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ヘッドコーチ  作者: 神楽
琉球シーサーズ編
26/28

決着の時

スパッ

3ピリオド目、ファーストシュートを決めたのは若梅だった。

閨からのパスを受けると躊躇なくジャンプシュート、赤瀬もチェックにいくも若梅のスピードが勝った。


若梅のシュートに日のついた赤瀬は中滝からパスを受けるとドリブルで仕掛ける。

抜きにかかる赤瀬に対して若梅は体を密着させながらコースに入る。

赤瀬は素早いロールからシュートチャンスを作るとシュート体勢に入る。

若梅も素早く反応し、チェックに飛ぶも赤瀬は裏をかき、若梅を避けるとジャンプシュートを決める。


初戦は若梅、2戦目は赤瀬に軍配が上がった大卒ルーキー対決、3戦目は両者ともに1歩も引かない。

だがインサイドでは足を怪我していながら強行出場しているロメロがカーニーを制する。

閨からのパスを受けたロメロはパワードリブルでじわじわとカーニーを押し込む。

ヘルプに剱田が来ると剱田につかれている柚垣にパスを出し、柚垣は得意の45度からジャンプシュートを決める。

鎌倉は中滝がドリブルで仕掛けるもマークの外久保がしっかりとコースに入り、フリースローライン当たりで止まる。

すると外久保、柚垣、ロメロの3人が素早く囲み、中滝から外久保がボールを奪う。

外久保は走り込んでいる閨にパスを送り、閨はレイアップを決める。

「先輩達や若梅さんばっかり目立出せないですよ」

閨と外久保はハイタッチを交わした。


3ピリオドに入り、2ピリオドからの流れそのままにシーサーズがペースを握る。

ロメロに苛立ち始めたカーニーが冷静さを失うとシーサーズペースはさらに加速し、残り2分をきった時点でシーサーズは逆転に成功した。

スパッ

電光掲示板のスコアが64-63となる。

「1本だ、集中しろ!」

何度も手を叩きながら大きな声を出したのは剱田だった。

彼は長年、鎌倉一筋でチームのために献身的な働きをしてきた。

ビッグプレーをするわけでもなく、群を抜いた実力があるわけでもない。

それでもチーム愛は誰よりも強かった。

そして、チームが負けることが許せない負けず嫌いだった。


「吹春、入れろ!」

インサイドで柚垣に付かれながらもポジションを取り、剱田はボールを要求する。

ボールを掴むと得意ではないドリブルで柚垣を押し込み、フリースローエリアに侵入するとフックシュートを放つ。

ガーン

外れたリバウンドを柚垣と競り合い、必死にボールを奪う。

奪うとそのままゴール下シュートに向かうもシュートは柚垣の指にに当たり、リングに嫌われる。

それでも外れたボールを奪うと外で空いていた中滝にパス。

中滝は3ポイントラインからシュートを放つ。

スパッ

剱田の頑張りで鎌倉が再度、リードを奪った。

「よし!」

自分が決めたシュートではないけど、自分のことのようにガッツポーズを見せる剱田の姿に鎌倉の面々も気持ちが熱くなる。


外久保はボールを運ぶと柚垣にパス、柚垣はインサイドのロメロへ、ロメロは若梅にパス。

若梅はドリブルで仕掛け、相手2人が近寄ってくるのを見るとフリーの閨にパスを送る。

閨は持ち前のスピードからレイアップに向かうも、その前に立ちはだかったには剱田だった。

ドサッ!

