くるみ
静かに感じたままの事を、ネラは言葉に変えた。
「あの動きは、私の持つ魂の動きのイメージにかなり近いわ。目に見える形で理解出来たわ。」
ウルフは言葉を発しない。ただ、見つめ返すだけ。
そして口角がゆっくりと上がっていく。
それは朝の光に溶ける霧のように、静かで、しかし確かな微笑みだった。
彼は無言で指を立て、木漏れ日の揺らぎのように静かに二、三度手招きする。
「おう!」
空に声が響く。
森の静寂を優しく裂くような、風を呼び起こすように広がるような一言。
そして日の元に誘われるアルク。
自由をやめて、再びウルフの肩へと止まった。
湖の水面が微かに波立ち、木々の葉が優しくざわめく。
霧が薄れ、陽光が湖畔の苔に細かな光の粒を散らす。
小鳥の羽音が遠ざかり、静けさが再び戻る。
しかし、その静けさは、先程までとは違う。
どこか温かく、柔らかな余韻を残していた。
「何か参考になったか!?」
アルクは首を小刻みに左右に振りながら問いかける。
その仕草は、どこか楽しげだ。
ーー意地悪な子。
ネラは笑いそうな想いを堪える。
わかっているわよね?
その顔は、もう参考になっていると、知ってるでしょう?
「アルク、ありがとう。美味しいくるみがあるの。後で渡すわ」
ネラは穏やかな笑みを作りながらアルクに言った。
「いいのかよ。それも研究道具じゃねぇのか……?」
アルクが答える。
どこかからかうような響きを帯びていた軽やかな事。
だけど、気遣ってくれている。
ーーもうダメだ。
彼は本当に自由すぎる。
ネラは再び笑みを浮かべながら言う。
「心を落ち着かせるだけのくるみよ。研究道具ではないわ。」
魔女の仮面が小さくひび割れる。
だが、それは不思議と不快には感じない。
小さなひびから、温かな風が吹き込み、胸の奥を優しく撫でる。




