ゆびきりのレミニセンス
あの日、僕たちは約束をした。
指を絡めて、
「また会おう」と。
子どもの頃には、それが永遠だと思っていた。
けれど、時間が経つにつれて、
約束したことさえ忘れてしまう。
忘れたはずなのに、ふとした瞬間に思い出す。
声も、表情も、あの日の景色も。
それはきっと、記憶というより――
僕の中に残っていた、約束の続きだった。
これは、遠い日の約束を思い出すところから始まる物語。
『ゆびきりのレミニセンス』
蝉が鳴き止み、
涼しさを感じるようになった頃。
僕は大学の講義を終え、外へ出た。
「隼人ーーーー!!」
後ろから呼ばれ、その声の方へ振り向いた。
「うわ!!」
一人の少女が、僕に勢いよく飛びついた。
そのまま二人して地面に倒れこむ。
「痛てて......危ないぞ、瑠奈!」
「えへへ、ごめん......」
「じゃあ、今日も一緒に帰るでありますぞー!」
「わかったよ」
蝉の声が消えた街は、
不思議なくらい静かだった。
「今日、いつものケーキ屋さん行こうよ」
「昨日も食べてた」
「昨日はタルトだからいいの!」
「同じでしょ」
瑠奈は今日もわがままを言っている。
神社の鳥居を通り過ぎ、大きな本屋を抜ける。
その奥には、駅まで続く大きな下り坂がある。
坂を下った先には、
びっしりと並ぶ商店街がある。
そこは毎日、人々の活気で溢れていた。
僕はふと、店先に置かれた
「小さなおもちゃの家」に気取られた。
洋風の作りで、赤い屋根の家の模型。
なぜか、目が離せなかった。
どこかで見たような気がした。
そんな気がした。
「あのお菓子美味しそうダネ!」
「綿あめが食べたいー!」
どこからか、
奇妙な声が聞こえた気がした。
振り返ってもだれもいない。
今の声は、なんだったんだろう......。
「....と、ねえ、隼人ってば!」
僕は、瑠奈の声で我に返った。
「あ、ごめん......どうかした?」
「どうかしたって隼人が急に動かなくなったんじゃん」
「あはは.......ちょっと考え事しててさ.......」
「ふーん」
瑠奈は不満そうな顔で僕を見ていた。
「そ、そうだ!ケーキ買いに行こうよ!」
僕は誤魔化すように、
瑠奈をケーキ屋に誘った。
「わあ、このチョコのやつ食べたい!」
瑠奈は目を輝かせながら、
ケーキのショーウィンドウを見ていた。
「それ美味しそうダネ」
「僕も食べたーい」
またどこからか、
不思議な声が聞こえた。
「おいしいネ!」
「うん、おいしいネ!」
僕は、声が聞こえた方を振り向く。
けれど、何もない。
あるのは店の隅に置いてある
ウサギの人形。
「気のせいか......」
その時そのウサギの目が、
僕のことを見ているような気がした。
「隼人はいらないの?」
瑠奈には、聞こえていないみたいだった。
「うーん、僕はタルトにしようかな」
「あ!私にも、一口ちょうだい!」
「一口だけだよ?」
「当たり前だよ!私の事なんだと思ってるの!」
「あはは......冗談だよ」
「もー!」
瑠奈は頬を膨らませてながら腕を組んだ。
それにしても、あれは一体何だったんだろう......
「ただいまー」
家に帰ると、母さんが夕飯の支度をしていた。
「隼人、ご飯食べるの?」
「うん、お風呂入ったら食べようかな」
僕はお風呂を済ませ、部屋のベッドに横たわった。
そうすると僕は、
突然の眠気に襲われてそのまま眠ってしまった。
───
翌朝。
僕はベッドから降り、
眠そうに眼をこすりながら
お風呂場にある洗面台に向かった。
顔を洗い終わり、
リビングに着くと
母さんが朝食の準備をしていた。
「おはよう」
そう挨拶すると、
父さんはコーヒーを手にしながら聞いた。
「最近、大学はどうなんだ」
「まあまあだよ、特に変わりないって感じ」
「そうか」
何気ない会話、
いつも通りの朝だった。
昨日のあの声とあの人形は、
僕の幻聴だったのだろうか。
「痛っ......」
僕が後ろを振り向くと、
母さんが指を抑えていた。
「どうしたんだ」
父さんが心配そうな顔で聞く。
「包丁で少し指を切っちゃったみたい」
「もう、母さん気を付けてよ。ちょっと待ってて」
「これくらい大丈夫よ」
「いいから」
僕は救急箱から出した絆創膏を、母さんの指に貼る。
その時、玄関の前で何やら音がした。
「ピンポーン」
家のインターホンが鳴る。
「隼人―!迎えに来たで、ありますぞー!」
「隼人、瑠奈ちゃん来たぞ」
「うん、じゃあ行ってくる」
「気をつけろよ」
「うん」
そういって僕は家を出た。
「隼人ーー!おっそーーい!!!」
「ごめんごめん」
靴を履きなおして、
瑠奈と歩きはじめようとしたその時。
「......」
僕は足を止めた。
昨日ケーキ屋に置いてあった、
ウサギの人形が、家の塀に座っていた。
「隼人、どうしたの?」
「いや、あそこに......」
振り返った時には、
ウサギの人形はいなくなっていた。
「え?なんもないじゃん!」
「いま、確かにそこに.......」
僕の見間違いだったのだろうか。
「もー!隼人早く行くよ!」
「う、うん......」
そう思うことにして、
瑠奈のあとを追った。
───
大学に着くと、瑠奈は振り返って言った。
「私、一限から講義あるから先に行くね」
「うん、また後で」
瑠奈と別れてすぐ後ろから声をかけられた。
「今日もラブラブだなー!」
「そんなんじゃないよ」
周りのガヤが僕をからかっていた。
僕はそれを軽くあしらって、
生物室まで歩いた。
机にカバンを置き自習の準備をしていると、
先生が生物室に入ってきた。
「那岐、今日は早いな」
「はい、今日の講義は3限からなので」
「今日も熱心だな」
先生は満足そうに頷き、
そのまま倉庫の中に入っていった。
「ハヤト、ハヤト」
急に誰かの声がした。
振り返ってみると、
生物室にいつもいるインコだった。
「いつ僕の名前なんて覚えたんだ?」
「ナマエオボエタ、ケーキオイシイ、ワタアメタベタイ」
「綿あめ?」
「ワタアメ」
「昨日も聞いたな」
「キノウキイタ」
生物室にはこのインコの他にも、
蛇や、カメレオン、金魚など、
数多くの生き物が飼育されている。
「そういえば、このインコが喋るの初めて見たな」
「ハジメテ、ハヤトハジメテミタ」
「那岐、お前インコと話してどうしたんだ?」
突然、後ろから先生の声が聞こえた。
「あ......いえ、何でもないです」
僕はインコのほうに目を向けた。
「ピィ」
「那岐、寝ぼけてるのか?夜更かしは程々にしろよ?」
「はい......」
なんだろう......
