各々の道へ
昇格を決めた翌日、沖縄県内で昇格パレードが行われた。
子供からおじいやおばあまで、沖縄民謡に合わせてエイサーを踊りながら選手達を笑顔で迎い入れた。
大月は笑顔で手を振ったり、踊ったりしているファンを見ていると3年間の全てが報われる気持ちになった。
それから数日後、琉球シーサーズから衝撃の発表がされた。
【 大月監督 解任!! 】
シーサーズをGRADE=Kに昇格させた大月若丸が解任させられたのだ。
それと同時に新監督の発表もされた。
<BLOB>のアメリカ本部の2部で指揮を取っていたマイケル・ジェームスと発表された。
発表から数時間後、就任会見と同じ部屋に大勢の記者やカメラマンが駆け付けた。
物凄いカメラのフラッシュの中を堂々歩く男の姿は、新品のスーツ……ではなく、かりゆしウェアにジーパンというラフな格好だった。
入ってきたのは当然、今となっては名も知れた大月若丸である。
まるで他人事のように淡々と会見を終わらせると大月は笑顔で部屋を後にした。
関係者に導かれ、会見とは違う部屋に入るように言われた大月は、指定された部屋のドアを開けるとそこには8名の選手の姿があった。
8名の姿を見た大月は急に監督ではないという実感が沸いてきた。
ドアを閉めると涙目の選手達と向かい合った。
「石井、お前の頑張りは高く評価している。チームのために自分を犠牲にできるお前が居たから、シーサーズは昇格できたと思う」
「……ありがとう」
「松本、縁の下の力持ちだったな、石井と共に犠牲になってきた、自己犠牲ができるお前が居て良かった」
「……ありがとう」
「閨、目立ちたがり屋なとこ、オレは好きだ。お前には外久保をはじめ良い先輩が多くいることを忘れるなよ」
「……ありがとう」
「若梅、良きチームメイト、良きライバルを持っているお前の成長をオレはいつまでも見ている」
「……ありがとう」
「ルルプス、ここがお前の居場所だ。シーサーズがお前の家族だ。そして、家族のためにこれからも一所懸命に働いてくれ」
「……ありがとう」
「オレが初めて持ったルーキーはお前だ、外久保。この3年間で、お前の技術だけなく、精神的な成長はチームに大きなプラスになった」
「……ありがとう」
「ロメロ、足は大丈夫か?もう、お前のことを悪くいう奴はいない。キャプテンとしても素晴らしい働きだった」
「……ありがとう」
「そして、柚垣。チームへの想いが一番強く、負けず嫌い、だが素直。オレには、お前の活躍するステージはもっと上にある気がする」
「……ありがとう」
「これからの人生、いろんなことがあると思う。でも、辛い時はシーサーズでのバスケ人生を思い出してくれ。何か、みんなにヒントを与えてくれるかもしれないからな」
そういうと大月は部屋にあったホワイトボードをひっくり返し、部屋を去った。
裏になったホワイトボードには一つのことばが書かれていた。
【なんくるないさ】
涙を流す選手達のいる部屋を後にし、自らの涙をかりゆしウェアで拭くとタクシーに乗り込んだ。
運転手に自宅の場所を告げるとタクシーは動きだした。
ふと何かを感じた大月がタクシーの中から外を振り返ると8名の選手が頭を下げたままお辞儀をしていた。
それを見た大月は再度、流れてくる涙を吹き、微笑んだ。
シーサーズの選手たちはそれぞれ新しい道を歩き出した。
松本と石井は来季もシーサーズでのプレーを望み、残留を決めた。
自分の居場所を見つけたルルプスもシーサーズに残留、来年はレギュラーとして活躍するだろう。
「ミンナ、ヨロシクオネガイシマスネ」
2メートルの白人新監督、マイケル・ジェームズの挨拶を聞いている2人の選手が居た。
「おー、竜太郎!日本語できるみたいだぞ!」
「本当ですね!これで英語の勉強はいらないですね!」
外久保と閨も残留し、来年のガード陣を担い、GRADE=Kで大暴れするだろう。
若梅はGRADE=Sのチームと1対2のトレードで移籍。
GRADE=Sレベルの選手2名とトレードされたことで、日本バスケット界でも注目の若手選手となった。
ロメロは年齢から自分のベストパフォーマンスが出せないと感じ、現役を引退した。
引退後は足の怪我を治しながら、母国のアメリカでバスケに携わるつもりらしい。
柚垣は<BLOB>のアメリカ本部の3部に移籍した。
現在は異国、アメリカでバスケの武者修行をしている。
そして、大月若丸は………消息不明。
しかし1つだけ言えることがある。
今日も何処かで、8名の教え子達の活躍を見守っている。