同じ制服を着ており機嫌悪そうにコーラを飲む。


こちらの少年はキリッとした黒い瞳で、赤毛の少年とは反対の性格の持ち主に思われる。



俺の名は、柳刃やなぎば 龍司りゅうじ


周りからみれば、何処にでもいそうな高校2年生だった。


「柳刃が、紅葉とデートするという情報が入ったからには見逃すわけにもいけねぇからな」




ブッ!!


赤毛の少年の予想外の言葉に俺はコーラを吹いた。


「ギャー!! 目がー」


「悪い蒲原」


心のこもっていない謝罪をする。




「いや〜。なかなかの刺激だったぜ」


コイツは、蒲原かんばら いつき俺の同級生だ。


見てもらって分かるようにただのバカだ。


いつもどこかでバカやってる奴なのだが、まあ、俺の悪友であり、親しい友人だ。




「それにしても、平和だな……」


スズメが、公園の敷地内をチョコチョコと動いている。


「ゴラァ! コイツがどうなってもいいのか! 」


いきなり公園にフルフェイスのヘルメットをかぶった男が入ってきた。



右手の出刃包丁を近くで遊んでいた小さい女の子に突きつけて警官と対峙している。


「ロリコンか? 蒲原、お前と気が合いそうな奴がいるぞ」





「はあ! 勝手にロリコンにするな。色男のお前がいけ」



「ふざけんなよ。色男ならベンチで男と一緒に座っとらん。後、先に行っておくが男が好きなわけでもないからな」


「じゃ、どうするんだよ」


「ジャンケンでどうだ? 」


「OK」


蒲原がグーで俺がチョキ。言い出しっぺの俺が、一発の勝負で負けた。




「しゃあねぇな。ボウズ、ちょっとこれ借りずぞ」


公園を横切る小川で遊んでいた少年から、あるものを借りる。


「オイ、ロリコン! 」


「あ〜! 何だよ。おまえは黙ってろ! 」


「やっぱ、ロリコンだったか〜。まあ、いっか……」


俺は、少年から借りたどこにでもある水鉄砲を構え引き金を引いた。


飛び出した水は、常識では考えられないような速度で直線的な軌道で男めがけて突進する。



水の銃弾は男の腹部に直撃し、男をそのまま2メートルほどぶっ飛ばした。


「俺は、能力者なんだよ。媒体を通す能力者……相手が悪かったな」


と言っても、コイツには聞こえてないだろう。




警官がすぐに男に手錠をかける。母親は女の子を抱いて泣いていた。


「高圧縮した水をぶつけたのか。まあ、あんだけ威力がありゃ気絶するわな」



「ボウズ、ありがとな。」


とりあえず、水鉄砲を返しておく。


「お兄ちゃん、スゲ〜!! 」


少年は目を輝かせて言った。


「ご協力ありがとうございました」


警官は一礼した後、男を連行していき、女の子の母親からは、何度もありがとうございました。


と感謝された。


母親と女の子が公園から出て行くのと入れ違いで入ってくる少女が見えた。


「ゴメン!待ったでしょ」



短い赤い髪を揺らして少女が走り寄ってきた。


彼女は、美少女と言われるに相応しい容姿の持ち主だ。


鮮やかな赤の瞳に、肩ぐらいまでの長さのこれまた鮮やかな赤髪の毛。


明るくて行動派といった言葉がそのままぴったりと当てはまってしまう。



「遅かったな、紅葉。何かあったのか? 」


彼女は、水沢みなざわ 紅葉もみじ


彼女も俺と蒲原と同じ高校に通う高校2年生だ。

名が体を表すように、紅葉のように華麗で、だが決して自ら飾ろうとしない素直で元気な少女だ。


「ちょっと、暴力事件があってね」


そう言って紅葉は、苦笑いを浮かべる。


「相変わらずたくましく育ったもんだな〜」



蒲原が、余計なことを言ったので、俺が止めなければ再び戻ってきた平和を地獄にするところだった。


はっきり言って、こいつらのケンカはハンパないからな。


この前なんか、某体育館が消えるところだったからな。





といっても、半壊したんだから、しばらくは使い物にはならないだろうけど…。