インコが喋るのは知っていたけど、
なんで僕の名前を知ってたんだろう。
それに最近、謎の声が聞こえたり、
人形の目が動いて見えたり、
奇妙なことがよく起こる。
そんなことを考えながら、
生物室の論文書を読み漁ろうと、椅子に座った。
いつもなら何時間でも、
読んでいられるはずなのに、
何故か今日は文字が頭に入ってこない。
あの店で見た。
あの「小さな家」の模型が頭から離れない。
あの小さな家。
赤い屋根でレンガの壁。
僕は昔、それを見たことがある気がした。
赤い屋根の家......。
父さんくらい大きい綿あめ。
ウサギの笑い声。
小さな手。
「ハヤト」
「ハヤト」
誰かが呼んでいる。
「マタキテネ」
この記憶、なんだったっけ。
「......と、隼人!」
「隼人!三限から講義でしょ!?もうすぐで講義始まるよ!?」
生物室で僕は眠っていたらしい。
「あ!ごめん!瑠奈、ありがと!行ってくる!」
僕は慌てて生物室を飛び出した。
それにしてもあの景色。
やっぱりどこかで見た気がする。
そう思いながら教室へ向かった。
──────
放課後。
「隼人ー!一緒に帰るでありますぞーーー!!」
「うん」
冷たい風が吹き坂から見下ろす夕暮れが、
町全体を茜色に染めていた。
いつもの帰り道、
あの小さな家の模型が置いてあった店。
あの店を、もう一度見に行こうと思った。
「小さな家?」
店員に聞くと、
そのことを全く知らないようだった。
昨日そこに置いてあった小さな家は、
跡形もなく消えていた。
「ねえ、隼人」
「何?」
「最近の隼人、なんか変」
「そうかな?」
なぜか僕は、必死に平然を装った。
「あとねなーんか隼人、昔のにおいがする!」
「昔のにおい?」
「うん!むかーし隼人と私が小さかったころ、遊園地に行った話をしてくれたでしょ?」
「隼人あの時と同じ匂いがするの!」
瑠奈は僕の服をかすかに匂いながら、
思い出しているようだった。
「そんな話したっけ?」
「したよ!ウサギさんとしゃべった!とか、大きい綿あめを食べたんだ!とか」
瑠奈は笑った。
「あの時の隼人、かわいかったなぁ......」
僕の記憶の片隅に隠れていた、
朧気な記憶が蘇った。
「そ、それ......」
大きな綿あめ。
赤い屋根の小さな家。
しゃべるウサギ。
頭の中で散らばっていた欠片が
一つに繋がった。
「そうだ、僕は不思議な遊園地に行ったんだ」
心の中で言ったつもりが、
気がついたら声に出して言っていた。
そこがどこにあるのか分からない。
覚えていることはたしか───
見たこともないような巨大な門が
僕を見下ろしていた。
「わあ......!」
門をくぐると店や屋台が一本道にずらりと並び、
その奥には、
異世界で見るような巨大な城がそびえ建っていた。
店や屋台の周りにはウサギや猫の被り物をしている、
大きな風船を配っている人。
知らない動物の人形や銅像。
僕よりも遥かに大きい綿あめ。
数十メートルはあるピエロの乗り物。
幼い僕はその空間に興奮していた。
「パパ!あの風船ほしい!」
「なんだ、あの風船!でっかいな!兄ちゃん!その風船ひとつもらうよ!」
父さんは風船を受け取ると、
僕より何倍も大きい風船を僕に手渡した。
僕がその大きな風船を持つと、
僕の体は宙に浮き出した。
「う、うわあああ!」
「隼人!」
母さんがとっさに僕の名前を呼んだ。
父さんは僕の足を間一髪で掴むと、
大声で笑いだした。
「あはははっ!すごいなこの風船は!」
「もう、びっくりした......」
母さんはホッとしたような笑みを浮かべた。
「さあ!ワンダーガーデン名物、ウカトリスの丸焼きだよー!」
「お、何かいい匂いするな」
僕たちは父さんが見た方向へ振り返った。
ジューーっと肉を焼く音と、
美味しそうな匂いがした。
それに釣られて僕たちは、その店に足を運んだ。
「そこのぼっちゃん!このワンダーガーデン名物、ウカトリスの丸焼きだよ!」
それは子供だった僕より、
何倍も大きい鶏のような生き物の丸焼きだった。
「皮目に醤油を塗り炭火でじっくり焼いた後、桜のスモークチップで燻製した、外はパリッと、中はジューシーな当店自慢の逸品だよ!」
「パパ!これも欲しい!」
「うまそうだな......!」
「ピエロの兄ちゃんこれ一つ!」
父さんは迷いもしないでそれを買った。
「うっまああ!」
それはほっぺたが落ちるほど美味しかった。
「これいけるぞ!お前も食べてみろ!」
ウカトリスを口いっぱいに頬張る二人を見て、
母さんもそれを口にする。
「あ、ほんとだ鶏肉みたいね」
母さんはここに来て初めて笑みを浮かべた。
「パパ!ママ!次はあそこ行きたい!」
僕はその後も興奮が覚めないまま、
遊園地の中を駆け回った。
知らない動物が回っている、
メリーゴーランド。
その動物がたまに、
僕に微笑んでいるような気がした。
遊園地でいちばん高い観覧車。
1番上まで行くと、下からでは見えなかった
大きなピエロの乗り物の口の中が見えた。
そこはどこまでも続く、
終わりのない洞窟のようだった。
この遊園地での時間は永遠に続く、
そんな気がした。
「あはははははっ!」
気がつくと景色は夕暮れに変わっていた。
永遠に流れている陽気な音楽。
いつまでもお腹がすくような、
屋台の食べ物の匂い。
永遠に回っていそうなメリーゴーランド。
「パパ!ママ!楽しいね!」
「......」
「パ、パパ?」
気づくと世界は僕一人になっていた。
さっきまで陽気に流れていた音楽も、
永遠に回っていたメリーゴーランドも、
被り物をした人の姿も、
最初からこの世に存在しないかのように、
静かになっていた。
「マ、ママ!」
「パパ、ママ!どこ!」
辺りを見渡しても、
父さんと母さんは見当たらない。
あるのは、
誰もいない茜色の遊園地。
「うあああん......パパ、ママ......」
僕は怖くなってその場にうずくまった。
「大丈夫?」
涙でぼやけていた目に、
真っ白な耳がピンッと立った何かが、
僕の顔を覗いていた。
それは僕の背中をさすりながら、
優しい声で囁いた。
「よしよし、泣いてるの?もう大丈夫だよ?」
涙でくしゃくしゃの顔を上げ、
綺麗な白色の生物に話しかけた。
「君は誰......?」
「僕?僕はムーだよ!君は?」
ムーはそう言いながら、僕に手を伸ばす。
「は、隼人」
僕は溢れ出る涙を手で拭いながら、
その子の手を握った。
さっきまで立っていたムーの真っ白な耳は、
今は後ろに倒れて、ぴょこぴょこ動いている。
「ハヤト!もう平気?」
ムーは僕の頭を撫でながら
優しい顔でそう言った。
「う、うん」
涙を拭き終わり、
その子の顔がはっきりと見えた。
真っ白な身体。
透き通るような赤色の瞳。
ピクピク動く長い耳。
ムーは、二足歩行の喋る白ウサギだった。
「僕たちの家に行こう?」
「家?」
「うん!僕たちのお家!」
そう言ってムーは僕の手を引いた。
「どこにあるの?」
「すぐそこだよ!」
そう言ってムーは僕の手を引いて、
道外れの林の中に入っていった。
木々に囲まれ、
出口のような淡い光を放つ場所に着く。
そこには一軒の小さな家が建っていた。
その家の周りだけ、
木々が輪を描くように道を譲っている。
夕日の光が差し込み、
色とりどりの花が紅に染まっていた。
まるでこの家が、
この森全体に守られているかのようだった。
「ここが僕たちの家!レミニセンス!」
赤い屋根でレンガの造り、
一人暮らしができるくらいの小さな西洋風の家。
「ここ?」
「とにかく一緒にきて!」
「う、うん!」
