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stage2 五発目 [Underground city]

闇夜が広島の町を支配する頃、二人の男女が繁華街から少し離れた裏路地を歩いていた。


息を殺して足音もたてず、目的に迫る。


そんな二人がいるとも知らず、ビール腹の中年男性がずんずんと裏路地を進んでいく。


蒲原は無言で向かい側にいる紅葉と手信号を使って合図をおくる。


電柱の陰に潜んでいた紅葉は小さくコクリと頷くと、暗闇の中に消えていった。


火神から得ていた地下街の情報。その組織のボスなら、写真の廃墟がどこだか知っているかもしれないしこれから西日本で行動がしやすくなるはずだ。


そう踏んだ俺たちは、組織の一員を突き止めた。


そしてそいつを今からそいつに挨拶をしに行く予定だ。


さて、そろそろおっぱじめるか……。


緊張を隠せない顔を押し隠すかのように内ポケットから拳銃を取り出す。


鈍く光るSOCOMには、サイレンサーが取り付けられている。


まっ、暗殺御用達ぐらいの消音効果があるからな。


そんなことをするつもりは、はじめからないがあくまでも自衛と脅しにか使えんだろう。


そう、心の中で思いながら男のとの間を少しずつ詰めていく。


後、三メートル。


依然として男は気づかない。


よし。


確信を得られた俺は、素早く右手で合図すると、ほんの一瞬のうちに男との間合いを一気に詰めた。


「動くな……」


ガチャリと音を立てて男の背中に銃を突きつける。


男が行動を起こす前に、上に潜んでいた紅葉が男前に飛び降り、そのまま二丁のUZI突きつける。


「ここら辺を仕切ってるボスに会いたいんだが、あんた知ってるだろ」


蒲原はニヤリと笑う。


「そうそう、早めに吐くのが得策よ。私って、以外と気が短いから」


そう言って、紅葉はレバーを下までおろし単発モードに切り替える。


「なんやおまえら、ガキがこんなことして許されると思っとんのか」


銃を突きつけられているというのに、余裕の表情で落ち着いた口調で話す。


「ガキをなめてたらえらい目にみるのはお前たちだぜ」


こういいながらも蒲原は少し違和感を感じていた。


マズいな。


さっきから人の流れがおかしくなってる。


もしかしたら、仲間を呼びやがったのか?


だが幸いにもここは入り組んだ裏路地、地形を利用すれば逃げるのは余裕だ。


だが、ここで逃がしておくと後々面倒だ。


チラッと紅葉に目をやると彼女も同じことを考えていたのだろうこちらに目を向けた。


「悪いがこっちも素人ではないさかいな。囲ませてもらった」


男は不適な笑みを浮かべる。


チッ!


しくったか。


直ぐにも交戦体制に入ろうとした時だった。


「おやおや、月夜に作戦行動とは大胆不敵ね……」


やけに大きい満月をバックにその人物そう言った。


低い建物の上に立っていてしかも後ろに月があるのでシルエットしか見て取れない。


だが、風になびく長い髪、先ほどのやけに大人びた声、そしてシルエットからして恐らく二十代前半の女性だろう。


「ぼ、ボス!!」


男の顔には驚愕の色がありありと見て取れた。


まさか、奴がボスか!


俺は慌てて屋根の上に拳銃を向けた。



向けたハズだった……。


しかし、俺の銃口の先には大きな満月があるのみ。


「前っ!!」


紅葉の声で、頭より先に体が動く。右に倒れ込むようにして上半身を右にずらす。


さっきまで俺の体があった位置を鋭利なナイフが通過していく。


今のは危なかった。


下手したらあのナイフで一突きにされていただろう。


俺は、なにも考えずSOCOMの引き金を引く。


空気が抜けるバシュッという音とともに銃弾が飛び出る。


直線的に飛んでいく弾道。


しかし、鉛玉がとらえたのは敵ではなく無機質なコンクリートだった。


「なっ!」


確かに、俺がねらったのは相手の中心ではなく、右肩だった。

だが、相手はそれを軽々とかがみながら銃弾を避けやがった!


相手との合間は約四メートル弱。


マズい!


拳銃で対処できなくなる。

この距離では、拳銃での交戦は厳しい。


相手は気長に待ってはくれなかった、またもや一瞬にして間合いを詰めてくる。


相手の攻撃を交わすには時間が無さすぎた。


迫り来る白銀の刃。


当たる!


そう思ったとき、新たな刃が俺に迫り狂う刃を邪魔をした。


激しい火花を散らして刃と刃が交差する。


「へぇ。あなたなかなかやるわね」


女性は、本当に感心している。



紅葉はそれにかまわず、ナイフを巧みに使って、相手に権勢の一撃を入れる。


だがその一撃が相手にあたることは無い。


ナイフとナイフ同士の戦いが繰り広げられ、始めは同等の戦いを繰り広げていた紅葉だったが、次第に押され気味になっている。


俺はもう一度発砲しようとSOCOMを構える。


構えたSOCOMのサイトの先で状況は動いた。


紅葉のナイフを刃の背で受け流すと、そのままナイフを右手から左手に素早く持ちかえる。


そして、その手を紅葉の腹部にたたき込んだ。


紅葉がやられた!


