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stage1 十一撃目 『大切な人』

stage1のラストを飾るのは、帝都崩壊かもしくは、そのもくろみを龍司がぶち破るのか・・・・。


急加速する緊迫のラストをお楽しみに!!

俺は、この能力をあまり好きじゃなかった。


幼かった時、俺はこの能力を感じてこう思った。


「かっこ悪い能力」


と、強い武器の威力が弱くなって、弱い武器の威力が強くなる。


この能力を恨んだことは多々とある。




今はそれほど気にしていないが、その時は、歯がゆくて仕方がなかった。


我慢できなくなった俺は、父さんにこの能力がどう役に立つのか聞くと父さんは、落ち着いた声で俺にこう答えてくれたんだ。


「龍司。限界破壊の能力は、お前が大切な人を守ることが出来る能力なんだ。誇りに思えよ」


この言葉は、今でも夢に見ることがあるくらい俺の中で生きている父さんの大切な言葉だ。

そんな父さんは、三ヵ月後に俺たち家族を残してこの世を去った。


母さんは、海外の紛争や飢餓で苦しんでいる国で現役で今も働いているし、姉さんも高2のころから


SAAFで働いている。


父さんの残してくれた言葉を信じて、俺も中3の時、父さんの見てきた世界を知るために飛び込んで行った。


がむしゃらに今まで突っ走ってきたけど、未だに父さんの残してくれた言葉の意味は分かってない。


確かに、この能力のおかげで犯人を殺してしまうことはなかった。


だけど、これが父さんの言いたかったことなのだろうか?


すぐれた判断力、推理力、行動力そして人一倍の正義感。


父さんはいつでも慕われていて、俺は、そんな父さんを尊敬して生きてきた。


そんな父さんが言った言葉だからこそ、俺は今まで頑張ってきた、そしてこれからも頑張っていく。


・・・・


「どうしたんだ?」


「んっ、どうしたって何が?」


隣の席に座っていた桔梗が俺の顔を覗き込んできたので、俺は回想の世界から現実世界に戻ってきた。


桔梗の鋭い刃のように研ぎ澄まされた青い瞳は心配そうに俺を見るている。


「ジッと外を見たまま、人形みたいに固まったままだったから」


桔梗が次の言葉を言う前に俺は、少し遠くを見るように答えた。


「大丈夫。少し昔を思い出していただけだ」




俺たちを乗せた車は、あと5分程で前之浜新港に到着するだろう。


新港で、何が待ち受けているかは分らない。もしくは、何も待ち受けていないかもしれない。


どちらにせよ、5分もすれば答えが出る。


俺は、エアガンとミネベアの位置をしっかりと確認し来たる戦いに万全で挑む。


この戦いで帝都市民全員の生死が係わっている。


必ず、この街を守ってみせる。





新港で1台の車が俺たちを待っていた。黒塗りのセダンは、港の景色の中で異色を放っていた。


俺は送迎してくれた捜査官をすぐに新港から帰るように告げると黒塗りのせだんに向かって歩き出す。


「よくここまで来れたな。


だが、迎えが少なくないか?」


中山は車から降りて、たった2人でこの場に乗り込んできた警察官を見て笑った。


「多すぎても堅苦しいだけだからな。そんな事より、アンタがこの帝都で何をするつもりなのか教えてもらおうか」



中山との距離は、10メートルとない。


一気に間合いを詰めれる距離ではあるが、俺は立ち止ってその場で中山と対峙する。


すぐ後ろには、桔梗がいつでも戦闘態勢に入れるように立っている。


「俺が何もしなかったらこの帝都が滅ぶ。だから俺がこの帝都を救う」


中山は、まるで独り言でも言っているようにそう答えた。


「おいおい。それはこっちのセリフだろ。アンタが何もしなかった帝都が滅ぶ?ふざけられても困る」



少々怪しい動きをしている中山。


もしかして、ドラックか?


あれは、幻聴やら幻覚やらの厄介な作用も出るからな。


それなら、中山は俺たちが悪者に見えているのか?