ムーがドアを開け二人が入ると、
ドアがどんどん大きくなっていった。
「ど、ドアが大きくなってる......」
「違うよ?僕たちが小さくなってるんだ」
「ぼ、僕たちが?」
中には一本の長い廊下が奥へ続いていた。
すぐ左には二階へ続く階段があった。
ムーは僕を階段横のドアに案内した。
「ハヤト!ここを開けてみて?」
僕がドアを開けると、
あの小さな家からは想像もつかないような、
広いリビングがあった。
暖かい暖炉。
ふかふかの赤いソファー。
天井から床まである大きな窓。
古い棚の上には、
淡い光を放つ蝋燭が立ててある。
「すごい......すごいよムー!」
「......」
さっきまで後ろにいたムーは、
いつの間にか消えていた。
その時だった。
リビングの中から、
幾つものクラッカーが鳴り響いた。
「せーの、ハヤト!ようこそ!レミニセンスへ!」
部屋の家具の後ろに隠れていた動物たちが、
一斉に飛び出した。
「ハヤト!ようこそ!」
「はじめまして!ハヤト!」
「ハヤト!これから仲良くしようね!」
「ハヤトの歓迎会だー!」
色々な種類の動物たちが、僕を歓迎してくれた。
「僕たちは、ベスティオリーナ!」
「ベスティオリーナ?」
「そう!僕たちの名前!」
ベスティオリーナ達はみんな、
僕と同じくらいの歳に見えた。
「ハヤトはゆっくりしててね!」
ベスティオリーナたちはそう言うと、
すごく大きなクッキーや、
体を大の字にして寝ても足りないほど大きな、
いちごタルトを持ってきてくれた。
「おいしいー!」
「ねぇハヤト!僕たちの家、気に入ってくれた?」
ムーは笑顔で僕に聞く。
「うん!」
「まだ、沢山見せたいものがあるんだ!」
ムーはそう言うと、
僕を食堂に案内した。
「わぁ......おっきい......」
そこは、リビングよりも大きい
広々とした大食堂だった。
「ハヤト!あそこ!」
ムーは、食堂に堂々と置かれている
大きな古時計を指さした。
「大っきいー!」
僕の身長の何十倍も大きいその古時計は
さらに僕の好奇心をかきだした。
「じゃあ、ハヤトいくよ!」
ムーは僕の手を握り、古時計のドアを開けた。
「え!そ、それって時計の中!?」
「うん!時計の中!」
ムーは僕を時計の中に引っ張った。
気づくとそこは、
辺り一面がお菓子でできた部屋だった。
床はクッキーで作られ、
壁はチョコレートでびっしり埋まっている。
この部屋の全てが、お菓子でできていた。
「す、すごい!」
「この部屋だけは時間をなんにも気にしなくていいんだ!ハヤト、ドアの外を見てみて!」
ムーの言葉通り、
さっきまでみんなといた部屋へ振り返る。
「止まってる」
騒いでいたみんなが
その状態で静止していた。
ムーは笑いながらハヤトに言った。
「止まってるんじゃないよ」
「この部屋の時間が速すぎるんだよ」
「だから、止まってるように感じるの?」
僕は不思議そうな顔をしてムーを見る。
「そうだよ!僕のお気に入りの部屋なんだ!」
ムーはすごいだろ!という顔で僕を見た。
「この部屋のものは全部食べられるよ!それにお菓子はまた、全部生えてくるんだ!」
ムーがチョコの服かけを折って口に運んだ。
その直後、
折られた服掛けはみるみると元に戻った。
僕も壁のチョコを、ひとつとって食べた。
「美味しい......」
「ハヤト!次はこっち!」
ムーは僕を次の部屋へ連れていった。
───
「こんなに沢山のおもちゃ初めて見た......」
「そう!ここはおもちゃの部屋!ハヤト、あそこ見て!」
ムーが指さしたのは、
大きなロボットの口をした扉。
「アリー・コン・ラ・ヴェーア」
ムーが何かの呪文を唱えた時、
ゴゴゴゴゴッッ......
ロボットの口が、
大きな重低音を鳴らしながら開いた。
「ハヤト!行こう!」
ムーに手を引かれ中に入る。
「ここは幻想の部屋!なんでも好きなおもちゃが出てくるんだ!」
ムーがそういうと、
部屋の真ん中に巨大なドラゴンが現れた。
鱗は赤黒く灼熱の炎のようで、
爪は鋭く光っている。
そのドラゴンの目が赤く光った、
その瞬間。
ドラゴンの喉が赤く膨らみ、
あたりの空気を吸い込んだ。
「ゴオォォォォ!」
溜めに溜めた息を吐くと、
辺り一面が炎に包まれた。
「う、うわああああ!!」
僕は驚いて尻もちを着いた。
「ハヤト、大丈夫?あれは僕が作ったおもちゃだから熱くないよ?」
僕は自分の身体と手を眺めた。
「ほ、ほんとだ......」
「ハヤトも何か思い浮かべてみて!」
「う、うん!」
僕はいつも一緒にいる、
瑠奈のことを思い出してみた。
その時自分の目の前に、
一つのぬいぐるみが現れた。
長い栗毛の髪。
薄く茶色がかった綺麗な目。
瑠奈を象ったぬいぐるみ。
「わぁ......!可愛いお人形さんだね!」
「う、うん!」
僕たちは色々なおもちゃを出して、
沢山遊んだ。
「次はどの部屋に入ろうか!」
その時だった。
「隼人ー!どこだー!?」
外で父さんの声が聞こえた。
「あのさ、ムー。僕帰らないと行けなくなっちゃった......」
「ま、まだ沢山遊ぶものあるよ......?」
さっきまで楽しそうな顔だったムーが、
一気に寂しそうな顔に変わった。
「パパが迎えに来たみたいなんだ......」
「そっか......」
「で、でも!また一緒に遊びたいな」
「ほ、ほんとに!?」
「うん!ほんと!」
「あのさハヤト、さっき言った約束......絶対忘れないでね」
ムーは下を向きながら小さな声で言った。
「うん!絶対忘れない!だから、指切りげんまん!」
ムーは、なんの事か分からない。
そんな顔をしていた。
「ムー小指出して!」
僕はムーの小指と僕の小指を結んだ。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます!指切った!」
「......ハヤト、今の何?」
ムーは不思議そうにこちらを見る。
「約束を守るためのおまじない!」
「おまじない?」
「うん!約束のおまじない!」
不安そうだったムーは、
すぐに笑顔に戻った。
「そうなんだ!なんか、楽しいね!」
ムーは自分の小指をぎゅっと握りしめ、
嬉しそうに笑った。
「またね!ムー!」
「またね!ハヤト!」
「......」
「......と、隼人!」
僕の目の前を突然トラックが横切った。
「うわああっ!」
僕は反射的に体を後ろへ逸らした。
「もう隼人ったら、急に何言っても反応しないんだから......トラックに引かれて死んじゃうところだったんだよ!?」
瑠奈は心配そうな顔で僕を怒る。
「ご、ごめん」
まだ、頭がぼーっとしてる。
ワンダーガーデン。
ベスティオリーナ。
ムー。
すっかり忘れていた。
昔そんな夢を見ていた。
そう言えば、ムーとの約束。
約束は確か......。
「隼人!もう!置いていくよ!」
気づくと信号は赤から青に変わっていた。
「ごめん!今行く!」
この時の僕は、
あの日の約束を。
ムーとの約束を、
忘れてしまっていた。
──────
カチ、カチ、カチ。
世界が静まり返り、秒針の音が部屋中に響く。
「ハヤト」
「ねぇ、ハヤト」
誰かにそう囁かれて
僕は朧気な意識のまま目を開けた。
「やっと見つけた」
「ハヤト......」
誰かが僕のことを呼んでいた。
───
鳥がさえずり、
カーテンに太陽の光が差し始める。
「隼人ー!もう時間じゃないのー?」
母さんが下の階から僕を呼ぶ。
「んー......いま、何時......」
重たい瞼を開け、時計を確認する。
「九時......九時!?」
ガタン、バン!ダッダッダ!
