闇の泉
「そして、もう一つは……」
「待って、ウルフ。それは違っているわ。」
言葉を続けようとするウルフ。
だが、ネラはそれを咎める。
ハッキリとした否定で。
湖のほとりの風が、彼女の髪を軽く揺らす。
水面が微かに波立ち、朝日の光を散らす。
ネラの声は静かだが、確かだった。
その道の先には根源の力はない。
辿り着くのは、無数の毒蜘蛛が住む洞窟だろう。
それは『感覚』で確信している。
ーーだから、その感覚を探ろう。
より、泉の深い場所へ。
この闇の泉の深くへと潜り込もう。
「……聞こう」
ウルフはネラを見つめながら、ただ待つ。
彼の瞳は、静かに、しかし熱を帯びて彼女を捉えていた。
メイニヤックが低く鼻を鳴らし、アルクが肩で羽を震わせる。
森の木々も、葉ずれを立てて静かに耳を傾ける。
確かに、自分の心の奥底には『反骨心』という感情はある。
だけど、私にその感覚はない。
私は孤独な魔女だから。
誰かに反骨するのではなく、ただただ真理に辿り着く為に歩んでいるだけだ。
ーー深く、より深く。
反骨心を持っているのはウルフだ。
彼は学会の人間への反骨心が原動力になっている。
それが彼の生き様。
でも、私は違う。
私は反骨心ではない。
ーーより、深く潜り込んでいく。
隠れていた毒蜘蛛が呼吸を失い命を落とす。
ネラの胸の奥で、何かが静かに切れる音がした。
それは、細い糸が切れる音。
絡みついていた冷たい毒が、ゆっくりと溶けていく。