「龍司・・・・」


「ああ、分ってる。これは、早めに片づけた方が良さそうだな」


俺は、1歩、2歩と右に歩く。

それに合わせて桔梗は左に向かって歩く。



薬でもやっているのなら、軽いはずみで中山は、暴走するかもしれない。

戦う場所が港で助かった。


もしここが人気の多いところなら死人が出かねないからな。

そこのところは助かった。

だが、俺たちが戦うにしては少し立地が悪い。


見ての通り港には、敵の弾を避けれるような障害物が近くにない。


少し奥の倉庫まで行けば障害物ばかりなのでそんなことを心配することはないのだが。


じりじりと移動する俺たちを見て中山は意外と冷静だった。

俺と桔梗が中山をはさんで一直線の位置にきた時、中山が行動を起こした。


目にも止まらない速度で2丁の拳銃を抜き去る。




銃弾は、俺を掠めるように抜けていく。


心の中でどつきながらも俺は、セダンの陰に隠れ、敵の格好の的になるのを避ける。


「まだまだ、反応が甘いぞ」

両手に持ったニューナンブをこちらに構えながら中山は不適に笑う。


「そうかよ!」


俺は、立ち上がって応戦する。

エアガンの三点バーストを撃ち込みつつ、今の状況を打開するべく頭をフル回転させる。


やはり、周りに障害物がないのは痛い。

前の戦い同様、戦況は良くない。


「前はまんまとやられたからな。今度はこっちの番だ」


桔梗は、ピンを抜いた煙玉を車体の下から向こう側に投げ込んだ。


軽快な音と共に白い煙があたりを包む。


「よし、今だ!」

俺の合図で、セダンの影から倉庫に向かってダッシュする。


距離にしておよそ50メートル。

最後はヘッドスライデイングをするように物陰に飛び込む。

それ程、時間はギリギリだった。

物陰に飛び込んだ後俺は腕時計の時間を瞬時に確認する。


残り時間は、後10分を切ろうとしている。


「さて、どうやって戦う?」


「アイツに、一瞬でもいいから隙を作るしかないな‥‥」


荒ぶる呼吸を落ち着かせながら、俺は作戦を立てる。

ヤツがどれほど強くても、不意をつかれるようなことがあれば、必ずそのタイミングでは無防備になるはずだ。


なら、その瞬間をねらうしかない。


「桔梗、俺が囮になる」


「・・・・」


少し怪訝そうな顔をするが今は手段を選んではいられない状況なので桔梗は、小さく縦に顔を振った。


作戦は決まっている。上手くやってみせるさ。



「頼んだぞ、ミネベア」


ホルスターから抜き去った。ミネベアを見つめて俺は願った。

もう一度、桔梗とアイコンタクトをとった俺は、その場から移動する。


「そろそろ鬼ごっこは終わりにしないか?」


中山は、少々焦った口調で倉庫に向かって話しかける。


「そうだな。いつまでやっても終わらないからな」


俺は、中山から一番近い物陰(ドラム缶)の裏から中山に答える。


「なあ、そろそろ教えてくれよ。どうやって帝都が崩壊するんだ?」


出来るだけ中山の気が俺に向くのと、時間稼ぎをかねて俺はのんきに質問なんかを投げかけてみた。


「どうやってか・・・・。それを知ってどうする柳刃龍司」






「決まってるだろ。それを止めるんだよ」



ちらちらと中山の位置を気にしながら装弾数を確認する。


「・・・・無理だ。奴が動き出したら誰にも止められねぇ。奴は破壊の限りを尽くすからな」


「へっ!えらい臆病だな。やってみないと分からないじゃないか」


向こうから聞こえてくる声には明らかに焦りが聞き取れる。


何に追いつめられてるのか知らないが、早めに片づけなくては。


俺は、マガジンをミネベアに押し入れると、セーフティーロックを解除した。


グリップをしっかりと握り、スライドカバーを引っ張る。


ガキンッという音を立て弾がセットされる。


大きく息をして、俺は思いっきり立ち上がった。


「中山!!」