僕は慌ててベッドから飛び降り、
一階へ向かった。
二階で鳴り響く轟音を聞きながら、
父さんはコーヒーを片手に新聞を読んでいた。
「隼人、寝坊か?」
「珍しいわね、パンあるけど?」
「ごめん!今日十時から、大学で生物研究の発表があるんだ!だから朝ごはんいらない!」
「あら、そうなの」
「気をつけろよー」
「うん!」
僕は急いで玄関に向かった。
「いってきまーす!」
勢いよく玄関のドアを開けた瞬間。
玄関の前には瑠奈が、
仁王立ちで立っていた。
「隼人!おはようですぞー!!」
「う、うわああああ!」
僕は勢い余って瑠奈にぶつかった。
「痛ってて......瑠奈、大丈夫......か」
僕は頭を抑えながら目を開けた。
僕の顔と瑠奈の顔が、
もう少しで触れるくらい近づいていた。
瑠奈と目が合った。
「ご、ごめん!!」
僕は驚きながら飛び起きて、後ずさりした。
「うん、だ、大丈夫......隼人すごい焦ってた?」
「う、うん......今日十時から研究の発表があるんだ」
「い、急がなきゃじゃん!行こ!隼人!」
「うん!」
───
「疲れた......」
気づけば研究の発表は終わり、
夕日が窓から生物室を赤く染めていた。
僕は瑠奈と、あの小さな家について話していた。
「そういえば隼人が夢で見たって言ってたワンダーガーデン?って一体どんなところなの?」
頭を抑えて、深く考えながら瑠奈は言う。
「うーん、いくら手を伸ばしても届かないくらい大きな門があったり、父さんの身体くらい大きい綿あめが売ってたり、小さい赤い屋根の家の中で、動物たちと遊んだりとかかな......」
「ふーん、なんか不思議な夢だね!」
瑠奈は笑いながら隼人をみる。
「でも、今思うと夢じゃなかったようにも思えるんだ」
「実際に行ったってこと?」
瑠奈は不思議そうな顔をした。
「分からない......けど、この前その夢を思い出したんだ。それが夢だったとは思えないくらい鮮明でさ」
「ふーん、やっぱ隼人、変」
口元を抑えながら瑠奈は笑う。
「クンクン、うーん隼人やっぱりいつもと匂い違う。隼人、森みたいな匂いする」
瑠奈は僕の服を嗅ぎながら言った。
「それ、臭いってこと?」
「もう、ちがうよー!」
瑠奈は頬を膨らませながら、机を軽く叩いた。
「あ、隼人!私わかっちゃった!もしかしてそれ、夢じゃなかったのかも!」
瑠奈は確信した眼差しで、
僕を見つめた。
「ど、どういうこと?」
「隼人は実際にそこに行ったんだよ!」
「うーん、そうなのかな......」
そう言って僕は、
資料やノートをカバンに詰めながら
帰る支度をし始めた。
「うん!きっとそうだよ!」
そう言って瑠奈も、
机に出ているノートやポーチを
無造作にバックに入れた。
───
「風邪が気持ちいいですなー!」
「そうだね」
いつもの帰り道、涼しい風が頬を掠めた。
僕たちはいつもの神社の鳥居をくぐる。
その瞬間───
ふと、風が止んだ。
夕暮れの町から、
人の声、車の音、五時を知らせる鐘の音。
何もかもがそこから消えた。
「ハヤト、おかえり」
どこか聞き覚えのある声が、僕に囁いた。
それと同時に、僕の目の前が真っ白に染まる。
僕は思わず目を閉じた。
少しして、ゆっくりと目を開ける。
さっきまで夕方だった景色が
朝に変わっていた。
「ここは......」
目の前に広がるのは、
石造りの大きな門。
それが僕を見下ろしていた。
僕は、一緒にいた瑠奈のことを思い出した。
「瑠奈!」
辺りを見渡すとその門を見上げる、
瑠奈の姿があった。
「隼人、ここどこだろう」
僕は知らずのうちに答えていた。
「知ってる。ここはワンダーガーデン......」
その名前を、
たしかに僕は知っていた。
───
ずっと夢だと思っていた。
瑠奈と話してた、あの遊園地。
ムーとの思い出は僕の幻で、
あの日の出来事は全部夢だった。
ずっと、そう思い込んでいた。
「......ムーに会える」
気づけば言葉が口に出ていた。
「ムー? ムーって隼人が言ってたウサギのこと?」
「うん、ムーとは友達だったんだ」
僕はもう一度、目の前の景色を見つめた。
西洋の凱旋門のような、巨大な石の門。
その先には、活気あふれる屋台が並ぶ一本道。
さらに奥には遊園地でいちばん大きな城が、
青空の下で静かにそびえ立っていた。
空はどこまでも澄み渡り、
夏の終わりを感じさせる。
そんな心地よい風が吹いていた。
そして僕は振り返る。
見渡す限り地平線の果てまで続く、
広大な草原が広がっていた。
「ここが、ワンダーガーデン......隼人、なんだか楽しみだね!」
瑠奈は遊園地に来た子供のような目で、
辺りを見渡していた。
「うん!」
ムーに会える。
あの楽しかった時間に。
また戻れる。
「隼人!行こ!」
そう言って瑠奈は、
僕の手を引いて、
その巨大な門をくぐり抜けた。
───
活気溢れる屋台の数々、
街中に流れる陽気な音楽。
僕よりも大きな風船。
変わった形の自転車や車。
見たことの無いフルーツ。
火を吐くピエロ。
さっきまで静かだった空気は、
いつの間にかに消えていた。