ゆっくりと前のめりに倒れ込んでいく紅葉を女性が抱き留める。


それと同時にいくつもの銃が


俺に突きつけられる。


ちくしょう、取り返しのつかないへまを踏んじまった……。


「ボス。コイツもこの場で片付けますか?」


男が冷酷に言う。


ボスと呼ばれた女性は紅葉の服の中から何かをとりだした。


あれは、警察手帳?


「フッ、そう言うことね。お前たち、銃を下ろしなさい」


「し、しかし!」


「私の話を聞いていなかったの? 早く銃を下ろしなさい。それに、人聞きの悪い事言わないでくれる?私は今まで誰一人として殺したことは無いわよ」


そう言って、女性はナイフを鞘に入れた。


「東の警官が来るなんて久しぶりね。連絡は来ているわ。蒲原巡査」


「連絡だと……」


「ええ。あまり時間がないわ。ついてきて」


彼女が手を一振りしただけで、ゾロゾロと男たちは散っていった。


俺はとりあえず気を失った紅葉を背負うと、女性について行く。


明るいところにきて気づいたのだが、女性の髪は腰近くまである黒髪のストレート。


鋭利な刃物のような瞳は鋭く厳しそうに見える。


その目は美形さを崩すわけでもなく、むしろ大人びた女性さを漂わせていた。


裏路地からでてすぐの小さな店に女性は入っていく。


「バー?」


変哲もないただの飲み屋。入ってすぐの客席は至ってふつう。


しかし、奥の部屋にはいるとそこは別世界だった。


「近下道……」


「そう、私たちの根城は地下。つまり広島の真下よ」


女性は、青いライトで照らされた地下道を歩いていく。


こう歩いているだけでもわかる。

この地下空間はかなりの広さがあるようだ。


「さて、ついたわよ」


そう言って、鉄のドアを開ける。


ドアの横には『地下街西口』と書かれている




「なっ!?」


蒲原が驚くのも無理はなかった。


巨大な近下空間に存在するもう一つの町。


「Underground cityアンダーグランドシティーにようこそ」


まるで映画を見ているかのような景色。


「これほどの空間が地下に存在していたのか……」


小さな店や住宅が中央の通りを囲むように立ち並んでいて、地下空間のちょうど真ん中に位置する場所には、白色の洋風の建物が建っている。


「この地下街を知っているのはごくわずかな人間だけよ」


脇の小さな階段を下りていき地下街の中に入っていく。


雛霧(ひなぎり)さま。只今お戻りですか?」


階段の下で黒の執事服に身を包んだ老人が一礼した。


雛霧と呼ばれた女性は答える。


「ええ。今戻ったわ。早速で悪いけど、最上幹部の招集をかけて。場所は中央会議堂」


「了解いたしました。早速手配します」


そう言うと、老人は何やらメモを取ると特殊な携帯でどこかに連絡を取る。


「地下空間の国王といったところだな」


「それは言い過ぎよ。私たちは地下に集まった組織」


「それで、アンタがその最高指揮者というわけか……」


「まっ、そんなところね。私たち異端者が隠れて過ごすには絶好の隠れ場所ということ」


雛霧は、クスリと笑って答える。


流石、一番上に立つだけの人間である。動じないというか、余裕に満ちあふれている。


「と言うことは、アンタらも能力者なのか?」


「そうね。組織の約七割は能力者が占めているわね」


七割か、かなりの人数だな。


よくそれほど人数がいて、警察に見つからないものだ。



「自己紹介をしていなかったわね。私の名前は雛霧(ひなぎり)椿(つばき)よ。あなた達のことは菜奈から聞いてるわ」


「へぇ……。んっ? 菜奈って柳刃課長のことか!?」



「そうよ。ほかに誰がいるのよ」


やれやれといった感じに雛霧は手を振る。


いや、他にもいるだろうが……。とつっこむわけにはいかなかった俺は、さらに質問を投げかける。


「課長とはどんな関係なんだ?」


「菜奈とは高校までの幼なじみよ。でも、オジサンの一件があってあの娘は東のSAAFに私は西日本に……。でも、ちょくちょく会う間柄よ」


「西日本でよかったな。でなけりゃ速攻、課長に検挙されてるぜ」


課長の仕事ぶりには時々恐れ入る。


龍司の推理力も秀でるものがあるが、課長は警察官として求められる素質にどれも優れている。


正義感、洞察能力、運動神経、優しさ。


警察官の鏡といっても言い過ぎではないはずだ。


「フフッ、そうかもね。だけど、私たちにだってしっかりとした目標ぐらいあるわよ」


目を細めた雛霧の表情が真剣になる。


「私たちにだって、自由に太陽の下で生きる権利があるはずなのにそれができない。だから私たちはこうして地下で生活しているのよ」


「地下で平和に暮らすのがこの組織の目的じゃないだろ。一体何を考えている?」


こんなことを聞かなくても、返事は大体予想がついていたはずなのに、俺は確かめるように質問した。


「私たちの目的……。それは革命よ」


雛霧は迷うことも無くその質問に返答した。

そう、まるでそれが当たり前であるかのように。



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