ドラム缶越しから出てきた少年を発砲しようとした中山の腕が一瞬停止する。


それは、銀色のスライドカバーの漆黒色のミネベアを構えた彼の姿があまりにも龍司の父、柳刃龍一に似ていたからだった。


そんな一瞬の隙を桔梗は逃さなかった。


愛銃CZ75で中山の右手に握られているニューナンブを撃ち落とす。


そのタイミングに合わせて俺は左手のニューナンブを撃ち落とす。


いきなり銃を奪われた中山になすすべはなかった。


馬のりされるように龍司にマウントポジションをとられた後、目の前に漆黒のミネベアの銃口が中山に向けられていた。


「あきらめろ、中山。アンタの負けだ・・・・」

「ふっ。やはり親父さん譲りの判断能力の良さだな」


「そりゃどうも」


中山をうつ伏すにさせると持っていた手錠を両手にかける。


「かける側からかけられる側になっちまったか・・・・」


俺は、倉庫の物陰から出てくる桔梗を確認した後、俺は再び中山に質問する。


「でっ、帝都を破壊し尽くす物はどこに置いているんだ?」


時計のタイムリミットは、残り8分になろうとしている。


「ふっ。お前のすぐそばにあるさ・・・・結局間に合わなかったか」

中山は、笑った。狂ったように龍司を笑い飛ばした。


「おい、いい加減にしろよ。あまりふざけてると鉛玉喰わせるぞ」


「どうとでも言うといいさ。だが、事実は変わらない。」


中山がそういい終わるのと同時に、こちらに歩いてきていた桔梗がその場で膝を折り地面に倒れ込んだ。


「テ、テメエ!なにしやがった!!」


「俺は何もしていない・・・・」


「桔梗!大丈夫か!!」


中山を放っておいて桔梗の元に駆け寄ろうとした。


「龍司!き、来てはダメだ!」

桔梗の強烈な声に俺はその場に立ち止まった。


「ど、どういうことだ?」


「・・・・ヴァルキリー計画」

一人つぶやく中山を恨めしそうに桔梗は睨みつける。



「くっ、ヴァルキリー計画・・・・そうか、思い出した。私の能力は戦乙女ワルキューレなのか」



内なる何かを必死に押さえながら桔梗が呟く。



「龍司・・・・できるだけ逃げてくれ、もうすぐ私にも抑えつけられなくなる」


俺は戸惑った。今目の前で何が起ころうとしているのかも分からず仲間をおいて逃げるなんて理解できなかった。


「いいから早く!!」


叫びにも似た声その声に押される形で俺は中山を連れ、倉庫の中に向かって走った。


一体何が起こってるんだ!!


倉庫のカギを閉め、小さな窓からそっと外を覗く。





倉庫の外で何かと戦う桔梗。しかし、それは長く続かなかった。


やがて立ち上がった桔梗の瞳には、以前のような生気は宿っていなかった。

澄んでいたはずの瞳が、今は深海のように濁っている。


「き、桔梗?」


「ついに目覚めてしまったか」

「中山、戦乙女ってなんなんだ!?」


「彼女の能力は、人間が人工的に与えた能力。戦場でいかに強い兵士を作るかで行き詰まった奴らは、能力者に目を付けた。その産物があの戦乙女だ」


「つまり、作られたってことか?」


「ああ、奴らは動くものすべてを破壊し尽くす狂戦士。もう帝都の未来はない・・・・奴を殺さない限りな」


殺すだって・・・・。

俺に、仲間を殺せだと。


しかし、もし彼女が街中に向かったら無差別に屍の山を作ることになるだろう。



何とかならねぇのか!?


「そうだ!呼びかけたら目を覚ますかもしれない」


「止めておけ!それは、ただ死ぬだけだ。ヤツは6年ぶりの封印から解放されたんだ!桔梗の人格は介入することすらできない状況になっている」


「な、なんだと・・・・」


俺に追い打ちをかけるようにいやな知らせを告げる無線が入る

『龍司、たった今U18から桔梗ちゃんの射殺命令がでたわ!一体がなにが起こっているの!!』


その質問はむしろ俺がしたいくらいだ!

クソ!!警察官は使い捨てか!