「隼人!このフルーツ見て!すっごいトゲトゲ!あっ!こっちはスベスベ!」
瑠奈は見たこともないフルーツを見て、
はしゃいでいた。
ジューー
肉の焼けるいい匂いがした。
「隼人!なにあれ!大っきい鶏!」
「嬢ちゃん!ワンダーガーデン名物ウカトリスの丸焼き!食べるかい?」
ピエロのお兄さんが、
僕より大きい丸焼きを瑠奈に手渡した。
瑠奈はその肉に豪快にかぶりつく。
「美味しい!隼人もたべよ!」
「う、うん!」
皮目はパリパリで、
中はふっくらジューシーに仕上がり、
噛めば噛むほど旨味が口に広がっていく。
「やっぱ、美味しい......」
「ねえみて、隼人!あのお城、すっごく綺麗」
瑠奈の指の先には、
商店街の長い一本道の奥にそびえる巨大な城。
「嬢ちゃん、あれはガーデン城って言って王様が住んでるところなんだよ」
「へぇ!あ!あっちに大きな綿あめ!こっちに大きい風船!!」
瑠奈は興奮が収まらないまま僕の手を引いて、
街中を駆け回った。
気づけば僕たちは一本道の終点。
ガーデン城の手前まで来ていた。
「隼人!かけっこしよ!あの大きなお城までいちばん早く着いた方が勝ち!」
そう言うと瑠奈は、一足先に駆けていった。
「あ!まって!」
僕も瑠奈を追いかけて走り出した。
「ハァ、ハァ.......隼人、早すぎ......」
「瑠奈も相当早いよ......」
膝に手を当てて、僕たちは息をついた。
「大っきい.......」
見上げると天にも登る高さの、
アーチ状の入口があった。
「でも、中入れなさそうだね」
「うん、どこも閉まってるみたい」
前に来た時も、そうだった気がする。
どこの扉も鍵がかかっていて、
入ることは出来なかった。
「隼人!次は、観覧車に行ってみよ!」
瑠奈はガーデン城の次に大きい、観覧車を指さした。
「うん!行ってみよう!」
その時だった───
「ハヤト、こっちだよ」
どこからか聞こえる声。
その声を聞いた僕の心臓は、大きな音を立てていた。
「隼人、今の声なんだろう」
瑠奈も声がした方向を見つめていた。
間違えるはずがない。
「......ムーの声だ」
ムーに会える。
僕の予感は確信に変わっていた。
「行こう!瑠奈!」
僕たちはその声のする方に向かって、足を進めた。
──────
「ムー、どこにいるの!」
僕たちはムーの声を辿り、
観覧車とは反対側にある森へ入った。
森に入り少し歩くと、小さな湖があった。
「隼人!あ、あれ見て!」
瑠奈が突然、
湖の方を指さした。
「馬......?いや、違う」
額から長い角が生え、
身体に光が当たると虹色に輝く、
綺麗なブルーホワイト色の動物が、
湖で水を飲んでいた。
「あれって、ユニコーンかな......?」
「う、うん。でも、あんなの見たことない.......」
ユニコーンは僕たちに気づくと、
颯爽と森の奥へ駆けていってしまった。
「あ、行っちゃったね......」
少し寂しそうに瑠奈は言った。
「あ、隼人あそこ......!」
瑠奈は淡い光を放つ林の中を指さす。
僕たちはその出口のような淡い光を辿った。
そこには、木々に囲まれた小さな広場があった。
「ここ、ここだ......」
目の前には、見覚えのある赤い屋根。
レンガの造り。
西洋の童話から飛び出してきたような、
小さな家があった。
レミニセンス。
あの時と何も変わっていなかった。
その時、無数のクラッカーの音が弾けた。
「ハヤト!おかえりー!」
森の中から、一斉に動物たちが顔を出した。
「ハヤトー!待ってたよー!」
「ハヤト!久しぶりー!」
ベスティオリーナたちが歓迎してくれる後ろで、
一人見覚えのある姿が見えた。
真っ白な体に耳がピンと立ち、
透き通るような赤色の瞳。
それは僕を見つめたまま動かない。
「ムー......?」
「ハ、ハヤト......」
「ムー、ただいま」
その瞬間。
ムーは泣きそうな笑顔で、僕のもとへ駆け寄った。
僕は何も言わず膝をつき、ムーを強く抱きしめた。
「おかえり、ハヤト......」
───
僕とムーは、
長い間会えなかった寂しさを埋めるように
何分も抱き合っていた。
「ムー、そろそろ中に入ろ?」
「う、うん!」
少し照れた顔のムーに手を引かれ、
僕たちはレミニセンスの中へ足を運んだ。
「わぁ!すっごいね隼人!」
瑠奈は辺り一面を、見渡すように言った。
「ムー、紹介するよ、僕の幼なじみの瑠奈」
「ルナ!よろしくね!ムーだよ!」
「ムー!よろしくね!」
それからムーは、僕たちをリビングへ案内した。
「ハヤト、ルナ、レミニセンスへようこそ!」
ベスティオリーナのみんなが、
僕たちを歓迎してくれた。
「ハヤト、やっとあの時の続きができるね」
そう言ってムーは僕と瑠奈の手を引き、
嬉しそうに廊下を歩き出した。
ムーがドアを開けると、
レストランの厨房のように広く、
綺麗に整理整頓されているキッチンがあった。
「ここの棚は調味料をいくら使っても減らないんだ!それに、欲しい食べ物がたくさん出てくる冷蔵庫もあるんだよ!」
ムーは手をいっぱいに広げて言った。
ぐーーーっ......