閨は正面から剱田に突っ込んだ。

ピーー

「オフェンスファール!」

倒れている閨を起こしたのは外久保だった。

「竜太郎の目立ちたいっていうのは、こういうことか?」

「……すいません」

冗談を言いながら起こしてくれる外久保、それを笑顔を見る柚垣、頭を軽く叩くロメロ、苦笑する若梅。

閨はこの時初めて、自分がこチームの1員になれたような気がした。

そしてもう1人、倒れている剱田を起こしたのは中滝と吹春だった。

「ナイスプレーですね」

「さすがうちにキャプテンです!」

中滝と吹春に起こされた剱田は笑顔を見せながら2人に初めて出会ったときのことを思い出した。


それは6年前のことだった。

その年、初めてキャプテンに任命された剱田は責任を一身に背負っていた。

当時のチームは低迷期を迎え、下馬評では降格するだろうと言われていた。

そんな鎌倉に来たルーキー、剱田が初めてキャプテンになってから来るルーキー、それが高卒の吹春と大卒の中滝の2人だった。

2人のプレーは入団当時から目を見張るものがあり、瞬く間にレギュラーを奪った。

同じレギュラー組で練習試合をしていてもキャプテンである剱田よりも2人の方が実力は明らかに上だった。

それでもおごり高ぶることなく、献身的な剱田のプレーを純粋に尊敬してくれる2人に剱田は何度助けられただろう。

昨年、昇格のチャンスを逃した責任を負い、キャプテン辞任を決意した剱田を引きとめたのも中滝と吹春の2人だった。

「剱田さんだから、チームは昇格できそうだったんですよ」

「このチームは剱田さんがキャプテンじゃなきゃ、まとまらないですよ」

その言葉に後押しされ、今年1年だけはキャプテンを続ける決心をした。


剱田の一声で息を吹き返した鎌倉はスコアを69-72とし、3点リードで3ピリオド目を終えた。



ベンチに戻ってくるシーサーズの選手達の顔は明るかった。

3点差まで得点差を縮めたこと、3ピリオド途中では一時リードを奪ったことで自信を取り戻していたのだ。

「ロメロお疲れ。ルルプス、ロメロと交代だ」

2ピリオド途中までカーニーにやられ交代したルルプスをこの大事な場面で投入する。

そんな大月の采配にもシーサーズメンバーは明るい表情でルルプスを迎いいれた。

「ルルプス、絶対逆転するぞ!」

柚垣の言葉にルルプスも笑顔を見せる。

「最後の10分ですべてが決まる。天国に行くか……、地獄に行くか……。最高で最悪の10分を楽しんで来い!」

「はい!」

大月の言葉に後押しされ、閨、外久保、柚垣、若梅、ルルプスはコートへと向かった。



シーサーズボールで4ピリオドが始まった。

閨はボールを運ぶと45度で待ち構えている柚垣にパスを出す。

柚垣はインサイドのルルプスにパスを送ると同時にインサイドに走り込んだ。

ルルプスはパスを受けると走り込んできた柚垣にパスを返し、パスを受けた柚垣はシュートモーションに入った。

それに反応したカーニーがブロックするために一歩前に出た瞬間にインサイドでノーマークになっているルルプスへパスを送る。

パスを受けたルルプスは軽くピポットを踏み、ゴールへ正対すると豪快にダンクを決めた。

電光掲示板のスコアが71-72になると会場のボルテージが上がる。


苛立ちを隠せないカーニーをゴールを通ったボールを取り、エンドラインから吹春にパスを出す。


パシ!


吹春に隠れ、カーニーの手からボールが離れた瞬間、閨はパスをカットした。

閨はカットした勢いでシュートに行くも吹春がファールぎりぎりのディフェンスで止める。

止められた閨は逆サイドで待っていた外久保へとパスを送るも外久保に対してはカーニーがチェックにいった。

それでも外久保は強引にジャンプシュートに行き、それを読んだカーニーもブロックに飛ぶ。

だが外久保の手から離れたボールはゴールへと向かうことなく、カーニーの胴体の横を通り抜け、後ろから走り込んできた柚垣へと渡った。

パスを受けた柚垣は走り込んできた勢いのままダンクに向かう。

しかし、ここでシュートを決められれば逆転を許し、3ピリオドから続くシーサーズの流れを一層、加速させてしまうとわかったカーニーは強引にファールで止めに行く。

両手でしっかりとボールを持っている柚垣の左腕をカーニーは両手で掴む。

「おりゃー!!!」

柚垣をカーニーの両手を力で払いのけ、カーニー自体を吹き飛ばすとそのままダンクに向かう。


ガシャン!!!


ダンクを決め、コートに降り立った柚垣は右腕を掲げた。

うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

会場からどよめきが起こり、カーニーのファールを知らせる笛が鳴った。

コートに倒れ込んだカーニーを地面を叩きながら悔しがった。

シーサーズへの流れを止めるためにやったファールなのにシュート決められ、さらにフリースローまで与えてしまった。

この場面ではシュート自体を打たしてはいけない、数多くの経験を積んだカーニーのみならず、剱田や吹春、中滝、さらにはルーキーの赤瀬もわかっていた。

スコアは73-72とシーサーズのリードになり、柚垣がフリースローラインに向かう。

フリースローラインで審判からボールを受ける前に柚垣はルルプスに目配せをした。

審判からボールを受けると柚垣はゴールを良く狙いながらシュートを放つ。

手からボールが離れた瞬間、普通ならルルプスはカーニーをインサイドに入れないような体使いをするものの、この時はすぐさま柚垣の前へとポジションを取った。


ガーン


柚垣のシュートは手前のリングに当たり、真っすぐ柚垣の方向に戻ってくる、そこにいたのはルルプスだった。

リバウンドはカーニーなどの頭の上を超え、ルルプスの手に収まる。

するとルルプスは何の迷いもなく、すぐさま左サイドの0度のスリーポイントラインにいた若梅にパスを送る。

パスを受けた若梅は3ポイントシュートに向かう。

赤瀬は若梅のシュートをブロックに飛ぶも一歩届かない。


スパッ!!