「U18まで動き出したか・・・・流石、仕事が早いな。柳刃龍司、お前に教えてやろう。このシナリオがどうして生まれたのか」


父さんが亡くなった事件に起こった真実。




〜6年前〜


「中山・・・・この事件どう動くと思う?」


柳刃龍一は、同僚の刑事中山大二郎にそんな質問を投げかけた。


「状況は良くないな。人質の体力、精神力を考えても長引かしたくない」


龍一は、パトカーに備え付けられている無線のスイッチを切る。


「U18部隊もいるからな。今日こそはあのに会っておかないとな‥‥」


「あの娘?」


「中山、ヴァルキリー計画って知ってるか?」




緊迫した銀行をパトカーから、見つめながら、龍一は静かにつぶやく。


「あの強化兵士を作り出すっていうオカルト話か?」




「ああ、俺も初めは噂だと思っていた。だがな、ヴァルキリー計画は実在していたんだ。そして俺は、ヤツらの尻尾をもうすぐで掴めそうな所まで来ている」


「ホントか!?」


「俺の能力『精神操作』でヴァルキリー計画を一時的に停止させることはできる。だがこの計画は、きっと俺の息子と娘を巻き込んでしまうかもしれない・・・・んっ、ちょっとタバコ吸ってくるわ」


そう言って龍一は車外に出て行った。


龍一は、昔から友人にウソをつくのが下手だったからすぐに分かった。

その時、車の前を通ったのが桜咲桔梗だった。

龍一が出て行って10分程たったときだった。


銀行内から一発の銃声が高々に響き渡った。


俺は、顔色を変えて銀行に突入したさ、だがそのときには龍一は虫の息でもう死に間際だった。


「ハハハ、しくっちまった」


「いいから喋るな!」


「後少しだったんだがな、だが、彼女の能力を封印することができた。タイムリミットは6年後の7月29日1時50分・・・・だ」


やつはそう言い残して死んだんだ。




「6年間いろいろな方向に手を尽くしたさ。それでも、救う方法は見つからなかった。タイムアップだ。単騎特効型戦闘兵器を誰も止めることは出来ない」

「戦闘兵器だと・・・・」


この時、俺は一つの作戦を思いついた。


U18部隊やら警視庁がこの港に集まるのにさほど時間はかからなかった。


辺り一帯に響く、サイレンの音。


拡張器から聞こえる現場も分かってないような上司の退却命令。


俺は、ミネベアを抜き去ると倉庫の入り口に歩いていく。


「どうするつもりだ?」


「やれることをするだけさ」


入り口のカギを開けてそっと外をのぞく。


こちらに拳銃を向けて立っている桔梗の姿が見える。


「さて、やるか!」


ミネベアのセーフティーロックをはずて、牽制のため威嚇発砲をする。


桔梗の1メートル横に銃弾が着弾しているのに、桔梗は冷静にそれを見つめたのち、こちらに向かって歩いてきた。




俺は、少し威力を落として桔梗の体をねらう。


しかし、俺のミネベアから撃ち出された銃弾は、桔梗のCZから撃ち出された銃弾に相殺されるように撃ち落とされる。


マジか・・・・銃弾の軌道まで見えてんのか。


その後、終わりの見えない攻防が10分に渡ってくり広がれど。しかし、徐々に俺が押され始めている。


「そろそろあきらめたらどうだ。お前が出て行ったところで一瞬で撃ち殺さるだけだぞ」


奥で座り込んでいる中山が笑う。


「そうかもな」


素早く次のマガジンに入れ替えて発砲する。俺がいくら撃ち込んでも、銃弾を全て撃ち落とされる。


それだけでなく、頬を肩を横腹を銃弾が掠めていくので、俺の体や服は、掠めた弾丸で切れたり、裂けていく。


だが、逃げ出そうなんて思わない。


自分の組み立てた論理を信じ、桔梗と真っ正面から向き合う。

俺は、腰に装備していた最後のマガジンをミネベアに込める。


「お前の向かう先には絶望と言う名の闇を待っていないぞ。なぜ、それに逆らおうとする」

ミネベアを構えながら息を整える。


「アンタが、絶望を受け入れるのなら、俺はその闇の中から一点の突破口だけを探し出す!」


