真・シーサーズ
キャプテンに任命されたロメロは戸惑っていた。
彼は日本に来てから日本語の練習などしたことがなく、常に通訳と一緒に行動を共にしていた。
簡単な挨拶や単語は分かっても、会話はできなかった。
それでも彼は下を向かなかった。
それとは対照的に、柚垣のモチベーションは最悪だった。
7年前からシーサーズで中心的な存在。さらに今年でキャプテン3年目。
チームメイトからの信頼、ファンからの人気、今まで積み上げてきたもの全てを壊されたかのようだった。
出来るだけ表面的には感情を出さないように取りつくろっていたが、周囲には嫌でも感じ取れてしまった。
しかし、大月は両者に声をかけることはなかった。
最初の1週間こそ、微妙な空気が流れたものの、2週間目に突入すると変化が表われ始めた。
ロメロがつたない日本語でチームメイトに話しかけるようになった。
チームメイトもジェスチャーを加えながら何とか交流すつ姿が見られた。
その姿をじっと見ている大月の元に柚垣が来た。
「監督、今オフには自分をトレードに出してください。チームに必要ない人間ですから」
「……、1週間考えていたのはそんなことか?」
「そっそんなことって!監督に何がわかるんですか!」
「何もわからないから、このチームを客観的な目で見れる。不必要な感情を抜きにして。柚垣のことも、ロメロのことも」
「……」
柚垣は何も言う言葉がなかった。
「あとな、トレードには出さない。……というか出せない。トレードの意味分かっているか?」
「どう意味ですか」
「トレードは柚垣を欲しいと思ってくれるチームと柚垣よりも戦力にならない選手が必要なんだよ」
「わかってますよ!馬鹿にしてるんですか!」
「今のお前を欲しいチームがあるか?練習は中途半端、1人のチームメイトも認められない。そんな選手をどうやって使うんだ?」
「……、そんなもん、あなたに言われる筋合いはない。トレード申請してくれれば、わかりますよ……」
怒りと悔しさを噛み殺している柚垣の肩は震えていた。
そんな肩に手がかかった。
「レンシュウ、ヤル」
ロメロだった。1年ぶり会話だった。その手がロメロだと気付いた柚垣はロメロの胸ぐらを掴んだ。
「お前に何が分かるんだ!」
「……、ユズガキ、ワタシ、ナニ、シル?」
「……」
また柚垣は何も言うことができなかった。
「柚垣、これが答えだ。お互いがお互いの何もしらない。そんな者がキャプテンを務められるのか?」
「では、なんでロメロがキャプテンになれるんですか!こいつだって、オレの何も知らないじゃないですか!」
「お前はロメロを知ろうとしなかった。だが、ロメロはお前を知ろうとしている。これが違いだ」
この1週間でロメロはチームメイトと話しながらもさりげなく柚垣をことを聞いていた。
誕生日や血液型、好きな食べ物や趣味など。だが、それは柚垣のことだけでなく、7名のチームメイト全員のことを知ろうとしていた。
「ワン、ワン、トゥー、ワン。A。スシ。フィッシング。OK?」
「誕生日は11月22日。だから、ワン、ワン、トゥー、トゥーだ」
「トゥー、トゥー?」
ロメロは何かを思い出したかのように走りだし、1冊のノートを持って帰ってきた。
「ミル。ソトクボ、イウ。トゥー、トゥー。ミス?」
「外久保のやつ、オレの誕生日を間違えて教えたのか、あいつめ!外久保!」
「はっはい!」
ダッシュでかけよってきた外久保の頭を握りこぶしでグリグリしながら、この一件を問い詰めた。
「いてぇ~、間違えましたぁ~、がぁ~!!!」
柚垣は笑っていた。ロメロも笑ってた。チームメイトも笑っていた。外久保は痛んだ。大月も笑顔がこぼれた。
「レンシュウ、ヤルデ!」
なぜか関西弁が入ったつたないロメロの日本語の合図で練習は始った。