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ヘッドコーチ  作者: 神楽
琉球シーサーズ編
25/28

助っ人、不仲、3年来、そして、ルーキーコンビ

宿舎に帰った大月はテレビのスポーツニュースを見ていた。

「今日、GRADE=Eで鎌倉パープルソードが見事、優勝を果たしました!」

女子アナウンサーの解説とともに今日の試合映像が流れる。

映像の最後は大月が鎌倉の面々をじっと見つめているシーンで終わった。

「そして、別会場では小樽ユニコーンズが勝利し、これで琉球と小樽の成績は並び、同率2位となりました」

アナウンサーがフリップを出した。


1位=33勝8敗   鎌倉パープルソード  優勝!!!

2位=31勝10敗  琉球シーサーズ    昇格? 残留?

2位=31勝10敗  小樽ユニコーンズ   昇格? 残留?


「明日の試合で全てが決まります。同率2位の2チームはなんとしても勝利を収めたいですね。次はゴルフです」

勢いがあるのはシーサーズよりも2連勝中のユニコーンズだ。

シーサーズは目の前で優勝を決められたことで意気消沈している選手も見られた。

久しぶりに眠りにつけないず、大月が眠りについたのは午前3時をまわった頃だった。




シーズン最終戦、オレンジシーサードームにどよめきと歓声が起こった。

鎌倉パープルソードのスターティングメンバーは今までと代わらず、ベストメンバーが発表されたからだ。

前日に優勝を決め、ただの消化試合でしかない最終戦なのだからルーキーの赤瀬などをスタメンで使い、経験を積ませるだろうと目の肥えたファンは考えていた。

試合開始1時間前、大月と前堂の2人はオフィシャル前で固い握手を交わした。

「今日のベストメンバー、ありがとうございます。胸を借りるつもりでいきますよ」

「最高の試合にしましょう」

鎌倉のメンバーは優勝後のビールかけも行わずに今日の試合のためにコンディションを整えてきたらしい。

この計らいに大月を始め、シーサーズのメンバーの気持ちは高ぶっていた。

この試合、今シーズンで最高の試合になる予感がしていた。


ベンチに集合した選手たちに大月が最後の活を入れた。

「負ければ残留の可能性が高い。この試合、自分の全てを出していこう!」

「はい!」

大月と8名の選手達は1つの輪になり、右手の拳を中央に集めた。

「1・2・3」「よし!!!!!」

外久保、石井、柚垣、松本、そして、ロメロの代わりにルルプスがコートに立った。

今シーズン初のスタメンに指名されたルルプスは昨日の言葉を忘れずにいた。

そんなルルプスにカーニーが近寄ってきた。

「今日はお前がスタメンか、ロメロに比べればクソみたいな奴だ。そういえば、うちのチームのやつらが言ってたぞ。お前がいなければ去年、昇格できたのにってな」

「……」

「せいぜい頑張れよ。ヨーロッパから来た下手くそお坊ちゃん」

「……」

この会話は英語でされたため、両チームのコートにいた残り8名の日本人にはどういう会話をしているのか理解できなかった。


審判から放たれたジャンプボールはルルプスとカーニーの勝負、軍配はカーニーにあがった。

カーニーの弾いたボールは吹春がキャッチ、吹春から中滝にパスを渡し、インサイドのカーニーにボールを入れた。

パスを受けた瞬間にターンでルルプスをかわしたカーニーはダンクを決めた。


ボールを取ると外久保が運び、柚垣にパス、柚垣はルルプスにパスを出す。

「ルルプス、やり返せ!」

ボールを受けたルルプスはパワードリブルからターンしシュートを放つ。

ボーン!

