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オルテンシアの魔法博物館 〜出戻り魔法使い、博物館の経営始めます!〜  作者: 雪嶺さとり


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15/29

15.魔法使いのやり方で(1)

 企画展の準備は着々と進み、オルテンシアもシグルズも夜遅くまで残って作業するほど熱中していた。


「シクト・ミラ・イルーシオ――――」


 重い資材や手の届かない場所は、魔法で動かせば自力で終わらせられる。

 ケースの温湿度の管理も照度も、魔法を使って揃えればより正確にできた。


「なかなか器用だな。でも、それぐらい頼んでくれれば俺が手伝うんだが」


 ケースの照度を調節していれば、シグルズが横から声をかけてくれた。


「これでも、私も魔法使いですから。それに、魔法の方が正確にできるのでこれでいいんです」


 魔法があれば、細々とした作業も簡単に行え、時間を節約できる。

 作業が終われば、次は二つ目の展示室の飾り付けだ。

 こちらは夜の風景を再現するとあって、ケースの中に展示品を並べるだけでは完成しない。

 夜も遅い時間とあってか、照明を全て消すと真っ暗になってしまった。

 

「結構暗いですね……蓄光鉱物と植物、あとは……わっ」


 足元が見えないせいで何かにつまづいて、転びそうになる。

 が、床にぶつかることはなく、代わりにシグルズに抱きとめられていた。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……すみません」

「謝ることじゃないさ。怪我が無いならそれでいい」


 すぐにシグルズから離れると、照明を戻す。


「足元はもう少し明るくしておくべきでしたね」

「誘導になるような灯りを置いておくか。暗さももっと調節しよう」


 頷きながらも、まだオルテンシアの心臓はドキドキしていた。


「それじゃあ、鉱物をいくつか持ってきますね。収蔵庫にもあるんでしたっけ」

「ああ、だが重いだろう。俺も手伝う」

「魔法を使うのでいいですよ。他の作業を進めてもらって……」


 断ろうとしても、シグルズは引き下がらない。

 

「魔法だって魔力を消費すれば疲労に繋がるだろう。出来ないことは自分自身で補完させるだけじゃなくて、お互いで補い合うこともできる。そうだろ?」


 正論だ。

 先程もそうだったが、効率を重視するだけでなく、分担することも大切だと忘れていた。

 

「その通りです、これからはちゃんと頼るようにしますね」

「ならば良し」


 と、二人で収蔵庫に向かおうとすれば、その前に足元が聞こえてきた。


「おやおや、まだ灯りが付いていると思えば二人揃ってこんな時間まで残業ですか」

「エドアルドさん!」


 現れたのはエドアルドだった。

 エドアルドは腕に箱を抱えており、それを床に置くと蓋を開けてくれる。


「はいこれ、お姫様のご要望のものでございます」

「ふふ、なんです、それ。ありがとうございます。こんなに早く用意してくださるとは思いませんでした」

「あなたの望みならば、当然ですよ」


 中に詰まっていたのはランタンだ。

 店まで買い出しに行くより、エドアルドに調達させた方が早いとシグルズから言われて頼んだのだが、もう持ってきてくれるとは。

 

「急にランタンがたくさん欲しいなんて言われて、何をするつもりなのかと思えばそういうことでしたか。なるほど、なかなか思い切りましたね」

「シグルズさんはランタンを持って歩いたとの事だったので、同じようにそれを持って、夜空の下を歩くような気分を味わって欲しかったんです」


 擬似的なものでも、星空の下、輝く鉱石と花々が彩る湖畔を歩くなんてロマンチックな体験になるだろう。

 ノースレインの象徴である湖は持って来られないが、できる限りは再現したかった。


「星は幻影魔法で映し出して、ルートは一方通行にして展示物には触れないように仕切りを置くつもりです。ナイトミュージアムでもいいかなと思ったんですけど、そうすると門限のある学院の寮生は来られないと思ったので」


 現状について順に説明をすると、エドアルドはにこにこと頷いてくれた。

 

「計画書は読ませてもらいましたし、ある程度はイメージ出来ました。若者らしい柔軟な発想ですねぇ」

「何言ってるんですか、エドアルドさんだってそう変わらないでしょう」


 ご老人のようなことを言うものだから、思わずクスクス笑ってしまった。

 

「おや? お嬢様は嬉しいことを言ってくれますね」

「お姫様なのかお嬢様なのか、どちらかにしてくださいね」


 エドアルドはまだオルテンシアをからかうことに飽きないようだ。

 この前は子うさぎなんて呼ばれたから、それだけはありえないと言ってやったばかりだ。

 

「ずいぶんオルテンシアと仲が良いみたいだな」


 他愛もないやり取りのつもりだったが、シグルズの声が少し冷たく聞こえた。

 

「ええそうです。僕たち仲良しですから。ねー?」

「え? そうなんですか?」

「ちょっと、そこは疑問に思わないでくださいよ」


 そういえば、以前も似たようなやり取りをしたのを思い出す。

 あの時はエドアルドに自分以外の仲良しの相手が出来るのが嫌なのかと思っていたが、やはりそうなのかもしれない。

 

「シグルズさんったら、急にどうしたんです。あ、分かりました。心配しなくても、エドアルドさんを奪ったりしませんよ」

「そういうことじゃないし、そいつは俺のじゃない。そもそもいらない」


 何を言われても照れ隠しにしか聞こえない。

 エドアルドとの出会いについてしっかり聞いた後では尚更だ。

 

「なんなんですか、僕を挟んで痴話喧嘩なんて暑苦しいですね」

「喧嘩なんてしてませんよ」

「それはそうとあなたたち、いつまで残るつもりなんです。こんな時間じゃ外を出歩く人もいませんよ。心配なのでお姫様は僕が送っていきます」

「いえ、シグルズさんと一緒に帰るので大丈夫ですよ。隣の部屋にしたの、エドアルドさんじゃないですか」


 オルテンシアの言葉に、エドアルドは思い切り顔をしかめた。

 

「だ、そうだな。どうだ、悔しいか」


 なぜかシグルズは嬉しそうに胸を張っている。

 

「そうでした、忘れてました。では騎士の役目はお隣の狼に任せるしかありませんね。くれぐれも気をつけるんですよ」

「はい。転ばないように足元はしっかり見ます」


 二回も転ぶなんて失敗はしない。

 呆れ顔のエドアルドをよそに、オルテンシアは戸締りの確認に向かった。


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