僕とムーは音のなる方へ一斉に振り向いた。
「あはは......」
瑠奈はお腹を押さえ、
恥ずかしそうに僕たちを見ていた。
「ルナ!食べたいものをその冷蔵庫に向かって言ってみて!」
「え、えと......」
瑠奈は少し戸惑っていた様子だった。
「いいから!なんでも言ってみて!」
ムーは微笑みながら目の前にある冷蔵庫を指さした。
「じゃ、じゃあ......オ、オムライス!」
その瞬間。
ガタッと一瞬、冷蔵庫が揺れた。
「ルナ!冷蔵庫、開けてみて!」
瑠奈が冷蔵庫を開けると、
大きなオムライスが置かれていた。
「す、すごい!隼人、見て!」
「ぼ、僕も!僕も出してみたい!」
僕は冷蔵庫の前に立ち、
大きな声で好きな食べ物の名前を叫んだ。
「ぼ、僕はハンバーグ!」
ガタッと一瞬、冷蔵庫が揺れた。
僕が冷蔵庫を開けると今度は、
大きなハンバーグが置かれていた。
「我慢できない!いただきまーす!」
瑠奈はそう言って、
僕より一足先にオムライスを一口食べた。
「つ、冷たい......」
瑠奈は小さく呟いた。
「ごめん......言ってなかった。冷蔵庫から出したばっかだと冷たいままなんだ.......で、でも、魔法のオーブンがあるから安心して!」
「魔法の.....オーブン.......?」
僕と瑠奈は目を合わせて言った。
ムーは僕たちの間を通り抜け、
キッチンについている黒いコンロの下の扉を開けた。
「ハヤト、ルナ!ここにオムライスとハンバーグを入れてみて!」
僕たちはムーに言われるまま、
オムライスとハンバーグを
その魔法のオーブンの中に入れた。
魔法のオーブンは、
中でボフッという音がなり、
扉の隙間から茶色い煙を出し始めた。
「ムー!大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ!失敗したことないもん!」
自信に満ちた目でムーは言った。
チンッと高い音が鳴った。
「出来た!」
ムーはそう言うと、
魔法のオーブンの扉を開けた。
中からはオムライスとハンバーグのいい匂いがする。
「はい!お待たせ!」
僕たちが手渡されたのは
さっきまでの冷えたオムライスではなく、
ホカホカ出来たてのオムライスとハンバーグだった。
「いっただきまーす!んーっ!!隼人!これすっごい美味しいーー!」
瑠奈は僕を置いてもう食べ始めていた。
「うん!美味しい!」
僕も瑠奈に続いてハンバーグを食べた。
お肉はほろっと崩れて、中から肉汁が溢れ出た。
ハンバーグにかかっている
デミグラスソースはコクが深く、
野菜の旨みが溶けていた。
「ハヤト!ルナ!ご飯は食堂で食べよ!」
僕たちはあの大食堂へ向かった。
「わああ、大っきいー!」
瑠奈はその広い食堂を見て駆け回った。
食堂の奥。
その中央にはあの時見た大きな古時計が、
振り子を揺らしながら動いていた。
食堂は五十人くらいが一度に食事出来るほどの
長い机と椅子が並び。
そこには蝋燭と食器が綺麗に並べてある。
上を見上げると、
この部屋を覆い尽くすほど、
大きなシャンデリアが僕たちを見下ろしていた。
「ムー、前来た時と変わってる」
壁は色とりどりに装飾され、
見たことのない花やカラフルな風船が飾られていた。
「うん!今日は英雄祭なんだ!」
「英雄祭?」
「うん!今日は十五年に一度、新しい英雄が誕生するお祭りなんだ!」
「それって、どういう......」
「隼人ー!早く食べよ!ご飯冷めちゃうよ!」
瑠奈はもう既に、スプーンを持って席に着いていた。
「さあ、みんな!私たちもご飯にしよう!」
食堂に入ってきた亀の姿のベスティオリーナが、
大声でそう言うと他のベスティオリーナ達も、
一斉にご飯を運んできた。
「紹介が遅れたね。私はアート。このレミニセンスの長だ」
「初めまして!アート!僕は隼人、こっちは瑠奈!」
そう言って、僕とアートは軽く握手をした。
「ご飯だー!」
「お腹すいたよー!」
「沢山食べるぞー!」
ベスティオリーナ達はご飯を運び、席に座った。
「いっただきまーーす!」
僕はベスティオリーナ達と、
大きな食事会を楽しんだ。
───
「あー!美味しかったー!」
「おなかいっぱいだね!」
ムーは無邪気な顔で微笑んだ。
「うん!楽しかったね!」
そんなムーを見て、
僕も瑠奈も一緒に微笑んでいた。
「ハヤト!またさっきの続き!」
ムーは僕たちの手を引いて、
長い廊下に続く、次の部屋の扉を開けた。
ポワッ......
扉を開けた瞬間。
薄暗い部屋に、七色の燈が灯った。
「わぁ!なにこれ、綺麗......」
「う、うん......」
アートは後ろに手を組みながら、
僕たちの一歩手前を歩きだした。
「ここは、記憶の部屋。私たちベスティオリーナや君たちの記憶の全てが集まる場所だ」
「記憶の部屋......」
僕は、その神聖な空気に息を飲んだ。
棚には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫に光る
ガラスの瓶が一つ一つ綺麗に並び。
その中央には巨大な電球のようなものが、
宝石のように七色に光り輝いていた。
それはまるで巨大なオパールのようだった。
アートは突然立ち止まり、電球を指さした。
「あれは記憶の核。私たちはあれをクオーレと呼んでいる」
「これ、全てが記憶......」
僕はその電球から目が離せなかった。
「ハヤト、ルナ、「記憶の部屋」その奥にあるのが英雄の部屋だよ!」
ムーは記憶の部屋の、一番奥にある扉を指さした。
「英雄の部屋......」
「ハヤト、ルナ、来て!」
そう言ってムーは、英雄の部屋の扉を開いた。
───
シュー.......シュー......
部屋中に張り巡らされた金色の配管。
空気を押し出すようなドラフト音。
無数の配管の通気口から噴き出す蒸気。
「こんな部屋みたことない.......」
「ここが、英雄の部屋......」
僕と瑠奈は辺りを見渡してボソッと呟いた。
ガタンッ。
突然、部屋中の灯りが一斉に消えた。
「きゃぁっ!」
思わず瑠奈が僕の腕を掴む。
シュー......シュー.......
蒸気の音だけが、
暗闇の中で響き続ける。
「レディースアーンドジェントルメーン!」
謎の声が響き渡ると、
壇上の上にいる黒猫姿のベスティオリーナに
スポットライトが当てられた。
「皆様、本日の英雄祭、その司会を務めさせていただく、黒猫のティオレと申します」
「わぁあああああ!」
気づくと周りは、
たくさんのベスティオリーナ達で溢れ返っていた。
ムーもその中で、目を輝かせながら拍手していた。
「さあ今宵、この栄誉ある舞台へ選ばれし者──!」
「その英雄の名は......!!!」
辺りが一瞬静かになった。
「ラ・ティス・ト・ムー!!」
その瞬間───
瞬く間に歓声と拍手で英雄の部屋を震わせた。
「ムーってムーの......本名」
僕はムーの方へ振り向いた。
「僕が、英雄......」
ムーは嬉しそうに、
けれど信じられないという顔で、
ただ、ボソッとそう呟いた。
──────
「さあ!十五年に一度の英雄祭!その英雄に選ばれたのは......!ラ・ティス・ト・ムー!」
「さぁ、ムー。壇上へ」
司会者の黒猫のティオレが、ムーに声をかける。
「ムー!良かったね!」
「ムー!俺はお前だと思ってたぞ!」
「ムー!おめでとう!」
他のベスティオリーナたちが、
ムーに祝いの言葉をかける。
「ムー、おめでとう」
僕はムーの頭を撫でた後、壇上に促した。
「さあ、十五年の時を超え、ワンダーガーデンの礎となる英雄が今ここに誕生した!」
また、拍手と歓声が上がり僕も瑠奈も、
ムーの晴れ舞台を眺めていた。
「さぁ、ムー」
司会者がムーにマイクを手渡した。
「み、皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます。僕はラ・ティス・ト・ムーといいます。ぼ、僕が英雄に選ばれるなんて、今まで考えたこともなくて、今は驚きでいっぱいです。皆さんとは今日でお別れですが、このワンダーガーデンの一部となり立派な英雄になれるよう頑張ります!」
また、英雄の部屋に歓声が鳴り響いた───。
ただ、二人を除いては。
「ムー今、なんて.......」
僕と瑠奈の顔からは笑みが消えていた。
アートはそんな僕たちを横切って、
当たり前のような顔で言った。
「ムーは、ワンダーガーデンと永遠を共にできる。これより光栄なことは他にない」
僕は何を言っていいか、分からなかった。
「ムーとは......もう会えないの......?」
瑠奈は悲しそうな目で、アートを見つめた。
「ああ、だが英雄はひとりじゃない」
アートは僕だけを見てそう言った。
「ハヤトーー!」
その時。
ムーが壇上を降りて、僕に勢いよく抱きついた。
「うわぁっ!」
「ハヤト、ハヤト!僕、英雄になれたよ!これでハヤトと......やっと僕たちの、約束が叶うね!」
ムーは目に涙を浮かべながら、
僕の体を抱きしめて離さなかった。
バチンッ!
