転生したけど俺だった件
「んな馬鹿な……」
俺は思わず呟いた。
俺は先ほど、確かに死んだはず……。
なんというか、好きっちゃ好きだけど『まぁ、もっと良い女居たよなぁ……』みたいな感じで結婚した妻が、すっかり皺くちゃの婆になっていて、可愛かったといや可愛かったけど『俺に似たせいでぶっちゃけ女としては結構不細工よりだよな……』みたいな娘と、よく笑うし元気だけど『正直もう少し大人しくなるのを覚えろよ……』みたいな孫二人に囲まれて老衰で死んだはず。
「確かに死んだはずなのに……」
もしや、これは転生というやつか?!
それじゃ、魔法とかも使えたり!?
実際、ここは見たことのない世界だs――……。
「いや、めっちゃ見覚えあるな」
俺は呟いた。
そう。
ここはとりあえず異世界ではない。
と言うか、どう考えても現代日本である。
「いや、現代日本ってのもおかしいか。ブラウン管テレビって久々に見たし」
ぶつぶつと呟いて携帯を探す――が、ない。
「これはもしや……」
呟いて……何回、呟くんだ。俺。
とにかく、呟いて俺は鏡を見る。
「うっわ、俺じゃん。若いけど」
そう。
そこには数十年前の俺が居た。
「ってことは……もしやタイムスリップ?」
答え合わせなんざすることも出来ない。
出来ないが、まぁ、きっとそうだろう。
カレンダーを見ると俺がまだ小学生くらいの頃だ。
「それかものすっごい長い夢を小学生の俺が見てたとか……いや、ありえないか」
俺は再び横になる。
あー、確かこんなベッドに寝てたわなんて思いながら考える。
「これからどうしよ」
そう。
これからどうすれば良いのだろうか。
とりあえず、転生? タイムスリップ? まぁ、なんだかわからんけど、時間が巻き戻った。
「やりたかったことをやる? いや、ゆーて俺、特に後悔らしい後悔ってなかったような気がするんだよなぁ」
前世? の通りに行けば俺は程なくして妻に出会い、遊んで、仲良くなって、付き合って、結婚して、子供が出来て……って続くわけだけど。
「結構失礼なこと考えちゃったけど、あいつも娘も孫も、まぁ普通に可愛かったしなぁ」
言い訳のように本心を言う。
そうなのだ。
本来なら「やりなおしだぜ! もっと良い女を探そう!」だとか考えるかもしれないが、如何せん妻も娘も孫も自分の家族として付き合ってきているのだ。
今更新しい女を探す気にもなれない。
つーか、既に俺と来たら妻に会ったら何を話そうか考えてるくらいだし。
具体的には『どう説明すりゃ信じてくれるかな』とか。
「こうしてみると俺、結構不満らしい不満のない人生を生きてたんだな」
なーんて呟いたら。
『えっ? そうなの? んじゃ、戻すね』
「は?」
どっかから声がした。
それと同時に俺の頭がぐわんぐわんぐわんとなって気づけば――。
*
「あなた……?」
しわがれた声としわくちゃの顔。
涙まみれで見るに堪えない愛おしい老婆がそこにいた。
「お父さん?」
若い頃の婆に面影のある娘がいた。
「起きたの? おじいちゃん」
よく見りゃ俺に似ていなくもないような気がする孫が居た。
「ありゃ、ここは……」
自分の出した声があまりにも弱弱しい。
きっと、この命は数日も持たないだろうと俺は思った。
「あなた!」
老婆が泣きながら抱き着いてくる。
苦しいって。
このまま死ぬよ。
下手したら。
そんなことを考えながら――俺は婆の、妻の頭をなでる。
「泣くなよ」
ほんの少しだけ時間が伸びただけだ。
まったく、昔から泣き虫なんだから。
これじゃ、数日後もっと泣くんだろうなぁって思いながら、俺は確かに声を聞いた。
『転生よりこっちのが良かったっぽいね』
誰だか知らんがそれには心の底から同意だな。
んなことを考えながら俺は今、僅かばかり伸びた寿命を用いて家族の涙をぬぐうばかりだった。




