柚垣の怒り
オレンジシーサードームの外は大粒の雨が降っていた。
天気とは裏腹にドームには数多くのファンが詰めかけていた。
首位の鎌倉パープルソードを迎え、優勝をかけた天王山第1戦、沖縄県内では試合の様子が生中継された。
派手なスタメン発表を終えると大月と前堂の2人は固い握手をした。
「外久保、石井、柚垣、松本、ロメロ。ベンチにルルプス、閨、若梅。全員で勝ちにいくぞ」
「はい!」
大月はベンチから出て行く5人の背中に全てを託していた。
鎌倉のスタメンはお馴染みの吹春・中滝・剱田・高地、そして今季から加入したカーニー・ジョンソン。
センターサークルに入ったロメロは自分より5センチ高いカーニーを前にし、気持ちの高まりを抑えていた。
ポン!
ジャンプボールを制したのはカーニーだった。
カーニーの弾いたボールが中滝の手に収まると鎌倉は1度、5人全員がボールを触れるようにパスを回す。
再度、中滝にボールが戻ってくるとインサイドにいるカーニーにボールを入れた。
カーニーは背中でロメロを感じるとターンしてシュートし、これを沈めた。
昨年のルルプスとは異なり、カーニーは柔軟に日本のバスケット、しいては鎌倉のバスケットに対応していた。
シーサーズは外久保がボールを運ぶとことらも5人全員がボールに触れた。
回ってきたボールを受けた柚垣は高地のマークが甘いのを見るとジャンプシュートを放ち決める。
長年、チームに在籍し、人気のある柚垣の得点に会場が盛り上がる。
1ピリオドは両チームともにプレッシャーを感じつつもシュートを外さない展開が続いた。
22-22と同点で終えるスタメンの5人がベンチに帰ってくる。
「この状況の中、良いスタートだ。2ピリオドのスタートも同じメンバーで行くぞ」
「はい!」
大月の簡単な指示が終わると選手同士が試合について言葉を交わした。
中でもルルプスはロメロに英語で念入りにアドバイスをした。
2ピリオドも同じ展開が続き、残り7分で30-28、1ゴール差でリードしている展開で大月が動いた。
「閨、外久保と交代。ルルプスもロメロと交代だ」
鎌倉のシュートが外れ、ボールがラインの外に出るとオフィシャルからブザーが鳴り、2人がコートに入った。
シーサーズボールで試合が再開されると閨がボールを運んでくる。
パスを要求する柚垣の方を向きながら、閨はいきなりインサイドのルルプスにキラーパスを送る。
しかし、パスはルルプスの足元にいき、誰の手をに触れることもなくラインから出た。
「閨、落ち着けよ、大丈夫だ」
柚垣はルーキーの閨に落ち着きがないとみると声をかけた。
鎌倉は吹春がボールを運ぶと中滝にパス。
中滝はカーニーにスクリーンを要求、カーニーが中滝のマークの閨にスクリーンをかけると閨は簡単にかかる。
マークの閨を置き去りにして中滝は切り込んでシュートに行く。
これに反応したルルプスは中滝にシュートをブロックし、弾かれたボールは閨がキャッチした。
閨はすぐさまドリブルを始め、スピードで相手を置き去りにしていく。
閨の逆サイドには柚垣が走り込み、相手は吹春しかいなかった。
ドリブルからボールを持ち、柚垣へのパスフェイクからレイアップを狙うも吹春は完全にこれを読んでいた。
読んでいたというよりも吹春のプレーは閨にプレッシャーをかけ、柚垣にパスが回れば得点を決められてもよいというディフェンスだった。
だが突っ込んできた閨は両手を挙げ立っているだけの吹春のぶつかり、オフェンスファールを取られた。
「何やってんだ、閨!」
先ほどは優しく声をかけていた柚垣が声を張り上げた。
しかし、閨は柚垣の方を見ることなく下を向いたままディフェンスに戻る。
嫌な流れのまま閨はディフェンスに入った。
マークの中滝がボールを持つとシュートモーションに入る。
これをみた閨はブロックのために飛ぶも中滝を閨を交わし、3ポイントラインからシュート。
スパッ!
中滝に3ポイントシュートを決められ、スコアは30-31と逆転される。
オフィシャルからブザーが鳴り、外久保が閨と交代で出てきた。
閨はベンチに戻ると誰とも話すことなく椅子に座った。
外久保がリズムの良いパス展開から嫌なリズムを取り除く。
2ピリオドを45-47で終え、柚垣らのメンバーがベンチに戻ってくる。
「おい、閨。お前何を考えてんだ……」
「……」
「聞いてんのか?」
「……」
「おい!!」
柚垣は座っている椅子を倒し、閨の胸ぐらを掴んだ。
「わざとじゃないでしょ。放してくださいよ」
「ふざけんなよ!お前のせいでチームが負けるなんて、御免なんだよ!」
「いてぇな、放せよ!」
2人の間にロメロやルルプスが割り込み、なんとか2人の距離を開けるも柚垣の怒りが治まらない。
「お前に何がわかるんだ!今年から来た半人前のお前に、どういう気持ちでここまできたのかわかるか!」
今まで見たことがなかった柚垣の取りみだす姿にチームのメンバーだけでなく、会場のファンも言葉を失う。