「なんで、こいつがいるのよ」



紅葉が、不機嫌そうな顔をして蒲原を睨む。



「実は、どこからか情報が漏れてたみたいで」


「お前ら、デートじゃなかったのか! 」



お前は、俺たちがデートすると思ってたのか。


残念だったな。


普通の高校生ならデートかもしれんが、紅葉が言ったように俺たちは、普通の人間でもないし、普通の高校生もやってない。


そもそも、お前はアイツの情報に乗せられすぎなんだよ。



「とりあえず、これ頼まれたものね」





紅葉は左手に持っていた紙袋から布にくるんだ物を取り出す。


サンキュー。


覚えてくれてたんだな。これがないと俺はキツいからな。


「そいつを渡すということは、一悶着あるんか」


「嫌なら、後ろで隠れててもいいわよ」


「はっ、俺が怖じ気ずく訳ないだろ! 」


挑発に乗りやすいから扱いやすい。


でも、蒲原がいるとなればかなり楽に仕事が進みそうだ。


そこんところは、蒲原に感謝だな。


「今回のミッションは、…」


紅葉は、メモ帳とA4サイズの見取り図を取り出して説明を始める。


俺たちは、これから向かう場所での段取りする。


近隣の住民からの通報である廃工場に出入りする怪しい人影があるそうだ。


これぐらいなら一般警察の管轄なのだが、どうやら今回の件には俺たちと同じ能力者が関わっている可能性が高いとなると一般警察には手が余るわけだ。



そこで、俺たちの出番だ。能力者には、能力者をということで5年ほど前に警視庁に置かれたのが特殊能力犯罪捜査課である。


高校生が捜査課にいることは、さほど驚くことではない。



と言っても誰でもなれる訳でもない。



能力者あるいはベテラン警官であること。


次に、能力を使った何らかの戦闘スタイルを持っていること。


これが第一条件になる。俺は、この捜査課入ってからもう3年になる。


それなりに事件は経験してきてるつもりだ。


ちなみに蒲原は4年、紅葉は3年だ。


チームを組んで動くようになってからはいつも俺と蒲原と紅葉の3人だ。


蒲原は裏口から、俺と紅葉は正面から突入みたいだな。



見取り図を見るからにはさほど難しい形でもって無さそうだ。


問題は数だ。


小さい工場だからこそ中はどうなってるか分からない。


星野さんが言うには、5、6人程らしい。


ちなみに、星野さんは、俺たちの上司の警察官だ。


3年前まではニューヨーク市警につとめていたエリート刑事で非常に頼りがいがある人だ。



「龍、聞いてた? 」


「分かってる。コレならいけるだろう」


「よし、話はまとまったみたいだな。早速出発するとするか」


星野さんがクルマのキーを持って来た。


星野さんは、身長が180程の高身長。優しそうな笑顔が特徴。


俺たちの、兄さん的存在の人物なんだよな。



俺たちは、星野さんの運転する国産スポーツカーに乗り込み目的地に向かう。




住宅街を抜け手すぐの海辺にその建物はあった。

外装は錆びてしまっていて看板も傾いている。



よっぽど前から廃工場になっていたようだ。


蒲原は、静かに裏口に向かう。


俺と紅葉はそっと入り口のシャッターを上げる。


すると、簡単にシャッターは開いてしまう。


「鍵はしてないみたいだな」


「そうね。……コレは、真新しいタバコね」


真新しいタバコか、最近人が入った確かな痕跡だな。


紅葉は愛銃、ワルサーPPKをホルスター抜き、そっと進んでいく。


小型のこの拳銃は、私服警官などがよく持っている。


小さくて帯銃してもばれにくいのが特徴の紅葉の、お気に入りの拳銃だ。


俺たち能力者とて、むやみに能力を使うとすぐに体力を奪われてしまうのでこういった、捜査の場合は拳銃を持って行くのは当たり前である。


もちろん能力者の犯人も拳銃などの武器に頼ることが多い。


俺は、制服の内ポケットに特別仕様のエアガンが入っているか確かめる。


