第7章:歴史の改竄者たち
地下の遺構は、現代のコンクリート建築と、数千年前の未知の、鈍い黄金色を放つ高伝導性金属が高度に融合した、異様なサイバー・アキテクチャ空間だった。冷気の中に、何かが駆動する低い磁気ハミング音が充満しており、それは巨大なサーバー・ルームを想起させた。壁面には、アインシュタインやニコラ・テスラの未発表の、狂気じみた手書きのメモや複雑な回路図が、古代シュメールの楔形文字と共に、まるで最初から一つの設計図だったかのように整然と刻まれていた。それらは、万物を記述する一つの巨大な統一場理論、あるいは「世界のソースコード」を形成していた。
「テスラは気づいていたんだ。三、六、九の数字の並び……あれはこの世界の物理グリッド・システムを構成する基本定数であり、空間を定義する三次元の座標軸なんだよ。彼はこの淡路島の地下にある『アクセスポイント(コンソール)』に辿り着こうとした。そして、世界に無限のエネルギーを、つまり『管理局に制限されない自由な演算資源』を全人類に解放しようとした。そして、管理局の前身組織に消された。彼の功績は徹底的に改竄され、歴史の表舞台から『悲劇の変人発明家』という名の、情報的に隔離された牢獄へ追いやられたんだ。ニュートンも、ダ・ヴィンチも、このコードの一部に触れて、そして沈黙させられた」
徳永は、遺構の中枢にある、巨大な十六菊紋の形をした鏡面仕上げの、液体金属のような素材でできた巨大な円盤を指差した。その周囲には、巨大な水晶の結晶体が規則正しく林立し、内部から微かな脈動を伴う黄金の光を屈折させている。それは、世界の心臓部であった。
「ここに、その『バッグ(神匣)』を置け。そして、お前の手首にある、本物の『ロゼット』……つまり、その血脈に刻まれた暗号を翳すんだ。中尾玲子、お前はただの調査役じゃない。この『おのころ島』というシステムの中枢を最初に設計し、保守してきた一族の、直系のマスターキーを持っているんだよ。お前の家系が淡路の土を守り続けてきたのは、このサーバーの物理的な安全性を担保するためだったんだ」
「私が……? 嘘よ、私の実家はただの貧しい農家よ。玉ねぎを作って、神話なんて一言も聞いたことがないわ……。そんな重い責任、私には無理よ」
「淡路の土を耕し、地形という名の『データ構造』を維持してきた一族こそが、このサーバーの『物理レイヤー』を監視するハードウェア管理者だったんだよ。教育によってその記憶は消されても、お前の血の中には、システムの起動コードが残っている。それが、エンキの残した最大の防衛策だ。……さあ、急げ! 奴らが防壁を突破するぞ! 俺たちの物語を、あいつらに奪わせるな!」
背後で、巨大な爆発音が響いた。管理局の執行官たちが、遺構の重い石扉を、空間そのものを粒子レベルで融解させるサーマイト弾で焼き切って突入してきたのだ。激しい黄金色の火花が散り、地下の神聖な静寂が、無機質な暴力と命令系統によって打ち破られる。




