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転生したけど俺だった件

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/04/20

「んな馬鹿な……」


 俺は思わず呟いた。

 俺は先ほど、確かに死んだはず……。


 なんというか、好きっちゃ好きだけど『まぁ、もっと良い女居たよなぁ……』みたいな感じで結婚した妻が、すっかり皺くちゃの婆になっていて、可愛かったといや可愛かったけど『俺に似たせいでぶっちゃけ女としては結構不細工よりだよな……』みたいな娘と、よく笑うし元気だけど『正直もう少し大人しくなるのを覚えろよ……』みたいな孫二人に囲まれて老衰で死んだはず。


「確かに死んだはずなのに……」


 もしや、これは転生というやつか?!

 それじゃ、魔法とかも使えたり!?

 実際、ここは見たことのない世界だs――……。


「いや、めっちゃ見覚えあるな」


 俺は呟いた。

 そう。

 ここはとりあえず異世界ではない。

 と言うか、どう考えても現代日本である。


「いや、現代日本ってのもおかしいか。ブラウン管テレビって久々に見たし」


 ぶつぶつと呟いて携帯を探す――が、ない。


「これはもしや……」


 呟いて……何回、呟くんだ。俺。

 とにかく、呟いて俺は鏡を見る。


「うっわ、俺じゃん。若いけど」


 そう。

 そこには数十年前の俺が居た。


「ってことは……もしやタイムスリップ?」


 答え合わせなんざすることも出来ない。

 出来ないが、まぁ、きっとそうだろう。

 カレンダーを見ると俺がまだ小学生くらいの頃だ。


「それかものすっごい長い夢を小学生の俺が見てたとか……いや、ありえないか」


 俺は再び横になる。

 あー、確かこんなベッドに寝てたわなんて思いながら考える。


「これからどうしよ」


 そう。

 これからどうすれば良いのだろうか。

 とりあえず、転生? タイムスリップ? まぁ、なんだかわからんけど、時間が巻き戻った。


「やりたかったことをやる? いや、ゆーて俺、特に後悔らしい後悔ってなかったような気がするんだよなぁ」


 前世? の通りに行けば俺は程なくして妻に出会い、遊んで、仲良くなって、付き合って、結婚して、子供が出来て……って続くわけだけど。


「結構失礼なこと考えちゃったけど、あいつも娘も孫も、まぁ普通に可愛かったしなぁ」


 言い訳のように本心を言う。

 そうなのだ。

 本来なら「やりなおしだぜ! もっと良い女を探そう!」だとか考えるかもしれないが、如何せん妻も娘も孫も自分の家族として付き合ってきているのだ。

 今更新しい女を探す気にもなれない。

 つーか、既に俺と来たら妻に会ったら何を話そうか考えてるくらいだし。

 具体的には『どう説明すりゃ信じてくれるかな』とか。


「こうしてみると俺、結構不満らしい不満のない人生を生きてたんだな」


 なーんて呟いたら。


『えっ? そうなの? んじゃ、戻すね』

「は?」


 どっかから声がした。

 それと同時に俺の頭がぐわんぐわんぐわんとなって気づけば――。



 *



「あなた……?」


 しわがれた声としわくちゃの顔。

 涙まみれで見るに堪えない愛おしい老婆がそこにいた。


「お父さん?」


 若い頃の婆に面影のある娘がいた。


「起きたの? おじいちゃん」


 よく見りゃ俺に似ていなくもないような気がする孫が居た。


「ありゃ、ここは……」


 自分の出した声があまりにも弱弱しい。

 きっと、この命は数日も持たないだろうと俺は思った。


「あなた!」


 老婆が泣きながら抱き着いてくる。

 苦しいって。

 このまま死ぬよ。

 下手したら。

 そんなことを考えながら――俺は婆の、妻の頭をなでる。


「泣くなよ」


 ほんの少しだけ時間が伸びただけだ。

 まったく、昔から泣き虫なんだから。

 これじゃ、数日後もっと泣くんだろうなぁって思いながら、俺は確かに声を聞いた。


『転生よりこっちのが良かったっぽいね』


 誰だか知らんがそれには心の底から同意だな。

 んなことを考えながら俺は今、僅かばかり伸びた寿命を用いて家族の涙をぬぐうばかりだった。

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