研究室
扉を開き、研究室に入ったネラ達は、静かに足を止めた。
そこは、ただの質素な部屋。
中央に置かれた木製の机の上には、水晶の球体、古びた魔導書、錬金術のフラスコ、乾いたインクの瓶、古い羽ペン、そして赤く熟れた林檎が、無造作に並べられている。
しかし研究室と思えるような物はただそれだけ。
他に目立つものは、壁際に寄せられた二つの木製の本棚。
本棚は古書で埋め尽くされ、埃の匂いが微かに漂っていた。
男の肩の鳥が、首を傾げて小さな声で呟いた。
「研究室にしては小ぢんまりとした部屋だな」
ネラの赤い瞳が、わずかに揺れた。
ーーあの鳥は自ら喋るのか。
自分の意思を、はっきりと持っているようだ。
彼女は一瞬、息を止めた。
ここは、ただ自分の集中力を高めるための空間だ。
余計な装飾は、思考を散らすだけ。
この質素さが、彼女の頭の中を、純粋に保つための鎧だった。
ネラは右の本棚に近づき、一冊の本を取り出した。
魔法の書のページをめくりながら、静かに言葉を紡ぐ。
「全ての生命は『根源の力』から生まれる……その証明がここにあるわ。でも、理解できるかしら?」
ーー証明。
また一つ、嘘をついた。
本当の証明は、ここにはない。
全て、ネラの頭の中に存在する。
この本は、自分の頭の中を整理する為の道具に過ぎない。
床に散る木屑を吐くほうき、窓についた埃を拭く雑巾、地から生える雑草を刈り取るための鎌――それと同じだ。
男はネラを見つめたまま、穏やかに言った。
「とりあえず続けてくれ……」