こいつは、普通の拳銃なみに重たい。グリップにはSAAFと彫られていて、そんじょそこらのエアガンで無い。


俺が本気を出して撃っても壊れないように造られている特注品。


しかし、他人が撃つと何ともないエアガンである。


まあ、俺の能力に耐えられるように作ってるだけだからな。



建物内には、ドラム缶や古い車などけっこう物が残っている。


そんなものをよけ、地下へ続く階段を降りていく。


階段のスペースが人一人分しかない。


階段を下りきると、細長いコンクリートの通路が奥に延びている。


拳銃のセーフティーを解除しゆっくり静かに進む。


通路の突き当たりに、古ぼけたドアがあり隙間からは光が漏れている。







このドアの向こうには必ず犯人がいるはずだ。


腕時計の針は、5時19分50秒を指している。


作戦決行まで後、10秒。


紅葉は、ドアの右側に構える。



後5秒。俺は、取っ手に手をかける。


3、2、1、0。


ドアを思いっきり開け。中に飛び込む。



「手を挙げろ! 」



蒲原が向かいのドアから入ってくるのが見える。


部屋の中には、作業している男3人だけだ。



突然の俺たちの登場驚いた三人のうちの1人が、テーブルにおいてあった拳銃を取り上げようとする。


刹那。


蒲原の愛銃、漆黒のUSPが火を噴いた。


USP、ドイツの銃器メーカーであるヘッケラー&コッホ社が開発した自動拳銃。蒲原が持っているのは、USPモデルの中でも性能が高いUSP テクニカル45モデル。


装弾数15発のこの拳銃はH&Kが誇る名銃だ。



1発目で男が手に持った拳銃を落とし、2発目でテーブルにおいてあったもう1つの拳銃をはじく。


流石、蒲原やるとなったらしっかりと仕事してくれる人物だ。


3人とも結局すぐ手を挙げ、俺と蒲原で男たちに手錠をかける。



「ここで何してたの? 」


テーブルの上に置いてある薬品を手に取りながら紅葉が男たちに尋ねる。


「じゅ、銃弾を作ってたんだよ」


「へぇー。銃弾ね」




蒲原は、男たちの後ろに積んであるケースの山から一発の銃弾を取り出す。


「見たことない弾だな。何の弾だ? 」


その弾丸には、2本の赤いラインが引かれている。


見た感じは、9ミリパラベラム弾のようだが…。


「さあな。俺たちは、作らされてただけだから知らないな」


どうやら、男は嘘をついてなさそうだ。


署で調べるしかなそうだな。


「星野さんに連絡入れるとくか」


バタンッ


「死ね!」


突如ロッカーから男が拳銃を手に飛び出してきた。


俺は、動じず振り向きぎわに胸ポケットからエアガンを抜き出す。


瞬時にサイトを男の手に合わせ、引き金を引く。



飛び出した特注BB弾は物見ごとに男たちの手に直撃。


まあ、威力はかなり絞ったが、かなりの痛さを感じたはずだ。


激痛に驚いて、男は銃を手放してしまい拳銃は床に落下。



慌てて、拳銃を取ろうとする男に向かってもう一度引き金を引く。



男が銃を拾い上げるために伸ばした手をかすめるように弾丸が襲う。


弾が着弾したコンクリートは、本物の銃弾が当たったようにえぐれた。


本気で能力を使ったら、このエアガンでだって普通の拳銃と同じ威力を持っている。


「諦めろ、アンタに勝ち目はない」




俺は、男の頭に銃を突きつけ言い放った。






表に出ると、パトカーが2台来ていて取り押さえた男たちを連行していった。


「3人ともお疲れ様」


表では、笑顔で星野さんが俺たちを迎えてくれた。



まあ、今回の事件は簡単だったな。


だが、俺はこれから特殊能力犯罪捜査課始まって以来初めての手こずる凶悪犯罪に出くわすとは思ってもいなかった。



初撃につづく

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