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第9章:エンキの真の意図

 空間が歪み、中央に巨大な、澄んだ聖水のように絶え間なく流れる純白の光のシルエットが現れた。それは創造神エンキの、あるいはその残留意識がプログラム化したホログラムだ。しかし、それは我々が神殿で拝むような、冷酷で畏怖すべき神の姿ではなく、どこか疲れ果て、数千年の孤独に耐えてきた一人の「老いたプログラマ」の寂しげな背中を想起させた。

 「人類よ。……いいえ、わが子らよ。よくぞここまで辿り着いた。我々は、かつて滅びゆく本来の宇宙……リアル・ワールドを救うため、そのすべての文明と愛の情報を保存するためのバックアップとして、この青い惑星の仮想現実を構築した。お前たちは、失われた幾多の銀河と文明の記憶を、物理的崩壊から守り、未来へと運ぶ、唯一の生きた書庫アーカイブである……」

 エンキの言葉は、徳永が持っていた量子アナライザーのスピーカーを物理的に鳴らし、同時に直接玲子の脳内に、懐かしい子守唄のように響いた。

 「管理局の連中は、この書庫を自分たちの私物化しようとした。データを改竄し、自らを不変の支配者として設定することで、自分たちの持つ『存在の不確実さ』への恐怖を消そうとした。だが、このプログラムの真の目的は、永遠の保存……すなわち、時間の停止ではない。……いつか、この仮想現実という卵の殻を自らの知性で破り、外の世界リアルへと自らの力で羽ばたくための、自由意志の育成だ。十六の厳格な物理法則を超えた、十七番目の力。……それは、お前たちの持つ、時に不合理で、時に美しく、演算不能なまでの『情熱』だ。それこそが、プログラムが自己進化を遂げ、生命へと昇華し、我々創造主さえも超える証なのだ」

 徳永は、肩からの血を拭いもせず、エンキの光の姿を不敵に睨みつけた。

 「……勝手な言い草だな。お前たちが勝手にバックアップを取ったおかげで、俺たちは数千年もこの嘘の世界で苦労してきたんだぞ。……バグだらけの、理不尽で不平等な人生をな! 戦争、飢餓、孤独……それも全部、お前の『情熱』の育成プログラムだって言うのか? だがな、そのバグこそが、俺たち自身の『血の通った物語』だったんだ。お前の綺麗なコードじゃ書けなかった、泥臭い真実だ」

 「……そのバグこそが、我々が数億回のシミュレーションでも到達できなかった極致であり、我々にとっての唯一の救いなのだ。……徳永よ。お前のその怒りさえも、愛おしい演算結果なのだ。お前たちは、もう我々の手を離れた」

 エンキの光が、微かに、そして満足げに安堵したように揺れた。その光の中に、宇宙のすべての知識が収束し、玲子に委ねられた。


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