ヘッドコーチ 大月若丸
3月某日、沖縄県内のとある1室に記者20名ほど、テレビカメラも5台が集まっていた。
「これから、GRADE=E、琉球シーサーズ、新ヘッドコーチの紹介を始めさせていただきます」
部屋のレンズ全てが新ヘッドコーチが入ってくるドアに向けられた。
「それでは、どうぞ」
司会者の合図から一呼吸おいて、1人の若き男が入室してきた。
カシャカシャ!カシャカシャ!
物凄いカメラのフラッシュの中を堂々歩く男の姿は、新品のスーツ……ではなく、かりゆしウェアにジーパンというラフな格好だった。
男が席に着くと少しづつフラッシュの数が減り、男がマイクに向かって話始めた。
「初めまして、今年より琉球シーサーズのヘッドコーチを務めさせていただく、大月若丸です」
大月が頭を下げると再度、多数のフラッシュがたかれた。
「それでは、大月監督に質問のある方は挙手で」
数名の記者が手を挙げ、そのうちの1人が会社名と名前を言った後に質問に入った。
「シーサーズについてどのような想いがございますか?」
「シーサーズといえば、初代優勝チームですからね。あれは、今から20年前でしたかね?幼いながらも鮮明に覚えてますよ。歴史のあるチームだと思っています」
「ここ20年で、シーサーズは<BLOB>日本支部の5部であるGRADE=Eまで落ちましたが、どうお考えですか?」
「20年もあればいろんなことが起きますよ、産まれた子が20歳になるんですからね」
「今、シーサーズでは選手間でいざこざが起きているようですが、その中心にいるロメロはやはり解雇するのでしょうか?」
「それは秘密ですよ。でも、ロメロは今、シーサーズのプレイヤーであるのは変わりませんよ」
「数日前、同じGRADE=Eの小樽ユニコーンズにも新監督として前堂監督が就任しましたが、何かありますか?」
「お互い頑張りますよ」
こうして、会見は終わった。
この会見中に少し不思議な事実が見つかった。
インターネットなどの情報源を最大に活用して大月のことを調べたが、何1つとして情報はなかった。
伝統あるチームに就く男だから、それなりに経験を積んでいる者だろうと記者達は思っていた。
「大月若丸、あの男は誰なんだ……?」
記者達の間で違和感を残し、大月は去って行った。