この大事な場面で3ポイント決めた若梅だが相変わらずクールに振る舞う。

「練習通りだな。ルルプス!若梅!」

柚垣の声にルルプスも若梅も笑顔を返した。



このプレーは数日前、全体練習を終え、柚垣、ルルプス、若梅の3人だけが居残り練習をしている時に出来たプレーだった。

フリースローをわざと手前に跳ねかえるように外し、それをリバウンドに入っているルルプスがキャッチ、もう1人、リバウンドに入っている若梅はリバウンドに参加せずに3ポイントラインでパスを受ける。

サインプレーというわけでもなく、何度も練習を重ねたわけではなかったけれど、この3人がお互いをイマジネーションを共有できたことで成功したプレーだった。

柚垣のダンク、若梅の3ポイントで流れは完全にシーサーズに傾いた。

スコアは76-72になった。






シーサーズは今、8名の選手と1名のヘッドコーチが1つになっている。



ルルプスはインサイドでカーニーに食らい付くように我武者羅にプレーした。


外久保と閨のダブルガードからパスが供給され、柚垣と若梅2人エースが得点を奪っていった。


ベンチではベテランの石井と松本、そしてロメロが大きな声を出してチームを盛り上げた。


大月はただただベンチに座り、8名の選手を見届けた。



鎌倉は中滝と吹春のツインガードが攻守にわたり中心になったが、流れを変えることはできなかった。


カーニーはインサイドで得点を奪い、剱田も献身的なプレーでそれを支えた。


赤瀬はこれからも続くであろう、ライバル若梅との対決を楽しんだ。








ビーーーーー!!!

「おおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

試合終了の合図とともに観客から大きな歓声が飛び交った。

スコアは98-88。

シーサーズが10点差をつけて勝利した。

4ピリオドは完全にシーサーズペースで鎌倉を圧倒した。

一時は20点差をつけられた状況からの大逆転勝利に会場のファン、テレビ放送をみているファンが熱狂した。


「ただいま終了いたしました、他会場の結果をお伝えします」

飛び交っていた歓声が水をうったように静まり返った。

「小樽ユニコーンズvs岡山ビッグボーイズの試合は………」






「98対………」






「9……9で岡山ビッグボーイズが勝利いたしました」






「ううううぁぁぁぁぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

歓声がうねりをあげ響き渡った。

観客席からオレンジ色の紙テープがこれでもかというくらいコートに投げられる。

オレンジシーサードームはその名の通り、オレンジ一色に染まった。


シーサーズの選手達は抱き合いながら喜ぶ。

鎌倉の選手達も自分達のことのように喜ぶ。

そんな中、柚垣は肩を震わせながら涙を流していた。

柚垣を肩を抱き寄せ、大月は大きな歓声の中、柚垣の耳元で呟いた。



「1年間……、いや3年間……。いや、……9年間、お疲れ……」



「……はい」





試合が終わり、選手同士が声を掛け合う。


「ロメロ、ありがとう、本当にありがとう!」

「ユズ、泣クナ!一緒ニ、プレー出来テ、楽シカッタ!」

柚垣とロメロは抱き合った。


「やったな、竜太郎!」

「はい!やっぱり、一輝さんを始め、良い先輩ばっかりですね、シーサーズは!」

外久保と閨も抱き合った。


「ルルプス、次はGRADE=Kで勝負だ!じゃな」

「カーニー……」

カーニーはルルプスの目を見ることはなかった。

しかし、確実にカーニーはルルプスの実力を認めていた。


「1勝1敗1分ってとこだな」

「あぁ、まだまだオレ達の戦いは続きそうだな」

若梅と赤瀬はがっちり握手を交わした。


「シーサーズに一杯食わされたな。中滝、吹春」

「この借りは来年、返しましょう!」

「来年もキャプテン、頼みますよ!」

剱田、中滝、吹春の3人は来年のリベンジを誓った。


「前堂監督、ありがとうございました」

「こちらこそ、また来年お願いしますよ」

大月と前堂は握手をした。




突然、大音量の沖縄民謡がドームに流れ始めた。

するとスタッフが大量のビールや泡盛などをコートに運んでくる。

手際良くコート上にブルーシートが引きつめられるとビールかけが始まった。

プシュー!!!

異例の両チームの選手が入り乱れてのビールに会場のファンも盛り上がる。

酒を飲む人もいれば踊りだす人もいる、みんなが楽しそうにその時間を過ごした。



1位=33勝9敗   鎌倉パープルソード  優勝!!!

2位=32勝10敗  琉球シーサーズ    昇格!!

3位=31勝11敗  小樽ユニコーンズ   残留!




こうして、鎌倉パープルソードと琉球シーサーズはGRADE=Kへの昇格を果たした。

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