CZの弾丸がすぐそばの鉄骨に着弾して火花が飛び散る。


「最期まで諦めはしないさ」


先ほどから、桔梗の発砲音とリロードのタイミングを聞いていた俺は、倉庫の外に飛び出して障害物のない空間に己の体を押し出していく。




桔梗の今のマガジンの残りの弾は5発。






俺の残りの弾は4発だ。


俺は、走り出したのと同時に2発、桔梗に向かって発砲する。


2発に対して桔梗は3発で対処してくる。


たった1発の銃弾2発で弾を撃ち落としもう1発で俺をねらってくる。


そのまま、左足で地面を思いっきり蹴飛ばして右側に回避することにより3発目の銃弾を交わす。

桔梗も俺も残りの弾は2発。


2人の距離はおよそ5メートル。


俺はこの距離で残りの2発を撃ち込む。


俺の予想道理、桔梗は2発の銃弾に対して発砲する。


しかし、撃ち込んだ弾の数はたったの1発。


弾丸は、絶妙な角度で俺の1発目の弾にぶつかり、そして跳ね返る。


まるで吸い込まれるように、二発目の銃弾にぶつかってその軌道をそらせる。


明らかな誤算だった。


俺と桔梗の距離は三メートルもない超近距離だった。


そんな距離で、CZ75が火を噴いた。


銃弾は、なすすすべもない俺の体をいとも簡単に貫き、血の尾を引く。


彼女の深く濁った瞳には鮮血を飛び散らす龍司しか映ってない。


周りで待機していた捜査官たちは息をのんだ。


撃たれてもなお、少年はその歩みを止めず、たった今、発砲してきた少女に向かって手を伸ばす。

真っ赤な液体が落ちて地面に、どす黒い赤い池を形成しても、少年は気にしない。


俺は、桔梗のうつろな瞳をしっかりと見つめてその体をこちらに引き寄せる。




「・・・・兵器になんてさせない!」


拳銃の威力を弱めるように、桔梗に向かって能力を使用する。


彼女が史上最強の戦闘兵器なら、この能力が存分に働くはずだ。


俺は信じた。


昔、父さんが遺した大切な言葉を、俺はもう一度桔梗の瞳の中を見つめる。


彼女のうつろな瞳から、涙がこぼれ落ちてやがてその瞳に生気が徐々に宿っていく。


「・・・・龍司」


弱々しくも、ハッキリと俺の名前を彼女が口にする。


「んっ、どうした?」


桔梗から、大粒の涙がいくつもの流れ落ちる。


「ううっ、スマナイ、スマナイ!」


桔梗は、泣きながら俺に謝る。

俺は、そっと桔梗の肩に手をおいてにっこりと微笑む。




「なに謝ってんだよ」


「だって!」


「だってもなにもねぇ・・・・」


続きの言葉を言いたかったが、口は動いてくれなかった。


ちょっと血出しすぎたみたいだな。


倒れそうな俺を桔梗がしっかりと支えているのが微かに分かる。


救急車がこっちに向かって走ってくるのが見える。



俺の前に滑り込んできて、救急車の後ろに担架で載せられる。


痛みを遮断しているのか、痛みというかしびれのようなものが感じる。



俺の右側のイスに座っている桔梗と姉さん。

桔梗は俺の左手を救急車に入ってからずっと握ってくれているようだ。


だけど、その感覚もなんだか無くなってきた。




・・・・なんか眠たくなった


「無理しすぎたかな、ちょっと寝てもいいか?」


この言葉を聞いて、桔梗の顔が強張る。




「寝ちゃダメだ!病院まで後ちょっとだから!!」


救急車は、サイレンを響かせて大通りを走り抜けている。


だんだんと周りの音、視界、感覚が鈍くなっていき、泥沼に沈んでいくような眠気が襲ってくる。



桔梗は、力の抜けていく龍司の左手を握りながら龍司の顔を覗き込む。




「なぁ、龍司。お礼を言わせてくれ・・・・」


だが、彼女が深く深呼吸をした時だった。


龍司の左手が桔梗の手から滑り落ちる。





重力に逆らうことができなくなった左手は担架からだらんと垂れ下がった。


「龍司・・・・?」


しかし、名前を呼ばれた少年は答えない。


奈菜は、顔を伏せて苦い顔をする。


「そんな・・・・ウソだ!!目を覚ましてくれ龍司!」