大きな音を立ててスポットライトが、
ムーと僕に当てられる。
「さぁ!英雄ムー!誰を選ぶ!」
ムーは涙を拭きながら、
顔を上げて小さく呟く。
「僕の英雄はハ、ハヤト......!僕の英雄はハヤト!」
その瞬間。
スポットライトが、僕だけを照らした。
「まぶし.......」
スポットライトの光を手で隠す。
「わあぁぁぁ!!!!」
また、拍手と歓声がこの部屋を震わせた。
「ハヤトがムーの英雄だってさ!!」
「ハヤトだ!すごい!」
「ハヤトー!かっこいいー!!」
全てのベスティオリーナが、僕に歓声を送っていた。
「ちょ、ちょっと待って!」
瑠奈はベスティオリーナたちの声を遮り、
声を荒らげた。
その瞬間。
今まで歓声でいっぱいだった部屋が、
一瞬にして静まり返った。
「ムーは、死ぬってこと?なにそれ、英雄?冗談じゃない!こんなのどこが英雄なの!」
瑠奈は、今まで思っていた全てを口にした。
「黙れ!英雄を、我らが伝統を侮辱するのか!」
アートは瑠奈を、ものすごい剣幕で怒鳴りつけた。
「ハヤトは、英雄になりたくないの?」
ムーは今にも泣きそうな顔で、
僕の服を握りしめていた。
「それは......」
「ハヤト、僕との約束。覚えてないの......?」
ムーとの約束......。
その時。
僕の忘れかけていた記憶が僕の脳を駆け巡った。
───
「ハヤト!僕は将来、英雄になるんだ!」
「英雄......?」
「うん!英雄になったらね、ハヤトと、ずーっと一緒にいられるんだよ!」
「そうなの?!僕もムーと、ずーっと一緒にいたい!」
「本当に!?えっとね、人が英雄になるとね、ずーっと子供でいられるんだって!だからさ、ハヤトも英雄になって、ずーっと僕と一緒にいよ?」
「うん!いいよ!ムーと一緒!ずーっと一緒!」
忘れていた。
あの時の約束。
「はぁ......はぁ......はぁ......」
現実に戻ってきた僕は、
酷く息切れをしていた。
汗が僕の頬を伝う。
僕の脳裏に蘇った記憶。
ムーとの、忘れてはいけない約束。
あの時、ムーと交わしたゆびきりの約束。
僕は、ずっと忘れてしまっていた。
「英雄......あの時の約束」
僕は深呼吸をして、
落ち着きを取り戻した。
「アート、人間が英雄になると、どうなるの」
僕は胸を抑えながら、息を整えながら聞いた。
「我々とは少し違う。身体は魂だけになり、このワンダーガーデンの一部となる。そして、永遠の時を生きる。ここまでは私たちと同じだ。しかし、人の英雄は特別な力を持つ。どんな力なのかは分からないがな」
「僕には、家族がいる。帰る家がある。そして、瑠奈がいる。ムーとはずっと友達でいたいけど───」
その時。
涙をこらえていたムーが、遂に泣き出した。
「なんで、僕は、ハヤトと一緒がいい......ハヤトがいないとやだよ......ハヤトのために僕は、十五年も待ったんだ......」
「うん......本当は僕もムーと一緒に暮らしたい」
ムーはその言葉を聞いて、
少し泣き止んだかに見えた。
「ハヤト、それは英雄になるということか?それならあとは儀式を残すだけだ」
アートは手を伸ばしながら優しく微笑んだ。
僕の本能はとっさにそれを危険だと判断した。
「ごめん、ムー。ムーの気持ちは嬉しい。だけど、ムーとは一緒に行けない......僕には帰る場所があるんだ......」
「ハヤト、なんで......」
ムーはまた泣き出した。
「そうか......それは非常に残念だ」
アートはとても悲しい顔をして、
前に出していた手を引いた。
「では、力づくだ」
アートは僕に掴み掛った。
スレスレで避けた僕は瑠奈の手を掴んだ。
「瑠奈!ここから離れるぞ!走れ!」
「う、うん!!」
僕はベスティオリーナを掻き分けて、
英雄の部屋を抜け出した。
「お前ら、何をしてる!ハヤトを捕まえろ!絶対に逃がすな!!」
アートの凄まじい剣幕を背に、
僕たちは必死に走った。
「ハヤト......僕との約束。全部、全部嘘だったの.....?」
ムーは地面に崩れ落ち、泣いていた。
僕は、その声を聞きながら、
必死に逃げた。
「ハヤト、なんで......」
僕は、最低だ。
──────
「はぁ、はぁ、はぁ......っっ!」
僕たちは走った。
七色に光る記憶の部屋を出て、
レミニセンスの長い廊下を抜け、
玄関のドアを開けた。
そこは、森が広がる外に出る、
はずだった───。
目の前に広がるのは、
巨大なシャンデリアが見下ろす大食堂。
僕たちがさっきまで
みんなとご飯を食べていた場所。
「どうなってるんだ......!」
もう一度、食堂のドアを開ける。
「なに、ここ.......」
瑠奈は小声で呟いた。
目の前に広がったのは宇宙だった。
夜空に流れる銀河の川。
その星一つ一つが、
ダイヤモンドのように光っていた。
周りを見渡すと、
五人一気に寝ても足りるくらいの
大きなベッドがずらりと並んでいた。
「ここは、ムーたちの寝室......」
「隼人、早くここから出よう?」
「う、うん」
僕はまた扉を開けた。
そこはまた、見たことの無い広々とした部屋だった。
天井は高く、おもちゃや人形が所々に転がっている。
そして僕たちの体の何倍も大きいガラスの窓。
「ハヤト、逃げても無駄だ」
後ろを振り向くと、
アートたちが部屋の出口を塞ぐように、
囲いこんでいた。
「ハヤト、君は英雄になるんだ」
アートの後ろには、
涙で顔がぐしゃぐしゃのムーが立っていた。
「ムー......」
「ハヤトの、嘘つき......僕と一緒に英雄になるって約束......したのに」
「......」
「僕はハヤトのこと......信じてたのに......」
ムーは涙を腕で拭いながら、一歩ずつ近づいた。
ムーの周囲のおもちゃ達が、
ふわっと浮かび上がり、宙を舞った。
その瞬間。
それが僕たちに飛んできた。
「うわっ!」
僕は必死にそれを避けた。
無数に飛んでくるおもちゃ達。
それが壁や床にぶつかり、
激しく音を立てた。
「このままじゃまずい!」
僕と瑠奈は、
飛んでくるおもちゃを背に全力で走った。
僕は瑠奈の腕を引いて、
あの大きな窓に向かって走り出した。
「瑠奈!あの窓めがけて飛ぶぞ!」
「えぇ!!ちょっ、隼人まって!!」
ムーが飛ばしたおもちゃが耳を掠り、
間一髪で窓ガラスを突き破った。
「痛ったた......」
「瑠奈、大丈夫?」
「う、うん」
どうやら僕たちは、
やっと家の外に出られたようだった。
───
外に出た僕たちは、
ガーデン城がある方に走り出した。
