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ネラ物語〜深き森にて、禁忌を求める孤高の魔女〜  作者: 星狼
〜森の魔女〜

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2/17

最初の交換

森の空気は、互いの言葉が落ちるたびに微かに重みを増していた。

木漏れ日が二人の間に細く差し込み、ネラの赤い瞳に淡い光の粒を散らす。彼女は魔法の書を膝に置き、静かに男の言葉を待っていた。心の奥底で、何かがゆっくりと息を吹き返し始めている――それは、長い沈黙の後に訪れる、予期せぬ波のように。


男は肩を軽く回し、黒犬の首筋を指でなぞった。

「まぁ、最初はそれぞれがどんな魔術が使えるかの紹介からでいいだろう。気に入ったもんがあればソレの生成プロセスを伝えればいいだろ?」


ネラの赤い瞳が、好奇心の炎を宿して輝いた。

「私の魔術は……生命を操る術よ。失われた命を再生させることもできる。あなたの番ね?」


その言葉を口にした瞬間、ネラの胸に小さな疼きが生まれた。

自分の研究――死者を蘇らせる禁忌の核心――を、こんなにも簡単に明かしてしまった。だが、男の瞳に映るのは、ただの好奇心ではない。何か、もっと深いものを測っているような視線。

彼女は無意識に息を整えた。この男は、自分の言葉の重みを、どれほど理解しているのだろうか。


男は少し間を置いて、口元を緩めた。

「なかなか興味があるが保留にしておこうか、俺は召喚魔法が得意だ。この犬はメイニヤック。俺が作り出した召喚獣だ。まぁ、とりあえずはここまでだ」


保留。

その一言が、ネラの心に小さな棘のように刺さった。

生命を操る術――それは、彼女にとって最も価値ある知識の核だ。普通の人げならば、誰しもが食いつき、もっと深く掘り下げようとするはずのもの。なのに、この男は「保留」と言い切った。

まるで、自分の持つ価値をわかっていながら、慎重に選んでいるかのように。

ネラの胸に、微かな興奮と警戒が混じり合う。

この男は、ただの旅人ではない。自分の言葉を、軽々しく扱わない。

価値を測り、選ぶ――それが、どれほど危険で、どれほど魅力的なことか。


彼女は視線をメイニヤックに移した。黒い巨体が、静かに息を潜めている。普通の召喚獣とは違う。

何かが、違う。

「召喚魔法……生命を紡ぐ術とは違う形の魔力ね。その犬、もう少し近くで見せてくれない?」


メイニヤックが、まるで言葉を理解したかのように、一歩自ら近づいてきた。

黒い毛並みが、光を受けて微かに揺れる。ネラの瞳が細まり、魔力の流れを追う。

確かに違う。生命を「紡ぐ」のではなく、「生み出す」――いや、それ以上の何か。

この召喚獣は、ただの道具ではない。意志がある。自由がある。

ネラの心に、さらなる波紋が広がった。


男がニヤリと笑い、軽く手を上げた。

「まだ、解析するのはなしだぞ? ソイツはルール違反だ」


その言葉に、ネラの唇がわずかに尖った。

だが、同時に胸の奥の何かが確信に変わる。

保留。ルール。この男の抜け目のなさは、先ほどの感じたものを、再び証明した。

ただの男ではない。

このやり取りは、ただの会話ではない。互いの知識を、互いの価値を、慎重に量り合う儀式だ。

それなのに、不思議と心地よい。

ネラは小さく息を吐き、唇を緩めた。

「あら……でも約束は約束ね。召喚獣の魔力、遠くからでも感じ取れるわ……興味深いわ」


彼女の声には、わずかな甘さが混じっていた。

この男との言葉のやり取りが、森の孤独を、ほんの少しだけ溶かしている。

禁忌の研究に閉じこもっていた日々が、初めて外の風に触れたような感覚。

ネラは静かに思った――この交換は、きっと、ただの知識のり取りで終わらない。


男は軽く肩をすくめ、視線を彼女に戻した。

「よし、次行こうか。あんたは他にどういった魔術を使える?」


森の葉ずれが、二人の間に静かに落ちる。

言葉はまだ、始まったばかりだった。

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