救急車の中に無情にも彼女の叫び声が響き渡った。








どこを見ても真っ白な世界が俺の辺りを包んでいた。


「死んだのか?」



「龍司か・・・・久々だな」


不意に懐かしい声が俺の名を呼んだ。


「・・・・父さん?」


「よっ」

父、柳刃龍一は、白い世界の先からぼんやりと現れた。


「しばらく見ない間にいい顔つきになったな」


「父さんも、元気そうで何よりだよ」


「ハッハッハッ!死んでるんだから病気になんてなるかよ」


「・・・・父さんが俺に言いたかったこと、やっと分かった気がしたよ」


久々の再会で気恥ずかしかったが、この言葉は伝えておきたかった。


「ふっ、いっちょ前になったな」


「まぁな」


「・・・・行くんだろ?」


龍一は、ニカッと少年のような笑顔を俺に向ける。


「ああ、待たせてる人がいるからな」


後ろ手に手を振ると、俺は父さんに背を向けて歩き出した。






ぼやけた視界が、少しずつはっきりとしてきた。


静まりかえった部屋は、どうやら病院の一室なのだろう。


清潔感のあふれるベッドだけの部屋。



若草色のカーテンの隙間から、上半分が欠けてしまっている月がこちらを覗いている。




ふと、視線をベッドの横に向ける。


誰かがずっと俺の左手を握っていることに気づいたからだ。


ベッドに寄り添うようにスヤスヤと寝息をたてて寝てしまっている銀髪の少女。


しかし、寝ていても彼女は左手を離さない。


まるで、その人がどこかに行ってしまわないように。


俺は、ついつい微笑んだ。


「・・・・ありがとな。お礼を言うのは俺の方だよ」










〜エピローグ〜


「姉さん・・・・」


神妙な顔をした少年は、部屋の片隅にたっている姉に話しかける。


「何?」


姉は、部屋の片隅で丸イスに座って雑誌を読んでいる。


「いつまでこの始末書と報告書を書きゃあいいんだぁぁぁぁ!」


少年は、超絶なスピードで始末書を書きながら大激怒すると言う離れ技を繰り出していた。


「龍司、興奮すると傷口が開くわよ」


姉、奈菜は雑誌読みながら素っ気なく答える。


ここは、病院の一室。


龍司の独断と専行でこの事件を解決させたため、ホントのことを知っているのは龍司だけだった。


「ああ、あまりにも無情だ・・・・」


ため息をもらしながらも、書類を書いていく。


「なぁ、桔梗はどうしてる?」

「・・・・あの娘なら、捜査に戻っているわよ」


姉さんは少しだけこちらをみたかと思うと、すぐに雑誌の方に視線を戻した。


「そっか‥‥」


ペンを動かす右手を止め、若草色のカーテンを開く。


カーテンの向こう側には、吹き抜けるように気持ちのよい青空が広がっていた。


すっかり真夏のような強い日差しになった外では、セミたちがせわしなく鳴いている。


「おっ、もうこんな時間か」


壁に掛けられているアナログ時計は午後2時になろうとしている。


「あら、ホントね。そろそろ飛行機のフライト時間ね」


蒲原と紅葉は、西日本の広島に、火神は太平洋を隔てた向こう側の国アメリカ合衆国に向かうことになっている。


必ず、二つの場所で有力な情報を得られるはずだ。


本当なら俺が行きたいのだが、今は何より体を治すことが大切だ。


それに、彼ら彼女らに任せておいて不安はない。


うまく、やり遂げてくれると信じている。


そんな事を思っていた時、病院に入ってくる銀髪の少女が目に入った。



「守られる側から守る側にならないとな」


少年は、雲一つない真夏空に一人呟いた。




〜END〜

次回予告、stage2!!



帝都崩壊と大切な仲間を守った龍司は負傷のため入院することになった、そんな中、蒲原と紅葉に新たな任務で西日本、広島県に行く。



広島で彼らを待っていたのは!?



次回もお楽しみに〜♪

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