「はぁ......はぁ......はぁ......」
「瑠奈、まだ走れるか?」
「う、うん......」
「だいぶ走ったのに、なんで城に全然近づかないんだよ......」
「ハヤト!!逃がさないぞ!」
アートたちが、もう僕たちに追いついてきた。
「ユ、ユニコーン......」
アートたちは、
ユニコーンが引っ張る馬車に乗り、
僕たちを追いかけてきた。
「は、隼人あれ絶対やばいよ!」
瑠奈は、突っ込んでくるユニコーンを見て
僕の腕を引っ張った。
「う、うん......瑠奈、走ろう!」
僕は、瑠奈の手を引き
城を目指して走り出した。
「ハヤト!無駄だ!」
アートの怒号が背中に迫る。
「隼人!このままじゃ追いつかれる!」
「分かってる!」
「隼人!」
「分かってるよ!」
「違うの!あそこ!あそこに、家がある!」
瑠奈が指さした先には、一軒のログハウスがあった。
「瑠奈!一旦あそこに入ろう!」
「う、うん!」
バタンッ───
「あ、危なかった......」
中に入るとそこは、生活感の漂う家だった。
年季の入った茶色のソファー。
鹿の剥製の絨毯。
使い古されたロッキングチェア。
さっきまで使っていたような、
赤い灰が残る暖炉。
僕は思い出したかのように、
後ろのドアに目を向ける。
「追ってこない......」
僕は入ってきたドアを、もう一度開けた。
扉の前にはワンダーガーデンの街が見えた。
さっき森から入ってきた扉のはずなのに、
そこは、ワンダーガーデンの街中に移動していた。
「また、ワープした......」
僕は家を探索している、瑠奈の手を引いた。
「瑠奈!ここへ来た時の巨大な凱旋門!そこまで走るぞ!」
「わ、わかった!!」
僕たちは、あの巨大な門を目指して走り出した。
はぁ、はぁ、はぁ.......
「瑠奈、大丈夫か?もうすぐだぞ」
「う、うん.......でもちょっとキツイかも」
「ハヤト!待て!」
ユニコーンが引く馬車に乗ったアートたちが
もう僕たちの、すぐ側まで迫っていた。
ムーはまだ、馬車の上で俯いていた。
「きゃぁっ!!」
瑠奈が足を躓き、膝から転んだ。
「痛たた......」
「ハヤト!もう逃げられないぞ!」
「瑠奈、しっかり掴まれ!」
僕は瑠奈を背負って門へ走った。
「ハヤト!!」
アートたちに捕まる寸前、
僕たちは門の外へ転がり込んだ。
「うわあああ!!」
「きゃあああ!!」
「......痛ってて」
後ろを振り向くと、
もうそこにはアートの姿も、
ユニコーンの馬車の姿もなくなっていた。
「はぁ......はぁ......はぁ......」
「もう、限界......」
僕たちは力を奪われるように、
その場で気を失った。
───
「うわああああん......ハヤトが......ハヤトが......」
「ムー、よく耐えたな......お前は立派だ。これでハヤトたちを刻限までに外に送り出すことができた。ハヤトたちがあのまま一日を過ごしていたら、永遠にあの子供の姿のまま、人間界に戻ることは出来なかっただろう」
門の前で、アートがムーの頭を撫でていた。
「本当は一緒にいたかった。もっと話したかった。もっと遊びたかった......」
「ああ、そうだな。私もハヤトが好きだ。だが、人間はいつか大人になり、私たちは子供のままだ。だから、ハヤトたちと一緒には暮らせないんだ。そうワンダー王が定めたんだ」
アートはガーデン城を見ながら、目を細めた。
「ハヤトが本当に英雄になったら?」
「人が英雄になった事は今まで一度しかない」
「それって、誰?」
「ワンダー王その人だ......ハヤトをそんなことに巻き込む訳には行かないだろ?」
ムーは、こぼれ落ちる涙を拭きながら、
赤くなった目で門の遠くを見て言った。
「うん。でもハヤトは、やっぱり僕を忘れちゃうんでしょ?そんなの嫌だ......」
「ああ、人は大人になればなるほどワンダーガーデンのすべての記憶が消えていく。けれど、私たちは永遠に忘れない」
アートも門の遠くを見た。
「アート。ハヤトは......ハヤトは幸せになれるのかな......」
「ああ......きっと、きっと幸せになれる」
ムーはぐしゃぐしゃの顔を
服の袖で擦りながら涙を拭いた。
その時のムーはもう、
覚悟を決めた目をしていた。
「そっか......アート。僕は......僕は立派な英雄になりたい」
「ああ......ムー、お前ならなれる」
強い風が吹き、雲で隠れていた月が顔を出す。
月はいつまでも、二人を照らし続けていた。
───
ピッ......ピッ......ピッ......
ある病院の個室。
僕は規則的に鳴る電子音に気づき、
ゆっくりと目を開けた。
「うぅっ......」
全身の筋肉がつるように痛い。
「隼人、起きたのか......」
病室のベッドの横に父さんが座っていた。
「隼人!」
その時、母さんもちょうど部屋に戻ってきていた。
「あー!隼人!おはよー!」
僕の母さんの後ろから、
瑠奈がちょこんと顔を出した。
「父さん、母さん、瑠奈も......」
「隼人、なにか覚えていることはあるか?」
「覚えていること......ごめん、何も覚えてない......」
「そうか、お前と瑠奈ちゃんは一週間以上行方不明だったんだ。なにか覚えているかと思ったんだが」
「一週間......」
僕の中の何か大切なものが、
抜け落ちたような気がした。
「瑠奈は、なにか覚えてるの?」
「隼人と一緒でなーんも覚えてないよ!」
瑠奈は、いつもの無邪気な顔で笑っていた。
病室のカーテンがフワッと舞い上がり、
涼しい風が花瓶の花を軽く撫でた。
「隼人、なんで泣いてるの?」
「なんで、なんでだろう.......」
僕は何故か、涙を流していた。
───
時は経ち───
僕は瑠奈と結婚した。
「蒼太!着いたぞ!」
「うん!」
家から二時間半、
僕は瑠奈と子供の蒼太を連れて、
古いテーマパークに来ていた。
僕たちを見下ろす、大きな石造りの門。
「パパ!すっごい、おっきいね!」
「ああ......」
門からは一本道にのびる長い商店街が見え、
その奥には巨大な城と大きなウサギの銅像が、
そびえ立っていた。
初めて来たはずなのに、何故か懐かしい感じがした。
「蒼太!走ったら危ないぞ!」
「パパ!ママ!早くー!!」
蒼太の笑い声が木霊する。
蝉が鳴き止み、涼しく優しく吹く風が、
妙に懐かしかった。
「パパ!あのね、僕ね、アリスと友達になったんだ!」
「アリス?誰だそれ」
「えっと、誰だっけ......」