ルルプスのシュートはカーニーに完璧なブロックをされる。

転がったボールを吹春が取ると速攻に走っている中滝にパスを送る。

中滝の目の前には石井が立ちはだかるもドリブルで突っ込み、レイアップにいく。

石井はこのレイアップをブロックしにいくも、中滝はシュートからパスに切り替え、後ろから走り込んで来ている高地にパス。

高地は難なくレイアップを決める。


1ピリオドからルルプスの動きは固く、ほとんどのプレーをカーニーに止められた。

柚垣を中心にシュートを決めるもインサイドをカーニーに支配され、15-24で1ピリオドを終えた。

ハーフタイムに入るとうつむいているルルプスにロメロが話しかけた。

「おいおい、どうしたんだ。なんか調子悪いな」

「なぁ、ロメロ。オレはカーニーに通用しないのかな……?」

「通用しないかもな」

「……、やっぱりそうだよな……」

額から流れる汗をタオルで拭きながらルルプスは苦笑した。

「でも、オレも通用しない」

「気休めはやめてくれ……」

「忘れたのか?オレとお前は2人でシーズンを戦ってきたんだろ」

「2人で……?」

「オレがダメなときはお前が出る。お前がダメなときはオレがでる。そうやって、小樽の長尾、鎌倉のカーニーと戦ってきたんだろ」

「2人で……か」

ロメロはルルプスの頭を軽く撫でながら言った。

「今はオレがダメなんだ。お前がオレを助けてくれ。お前がダメなときはオレが助けるから」

ルルプスは吹っ切れた。


2ピリオド開始前、ルルプスがカーニーのマークに付くとまた話しかけてきた。

「まだベンチに引っ込まないのか?このままじゃ、お前のせいでシーサーズも昇格できなくなるなぁ、かわいそうに」

「ディフェンス!ディフェンス!」

カーニーの言葉をルルプスは笑顔で声を出した。

鎌倉はインサイド、アウトサイドでスムーズにパスを回し、高地にシュートチャンスを作る。

ガーン

高地のシュートはリングに嫌われ、ボールは高く跳ね上がる。

ボールの落下地点ではルルプスとカーニーの2人が激しくポジション取りを繰り広げる。

落ちてきたボールを2人の右手が競り合う。

2人の手から何度かボールはこぼれ、4度目に落下してくるボールをキャッチしたのはカーニーだった。

カーニーはノーマークの状態でダンクシュートを決める。

「よくやった、いいぞルルプス!」

ベンチからロメロの声が飛ぶ。

「おしいおしい、ナイスプレーだ!ルルプス!」

コート上の柚垣もルルプスに温かい声をかける。

ルルプスも悔しさをにじませながらオフェンスに向かった。


シーサーズのオフェンスは外久保を中心にコートを広く使うと柚垣がシュートを放つ。

ガーン

さきほどの高地の時のリバウンドと同じような跳ね方をする。

落下地点での激しいポジション取りからボールを奪ったのはルルプスだった。

今度はフリーになったルルプスが豪快にダンクを決めた。

ピーーー!

審判の笛が鳴り、ルルプスは何が起こったかわらなかった。

「プッシング!」

カーニーとのポジション取りの中でルルプスが押したという判定だった。

ルルプスはなんとも言えない気持ちをこらえ、手を大きく一度叩くとディフェンスへと戻った。


2ピリオドに入り、ルルプスのプレーは確実に変わった。

しかし、それでもルルプスよりもカーニーの方が実力は上にいき、いまだにインサイドは鎌倉が支配する。

残り3分をきると24-44と20点差になっていた。

ピーーーー

オフィシャルからブザーが鳴り、ベンチから登場したのはロメロだった。

「ナイスプレーだ、ルルプス」

ルルプスとハイタッチを交わしたロメロは足の怪我が心配される中、コートに立った。


シーサーズのオフェンス、柚垣はボールを持つとロメロのスクリーンを要求する。

ロメロのスクリーンを使い、高地のマークを外すとリングに向けてドリブルで侵入し、シュートする。

だが横からはカーニーがブロックに飛んでくるのをみるとパスを出した。

スクリーンをかけてからインサイドに走り込んでいるロメロへとパスが通り、ロメロはゴール下シュートを放つ。

しかし逆サイドから剱田がブロックに来る。

剱田の臆することなく強引にシュートに行くと剱田は吹っ飛ばされた。

ピーーー

「ディフェンスファール!カウント!」

剱田を吹き飛ばし確実にゴール下シュートを決め、フリースローを貰う。

「おおぉぉぉ!昔は不仲だったコンビ!」

会場のファンは数年前まで柚垣とロメロが不仲だったことを誰もが知っていた。

その2人がこの舞台で素晴らしいコンビネーションを見せたことに会場が沸く。

フリースローラインに向かったロメロはリバウンド入った柚垣に他の人にはわからないような合図を送った。

審判からボールを受けたロメロはフリースローを放つ。

ガーン

リングに弾かれたボールは柚垣のもとに飛んでくる。

柚垣は相手ディフェンスと上手く体を入れ替えてリバウンドを奪うとジャンプシュートにいく。

これに反応した剱田がブロックに飛んでくるのをみると逆サイドの3ポイントラインで待っていた外久保にパス。

パスを受けた外久保は3ポイントを放つもシュートの軌道が明らかに外れていた。

外久保のシュートが空中に浮いている間に柚垣はロメロにマークのカーニーにスクリーンをかける。

カーニーはこれに気付かず綺麗にスクリーンにかかり、柚垣をマークしている高地もあまりに突然のことにスイッチできない。

フリースローラインから助走をつけると外久保のシュートを空中でキャッチし、ダンクシュートを決める。

「うううおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

ロメロと柚垣のコンビネーション、外久保のアリュープパス、ロメロの豪快ダンク。

シーサーズファンが沸き、スコアは28-44、たった20秒間で4点差を縮めた。

縮めただけでなく、チームに勢いをもたらした。

ロメロがコートに立ってからの3分、シーサーズは攻守が噛み合い、2ピリオドを終え、スコアは38-48と10点差まで縮めた。

ハーフタイムに入っても柚垣とロメロの不仲コンビ、また、それに外久保を加えた、ここ3年間で主力として戦ってきた3人の質の高いコンビネーションに熱気が冷めずにいた。

そんな中、会場にアナウンスが流れた。

「他会場の途中経過を報告いたします。小樽ユニコーンズvs岡山ビッグボーイズの試合は49-50、岡山ビッグボーイズのリードで前半を終えています」

「おおおおぉぉぉぉぉぉ!」

会場のアナウンスの一層、熱気が高まる。


そして、ハーフタイムを終え、ロッカールームから両チームの選手が出てくる。

3ピリオド開始時、シーサーズでコートに向かったのは外久保、柚垣、ロメロ、そして、若梅と閨のルーキーの2人だった。

また鎌倉サイドも前日、前々日同様に高地に代え赤瀬を投入した。

「若梅さん、先輩達ばかりに良いとこ取りされるの悔しくないですか?」

「チームが勝てばいい。試合に集中しろ、閨」

「へーい、わかりましたよ」

こうして、鎌倉10点リードで3ピリオドが始まった。

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