亡者
ウルフは顎に手を当て、考え始める。
解析が始まる。
「研究室が爆発って、大丈夫なのかよ……!?」
アルクが目を丸くして問いかける。
その声は、風のように軽やかではあるが、心配が滲んでいた。
「えぇ、爆発と言っても、小規模な物だったから心配ないわ。一部の本が焼けてしまったぐらいよ」
力ない声。
だが、ネラは優しい目をして、アルクに答えた。
「価値ある本だったんじゃねぇの?」
アルクの心配は続く。
ネラは小さく首を振る。
彼女にとっての、問題は本を失った事ではない。
本の知識は頭の中に入っているのだから、使う必要はない。失っても構わないのだ。
問題は『失敗』が研究室で起こってしまった事。
ネラにとっての研究室とは神聖な空間。
極限までに集中力を高めれる空間ではあらねばならない。
そこに混ざり込んでしまった、爆発という失敗という記憶。
何かが足りていない。
また同じ事が繰り返されるかもしれない。
やはり、この道は禁じられた道。
そのような考えが頭をよぎってしまう。
まるで亡者の言葉。
彼女の研究室に、目に見えない亡者達の群れが侵入してしまったのだ。
それがネラを苦しめていた。
メイニヤックが静かにネラの足元に寄る。
そしてゆっくりと頭を下げ、ネラの手に鼻を寄せる。
ネラは腰を屈めて、メイニヤックの頭を撫でた。
その手は、優しく、しかし微かに震えていた。
「大丈夫よ。本の内容は理解していたから」
ネラはアルクに微笑みかける。
だがその笑みは、しかしどこか儚げだった。




